表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女と二代目。  作者: ささかま 02
【ブルー編】なべて茶店はこともなし
PR
77/120

36 私の行く未知。

七海視点


 魔法少女になるまで、私は多分どこにでもいる普通の子だった。

 勉強はそれなりにできた方だけど、体育は普通。授業の範囲では体を動かすけど、それ以外では積極的に運動をするわけではなく。戦うなんてもってのほか。


 無言のまま、二人分の息遣いと、剣のぶつかり合う音だけがする。剣同士の鍔迫り合いをして、ぎちぎちと鈍い音を立てる。

 細い、針のようなニクスの剣と、私の薄くて平たい剣がぶつかり合う。多分、剣の形によっても向いている戦い方があるんだろうけど、そんなの知らないし、わからない。思うままに振るうしかない。


 ニクス、ヨルさんは夏の嵐のような人だ。こういう人を、愛に生きた女と呼ぶんだろう。大嫌いで、大好きな私の憧れの人。

 絶対越えたい。彼女のようにはなれないけど、私は私の願う形で、愛を貫くと決めたんだ。


 ヨルさんはプルートのボスであるクライドを愛している。

 クライドが命を懸けてプルートを守ろうとしていることを肯定し、彼の悲願に協力するために調査探索要員として、人間に擬態してイノセントジュエルを探していた。

 だから強いんだ。誰かのために、愛する人のために自分のすべてを懸けられるから。


「まだ、こんなものじゃないでしょう?」

「このっ」


 剣を振るう。水のような青い剣戟を放つ。軽々とヨルさんに避けられて苛立ちと焦りが沸き立つ。

 折角。折角ヨルさんが全力でぶつかって来てくれているのに、こんなに、ちっとも手が届かないまま終わるなんて嫌!


 ぐっと剣の柄を握り込む。息が切れてくる。胸が熱くなる。

 不意に、腰にぶら下げていたプリズムパクトが輝き始めた。


「あれが、イノセントジュエル……」


 溢れた光の中に、イノセントジュエルが現れる。注がれる光に、力が湧いてくる。

 あぁ。これから行うのは、無垢な行いなんかじゃない。もっと利己的で、我儘で、どうしようもない思いの成れの果て。

 イノセントジュエルの本来の使い方ではない、ただ力のリソースとしての使い方。


「いくよ、ヨルさん。全部、ぶつけるから」

「はぁ。いいわよ、来なさい、ナナミ」


 溢れ出した光を、剣に纏わせて。

 多分、カロンと戦った時のさくらもこんな気持ちだったんだろう。

 これで終わり。これで良かったのか。迷いはある。でも、止まらない。止まるべきではない。だから全部呑み込んで、全部ぶつけるしかない。


「イノセントウェーブ!」


 スプラッシュエッジに乗せた光を、剣戟としてヨルさんに向かって放つ。真っ直ぐに、振り下ろした剣戟の先にヨルさんを見た。

 放たれた光の剣戟は距離を追うごとに強い輝きを灯して、視界を白く染め上げる。


 数拍、まるで音すら消えたような間があって、光が消える。自分で放ったものなのに、少し目がチカチカした。

 ぐっと落ちそうになる瞼と、切れ切れな呼吸をこらえて正面を向く。剣を支えにして、膝をついているヨルさんがいた。肩で息をしていて、今にも崩れそうなその姿に、息を呑む。


「ちゃんと、受け止めてやったわよ。アンタの気持ち」


 黒いリップの乗った唇が弧を描いた。

 乱れ髪がはらりとヨルさんの顔の前に落ちる。

 勝ったのだと、思った。別に嬉しくはなかった。でも、やらなきゃいけなかった。


「いい顔になったじゃない」

「どんな顔してるか、自分じゃわかんないです」

「ちゃんと覚悟できてる顔」


 ヨルさんが笑う。

 静一さんの入れたコーヒーを見つめる時のような、私の好きな顔で。


「しっかりやりなさい。セーイチ、いつも頭で考えるだけで、言葉にできない奴だから。アンタが引っ張ってやるのよ」


 覚悟って、私、ヨルさんと別れる覚悟なんてできてないよ。

 まだ一緒にいてよ。紬で、一緒にコーヒーを飲んで、話をして、相談にも乗って。時々なら、ちょっとくらいなら、また意地悪してもいいから。嫌だ。行かないで。

 そんなこと、言えなかった。


「じゃあね、ナナミ。アンタと一緒にバカやるの、悪くなかったわ」

「うん。うん! 私も、嫌いじゃなかったよ!」

「……クライド、先に行って待ってる」


 それだけを残してゆっくりと、黒い塵のようなものになってヨルさんが消えて行く。手を、伸ばせなかった。それでも必死に、笑顔を作った。笑っていたかった。だって、好きだったから。みっともない顔で、お別れしたくなかった。

 さくらや梨穂のように、敵ともわかり合えるって本気で信じたかった。でもお互いに譲れないものがあった。


 愛した人の願いのためにヨルさんは死んで、愛した人と一緒に生きたいと私は願った。

 相容れない人だった。でも大好きだった。わかり合えなくても、多分、お互いの気持ちを認め合うことはできた。


 ニクスを倒してしまった以上、私はヨルさんの想いも背負って生きなければならない。

 愛のために死んだヨルさんを否定してしまったのだから、愛のために生きないといけない。私はもう、誰にも負けられない。静一さんへの気持ちを誇れるように。ヨルさんの思いに報いるために。


 崩れそうになる膝を必死に立てて空を見上げた。

 まだ空は、暗いままだった。



ニクス戦、了


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ