31 眩しすぎて眩暈がしそう
「つまり、今街で暴れている怪物はそのイノセントジュエルを探していて、七海ちゃんは街を守る魔法少女なんだ?」
「そうなノ!」
それはもうにっこりと。俺の混乱なんて知らん顔してウサギのぬいぐるみは、ダイヤモンドのようなそれを掲げながら元気のいい返事と笑顔を見せてくれた。
正直信じがたいのだが、目の前でどう見てもぬいぐるみにしか見えないウサギが浮いたり話したりしており、しかも内容がそれなりに真面目なのがさらに混乱を呼んでいる。七海ちゃんがぎこちない表情をしているのがまた、何とも言えない気分になった。
正直、何がどうしてこうなったんだと頭を抱えている。唯一確かだと言えるのは、紬が普段から客の入らない店で良かったということぐらいか。
出なければ突然店に飾ってある写真が光り出したり、ウサギのぬいぐるみが話をしている状況をどう人に説明したらいいのかわからない。
「すみません。その、騙すつもりはなかったんですけど、言い出しにくくて」
「いや、まぁ俺も、いきなり魔法少女だとか言われても信じられなかったと思うし」
なんだってそんなことになっているんだ。え? よくわかっていないんだが、魔法少女ってあれなんだろ? 頻繁にこの街に現れては街を壊して回っている怪物と戦っているっていう。
そういう存在がいると情報としては知っていたが、まさかこんなに身近な存在だとは思いもしなかった。これが、世の中から目を逸らし続けた弊害かぁ。
「それで、イノセントジュエルって結局何なんだ?」
「無垢なるものの結晶ヨ。巨大な力を秘めていて、その力は奇跡を起こすとも言われているワ」
「奇跡、ねぇ。なんでそんなものが紬に」
「ンー。色々あるのだろうけど、多分縁ヨ! あなたが紬の孫だったから、紬が静一とイノセントジュエルを守ってくれていたんだワ!」
縁、と言われましても。
物心つく前に亡くなった祖母が、七海ちゃんの前の魔法少女。確かにそういわれると、ある意味縁はあるのかもしれないが。
「ワタシは先代の魔法少女を知らないけど、きっとそう。そして、守っていたあなたが変わった。その結果、イノセントジュエルはこの場所からはじき出された」
「変わった……」
「純粋さと愛って、相いれないものなノ」
先ほどのような光は放たなくなったものの、照明を反射してキラキラと輝くイノセントジュエルとやらを抱え、ウサギのぬいぐるみは言った。
何とも含みのある言い方だなぁ。まぁ、わからなくもないが。
ウサギの言う通り祖母が俺やこの店を守ろうとしてくれていたのなら、多分慈しみとか、慈悲とか。それこそ無垢だとか純粋さと呼ばれる感情を向けられていたのだろう。
そしてこの場にあったイノセントジュエルがはじき出されたのは、紬にその純粋さが無くなったから。多分、俺が、原因……か?
「あの、チュチュも話していましたけど。バイデントたちはそのイノセントジュエルを探しているんです。ここにあるのがばれると、静一さんも襲われちゃうかもしれない。だから……」
「あー、待って。うん、大丈夫。渡すのは多分問題ない」
渡すのは問題ないんだ。
でも、街に来る怪物たちはこれを探しているんだろ? じゃあこれを持っていたら七海ちゃんが怪物に襲われるんじゃないか?
「一つ聞かせてほしいんだが、これを渡したら七海ちゃんが危ない目に遭ったりしない?」
「そうネ。イノセントジュエルが見つかったとなれば、きっとバイデントたちが襲ってくるワ」
「なら」
「でも対抗する術はあるノ。二つの世界を救うことは出来なくても、力の源として利用することはできるワ。つまりプリズムトリニティの力がパワーアップできるノ!」
だから大丈夫! っと、ウサギのぬいぐるみがウインクする。何も大丈夫ではないんだが?
イノセントジュエルの力は無限ではないのなら、その方法にだって上限があるんじゃないのか?
「静一さん、私なら大丈夫です」
「でもさ」
「他のプリズムトリニティの子たちとも話し合ったんです。この世界も、プルート、バイデントたちの住んでいる世界も救いたいって。それに、一応話ができるバイデントもいるんですよ?」
七海ちゃんが俺を見つめて笑う。随分と、真っ直ぐな目だな。
俺は七海ちゃんに平和に笑って暮らしていてほしいんだが。なんだってこんなことに巻き込まれているんだ。
少しだけ考えるそぶりをした七海ちゃんが、覚悟を決めた表情で口を開く。
「その話ができるバイデント、ニクスっていうんですけど。ヨルさんなんです」
「……は?」
「今にも滅びそうな故郷に、紬のような場所を作りたいって言っていました」
あぁ、本当に。今日は今まで目を逸らし続けてきた分を取り返すかのように、色んなことを知る日だな。知れてよかったような、知りたくなかったような。
でもそうか。だから、ヨルは事情が変わったと。街を壊す怪物の仲間だったから、もう紬に来ないと言ったのか。
「黙っていてごめんなさい。でも! 騙すつもりとかじゃなくて、私も、ヨルさんも! 本当に紬のことが好きで!」
「大丈夫。うん、わかってる。ちょっと色々ありすぎてうまい言葉が出てこないけど、ちゃんと伝わってるよ」
二人が、俺の店を拠り所にしてくれていたのは充分すぎるくらい伝わっている。
ただまぁ、一度に色々知りすぎて理解が追いつかないだけだ。なんで七海ちゃんだったのかとか、そもそもこのウサギのぬいぐるみは何なのかとか。根本的にわからないことだらけだ。
「これがあれば、七海ちゃんの願いは叶う?」
「なくても叶えるよ。ちゃんとヨルさんを捕まえて、私が納得できるまで全力でぶつかってくる」
「……ふ、そっか。わかった。じゃあ、ヨルによろしくね」
「うん!」
何とも頼もしい限りだ。俺があれこれ悩む必要もないくらい真っ直ぐで、カッコイイ。
こんな子と、好きあっているんだなぁ。なんて、現実逃避のように考える。かっこよすぎて、またキラキラ光って見えてきた。
……、いや待て。また光ってないか?
「今度は何!?」
「バイデントが出たみたいだワ」
話が一段落したと思ったら今度は七海ちゃんのカバンが光っていて。それに驚くことなく七海ちゃんはカバンの中から光を放つ手のひらサイズの何かを取り出す。
怪物が出たって、それじゃあ。ウサギのぬいぐるみと共に紬を飛び出そうとする七海ちゃんに慌てて声をかける。
「気を付けて!」
「うん! 行ってきます!」
くるりと振り返った七海ちゃんは、俺が思っていた以上に色んなことを抱えていて。
世界は目まぐるしいんだ、なんて。
バカみたいなことを考えていた。




