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魔法少女と二代目。  作者: ささかま 02
【ブルー編】なべて茶店はこともなし
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22 陽光


 「明けない夜はない」なんて使い古されたフレーズがある通り、どんなことがあろうと時間というのは等速で必ず朝が来る。そして朝が来ると、目が覚めて、日常を過ごすのが人間だ。

 俺もその内の一人にすぎず、ヨルが紬に来なくなろうとも日々は変わらず続いていく。


 ヨルが来る前に戻っただけなのに、どうにも前のようにはいかない。彼女が紬に顔を出していたのなんてたった半年ほどのはずなのに。喪失はいつだって耐え難い。両親の時も、祖父の時もそうだった。

 だからもう何も失わないように、自分の中に閉じこもって大切な物も何も作らないようにしていたはずなのに。


 カラコロとドアベルが鳴り、思考を放棄する。

 入口を見れば七海ちゃんがいて。気取られないように深呼吸をして、笑顔を作る。正直、ちゃんと笑えているかはわからない。


「いらっしゃい、七海ちゃん。コーヒーでいい?」

「こんにちは。お願いしますね」


 いつものように声をかけて準備に取り掛かる。コンロに火をかけて、お湯が沸くまでにミルで豆を挽いて。

 少し前までアイスコーヒーばかり飲んでいたのに、最近はめっきり肌寒くなってきて冷凍庫の氷の出番もなくなってきた。今年もあと二ヵ月か。


「最近寒くなったね」

「日中は日差しがある分暖かいんですけど、風が吹くとどうしても室内が恋しくなっちゃいますね」


 くすくすと笑いながら七海ちゃんが言った。ブレザーの制服の中には、暖かそうなセーターを着こんでおり、徐々に冬仕様に移行している最中のようだ。

 七海ちゃんと出会ってから、もう七、八カ月を過ぎたくらいになる。あれはまだ肌寒さの残る春先だったか。もうずっと贔屓にしてもらっている感じがしていたが、一年も経っていないんだな。


 最初は大人しい子かと思っていたが、ヨルと会うようになって、はきはきした元気な一面もある年相応の女の子なのだと知った。

 かと思えばしっかりとしていて、芯の強さも伺える。


「変わりないですか?」

「変わらないよ」


 入れたばかりのコーヒーを差し出して、七海ちゃんに向かって頷く。

 うん。俺は、何も変わらない。たとえヨルがもう紬に来なくても、何も変われない。


 このなんとも言えない気持ちもいずれ風化する時がくるのだろうか。

 今まで通り紬に引きこもってやり過ごす。それが一番苦しくない方法。でも、本当にそれでいいのか?


 ヨルは俺にちゃんと自分の目で物事を見ろと言った。

 多分見透かされていたのだ。俺がずっと逃げ回って、現実から目を背けていたことを。世界は俺が思っているよりも平和じゃない。


 よく目を凝らさなくても、怪物が暴れたせいで住む場所を追われたり、避難の際に怪我や怖い思いをしたりした人に溢れている。

 自分が直接被害を受けていないといって、そういうものからずっと目を背けてきた。

 目を向けたって嫌な思いになるだけのものに、どうしてヨルは目を向けろと言ったのか。その理由が俺にはわからない。


「静一さん、ヨルさんのこと好きでしたよね」


 不意に、七海ちゃんが俺を見上げた。どこかヨルに似た真っ直ぐさを持った瞳だと思った。

 好きだったか、そう言われて苦しくなる。好きかどうかを問われると、頷かざるを得ない。


「うん、そうだね。大切な……友達だった」

「そっか」


 静かに相槌を打つと七海ちゃんは息を吸って、笑った。


 世間一般の男女が向け合う感情とは少し違う気もするけど、俺はヨルが好きだったよ。憧れともいうけど。

 ヨルとどうこうなりたいとか、そういうのじゃなくて。ただ、彼女の世界の端っこに、ずっと俺も混ぜてもらえたなら、それだけよかったんだよ。快活そうに笑う姿を、時々店に来てくれたら、それで。


「私も。ヨルさんのこと、大嫌いで、大好きだった」


 きっぱりと言い切る七海ちゃんを、今度は俺が見下ろす。

 少しだけ視線を手元のコーヒーに落としていた七海ちゃんが、息を吸って、顔を上げた。なにか、決意を新たにしたような晴れやかな表情だった。


 あぁ、やっぱりな。七海ちゃんは俺とは違う。真っ直ぐで、純粋で、強くて。何かがあっても目を逸らしたりせず、向き合って、自分で乗り越えられる人だ。

 にこにことする年下の友人にばれないように、自己嫌悪する。きっと同世代なら近付こうとは思わなかった。住む世界が違うんだと、自分から離れていた。


 歪みそうになる口元を隠すために、自分の分のコーヒーを入れたカップを持ち上げる。

 こういうところも、かもしれないなぁ。ヨルがちゃんと自分の目で見ろって言ったのは。


「待っててね、静一さん。私ヨルさんを捕まえてちゃんと説明させてくるから! 何のために何をしていて、どうしてそうなったのか。全部ちゃんと話させてやるんだから」


 悪戯っぽく笑った七海ちゃんが意気込むように、力強く言った。

 浅く息を吸って、吐く。俺の気持ちなんて知らない七海ちゃんが、無邪気に笑う。その姿に思わず目を細める。見ていたいのに、どうしようもなく眩しくて。


 失いたくないなと、思った。



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