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【三部連載中】魔法少女と二代目。  作者: ささかま 02
【ブルー編】なべて茶店はこともなし
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29 晴れてしまったのなら仕方がない


「ならこれからは、私と来てくれますか?」


 七海ちゃんが真剣な顔で、俺を見た。

 三が日を過ぎて人のいない神社はひっそりとしていて、彼女の声がやけに響く。冷え切った空気は喉を刺すのを感じながら、なんと答えようかと二人分の息遣いに耳を傾けた。


「私、そんなにいい子じゃないけど待てはできます」

「……七海ちゃん」

「静一さんが私のことが嫌いで、顔も見たくないっていうのなら、少し悲しいけど、諦めます」


 このまま、何事もなくお参りして解散するのも一つの手だと思っていたんだがな。緩急がしっかりしている。これが最近の女子高生の駆け引きか、なんて馬鹿なことを考える。

 不安そうな、けれど真っ直ぐな目をした七海ちゃんになんと答えるべきか。生憎とっくの昔に、彼女のような真っ直ぐさは何処かに置いてきてしまったんだ。


「そういう問題じゃなくて、その。なんだ……」


 ぐだぐだとまとまらない音の羅列を並べては言いよどむ。応えは、もう見つかっている。あとはそれを言葉にするだけ。たったそれだけが、酷く難しい。

 多分。いや、恐らく。俺は彼女が好きなんだろう。


 年下のお嬢さんに言われた後で思い至る自分に情けなさはあるが、この気持ちはきっとそういうことだ。

 ヨルに向けていた気持ちとはまた違う。あれはどちらかというと、自由さへの憧れのようなものだった。

 この気持ちの違いは酷く単純なもので。見ているだけでよかった存在なのか、この手で触れたい存在かということ。


「七海ちゃんの気持ちは嬉しい。でも俺は君が思うほど大人じゃないし、しっかりもしていない。何様だって話なんだけど、俺は七海ちゃんには笑っていてほしいんだよ。でもきっと俺じゃダメなんだよ」


 触れたいとは思う。

 でも同時に、その眩しさが曇らないでいてほしいとも。


「だからごめん。君に理由があるわけじゃない。これは全部、俺の弱さが原因だから」


 誰かを好きになるよりも、憧れの方がずっと楽だ。ただ一方的に、勝手に思いを巡らせながら、眺めるだけでいい。

 でも好きになるのはダメだ。欲が出る。この手で触れて、相手の意志とは無関係に遠くに行かないように囲いたくなる。

 だから、そうならないように。これで良かったんだ。


「この前も言いましたけど、私は静一さんが好きで、静一さんがいいんです」


 そんな俺の考えを、七海ちゃんはいつだって簡単に切り捨てる。


「静一さんと、一緒に居たいんです」

「一緒にいるだけなら、今まで通り友達でも──」

「ダメ。私はもっとあなたの近くに行きたい」


 呆気にとられている間に、空色の手袋で手を握られた。

 柔らかい生地に包まれた手が俺を包み込む。


「ごめんね。私、静一さんのことになるといい子じゃいられなくなるの」


 にっこりと、眩しいくらいに笑って七海ちゃんが言った。

 それは、なんというか、困る。俺は七海ちゃんに笑っていてほしくて、でも俺自身が彼女を笑顔にできる自信はなくて。もっとちゃんとしたいい奴を探した方が、きっと幸せになれる。


「あの、七海ちゃん」

「嫌いって言われるまで諦めないので。それに気持ちは嬉しいって言ってくれましたよね?」

「あー、その」


 本当に困るんだよ、

 そういうの。嫌じゃないから余計に困る。


「いい女は逃げないものですから。ちゃんと伝わるまで、私は私の好きを貫き通しますので」

「それは、ズルいでしょ」

「ふふ、ヨルさんは私にとっても憧れの人でしたから」


 楽しげに笑う七海ちゃんに、俺はどうにかならないだろうかと考える。だが、こうなった彼女が簡単には折れてくれないだろう。ヨルの言葉をなぞっているのなら、なおのこと。

 ヨルは……まぁ、うん。いつだったかそんな言葉を言っていた。いい女がどうの、いい男がどうの。どうしてこう、俺とは全然違う、真っ直ぐな女性ばかりが揃って紬に通うようになったのか。


「それに。年齢が問題じゃないなら、まだ好きでいていいよね」


 あぁなるほど。年齢をだしにすればよかったのか。確かに十六の七海ちゃんから見れば二十四なんておじさんにしか見えないかもしれない。

 おじさん……。自分で自分の言葉を反芻して、少し凹むが、五つも離れていればそんなものだろう。

 苦いものを噛み締めていると、不意に七海ちゃんが自分のカバンを気にして呟いた。


「時間切れ、か」

「え?」

「ううん、何でもない。ちょっと用事ができちゃったからもう行きますね」


 俺に背を向けて七海ちゃんが走りだす。寒空に、手袋の色がよく馴染んだ。

 引き留める暇もなく一気に鳥居のところまで走り切った七海ちゃんがくるりと振り返る。こちらへ向けて、大きく手を振った。


「一緒に初詣来てくれてありがとう! プレゼントも! 嬉しかった!」


 随分と、まぁ。結局、思っていることの半分も言えていないし、何なら言ったものも受け入れてもらえなかった。

 俺としては非常に困った事態であるにも関わらず、本当に困ったことに心の奥底で喜んでいる自分がいる。

 これを受け入れてしまったら、完全に俺は今までの安寧には戻れない。ヨルに自分自身の目で見て向き合えと言われたように、七海ちゃんにも逃がさないと言われてしまった。


 ああくそ、本当に。

 困ったなぁ。




逃げ腰男と、逃がさねぇ女

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