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魔法少女と二代目。  作者: ささかま 02
【ブルー編】なべて茶店はこともなし
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23 日常の続き


 正直、うっすらとは感じていたが、改めて、自分は恵まれた環境にいるんだなと思い至った。

 ろくに働かずとも生活に困らない環境にいて、多くの人が傷付く世界で、自分だけが傷付かずにすむ環境にいる。


 多くのものを失って、そうして得た閉塞的な楽園とでも言うべきか。

 それが、ヨルがいなくなってしまったことで均衡が崩れてしまったように感じる。とは言え相変わらず紬の周りには怪物は来ないし、俺の世界に怪物は関わってこないけど、決定的に何かがわかってしまった。


 すっかり静かになった紬に二人分の息遣いが響く。ひやりとする空気に暖房を入れる日が増えた喫茶店は、相変わらず客足が少なく閑古鳥が鳴いている。

 コーヒーから昇る湯気は白く、暖かいのにどこか寒い。


 そんな中でも変わらず会いに来てくれる七海ちゃんと、カウンターを挟んで取り留めのない話をする。

 年上として情けないが、気を遣わせてしまっている自覚はある。本来なら俺が気遣う方の立場なんだがな。


「ねぇ七海ちゃん。来てくれるのは嬉しいんだけど、ムリしてないかな?」

「え。迷惑、でしたか?」

「いや、そんなことないよ。ただ七海ちゃんは学生さんだし、友達との付き合いもあるだろうから、無視して俺に会いに来なくてもいいんだよ?」


 どうせ俺はここに引きこもっているだけなんだし、金銭的にも心身的にも無理をして俺に構いにくる必要はないんだよ。

 今までだって人が来なくても、紬でコーヒー飲みながら電子書籍を読んでいるだけだった。それに紬の経営費も俺の生活費も、スーパーマーケットに貸している土地代で十分賄える。

 だから、わざわざ俺のために時間を割いてもらうのも悪いというか。とにかく。自分の心身の健康を最優先にしてほしい。俺はまぁ、時間が解決してくれるっていうのを知っているし時間だけは無駄にあるからいいんだよ。


「来ますよ」


 七海ちゃんが、少し怒ったような声で言った。


「私、ヨルさんも好きだったけど、静一さんのことも好きなので。いくらでも会いに来ます」


 真っ直ぐ、カウンター越しに俺を見上げた七海ちゃんが、はっきりと言い切った。

 その表情があまりにも真剣で、思わず気圧されて。つい並べ立てようと準備していた言い訳染みた理由の数々も、喉の奥へと引っ込んでしまった。


「そ、そう。ありがとう」

「……はい! 友達、ですから!」

「うん、そうだね。友達だもんね」


 これは、感情の扱い方の違いだろうか。きっと七海ちゃんは、たとえどんなことであっても向き合える強い子なんだ。決して俺のように、見ないふりをしてやり過ごしたりはしない。

 だから、ヨルの話題を避けようとする俺にだって平気で切り込んでくるし、その手の話題から逃がしてはくれない。


 俺にとってのヨルは奇妙な友人だった。大切な、友人で。そして、とても眩しい、憧れの人だった。

 七海ちゃんの座る椅子の一つ隣を見る。ぽっかりと空いた空席があった。今にもけたたましくドアベルを鳴らして入ってきたヨルが、七海ちゃんに体をぶつけるようにして隣に座りそうだが、決してそんなことは起こらない。


「ちょっと待っててね」


 ぐっと込み上げてくる何かを押さえつけてキッチンへ戻る。ヨルにもちゃんと自分の目で見ろと言われたことだし、現実を受け入れるべきだ。何より、俺を友達だと言ってくれた七海ちゃんに失礼だ。

 無造作に開けた冷蔵庫には、時々奥さんが買い物に行っている間紬で休んでいる保志さんがくれたキウイフルーツが二つ転がっている。


 取り出した皿の上にキウイフルーツの皮を向いて、フォークを添える。お詫びにもならないが、せめてこれくらいは。

 そっとお皿をカウンターの向こうにいる七海ちゃんに差し出せば、彼女は目を丸くして笑った。


「時々、果物を貰うんだけどさ、一人じゃ食べないし手伝ってほしいな。友達のよしみで」

「ふふ、いいですよ。実は私、果物大好きなんです」


 可笑しそうに笑う七海ちゃんに、そっと胸を撫で下ろす。何があっても変わらず日々は続いていく。

 その中で、こうして穏やかに過ごすのが今俺にできる唯一の日常だ。


 ヨルに言われた言葉もある。本当にこのままでいいのかという思いも。

 でもだからといって、今更どうすればいいのかもわからない。今までずっとこうして、紬に引きこもってやり過ごしてきたんだ。世界で起こっていることも、俺自身の感情も。今更やり過ごす以外の方法で、どうやって処理をすればいい?


 俺はただ、平穏にひっそりと暮らしていられたらそれでいいんだよ。

 派手な出来事はいらない。別に旅行や、散財がしたいわけでもない。ただこうして紬でひっそりと、凪のように静かな時間を過ごしていられたらそれでいい。

 そうして時々、触れられなくてもいいから、眩しいものを遠目に見られたらそれで。


 すっかりミルクと混ざって柔らかい色合いになったコーヒーを飲みながら、七海ちゃんが俺を不思議そうに見上げた。

 このまま日常の続きを夢見ていたい。

 たったそれだけの願いを叶えるには、どうしたらいいんだろうね。



欠けた日常の先にあるのは。


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