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魔法少女と二代目。  作者: ささかま 02
【ブルー編】なべて茶店はこともなし
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19 閉じた扉


 習慣っていうのは恐ろしいもので、多少気が重くても家を出ていつものように紬に向かった。

 がらんとした人のいない店内を清掃して、息を吐く。ドアにかけた札をCLOSEからOPENに換える。どうにか気を紛らわせたくて、いつもより流しっぱなしのラジオの音量を少し上げた。


 今日は、なんとなく長い一日になりそうだ。

 家から持ってきたタブレットを出してみたものの、電子書籍を読む気にもなれず。カウンター裏の椅子に腰かけたままぼんやりとする。


 先日まで残っていた残暑は少しずつ鳴りを潜め、空調を付けない日も増えてきた。

 息を、吐く。秋はもの悲しくなるというが、どうにも気分が晴れない。原因なんてわかっているが。


 ヨルは、最後まで笑ったまま、俺に背を向けた。

 わかっちゃいたが、ヨルにはヨルの世界があって、俺はその端っこに仮住まいさせてもらっていたにすぎないのだ。なら、わかっていたならどうしてこんなにも、苦しいのか。それはきっと、俺がヨルを好きだったから。


 好きだと言っても、別に愛だの恋だのという世間一般的な感情じゃない。ただ、一緒にいて気が楽で、ほんの少し自分では見られない景色を見せてもらえて。紬に閉じこもりがちの俺でも、騒がしい日々を心地よく感じた。

 だからこれは、そんな日常の失った寂しさと、最後の最後に痛いところを突かれた気の重さだ。


 ちゃんと自分の目で物事を見なさい、か。誰だって傷付きたくないし、身を守ろうとするのは悪いことではない。でも、それだけではいけない。

 意固地になった子供をなだめるような口調で、ヨルはそう言っていた。


 まぁ正直、言われてすぐ心当たりが浮かぶくらいには自覚はある。今までずっと見ないふりをしていた。

 そうすることで、何もない、変わらない日常を守ってきた。だってそうだろう? 俺の目に映らなければ、何も起きてないのと同じ。例えそういう事実があったとしても、俺の視界に映る世界は平和なのだから。


 そうやって言い聞かせて、目を逸らし続けてきた。

 世界と関わらなければ、もう何も失わなくてすむのだと。この街は本来、危険に満ちている。


『番組の途中ですが緊急ニュースです。十時二十七分頃、美空町に怪物が現れたとの速報が入りました』


 普段より大きな声で、ラジオが緊急ニュースを告げた。近くで怪物が暴れているらしい。危険なので避難するように。近付かないようにとキャスターが告げている。

 このニュースは、何も今日初めて告げられたものではない。いつもは俺が意識して、聞き流しているんだ。そういうニュースが頻繁に流れるのがこの街の日常なんだ。


 息を、吐く。まだ見ないふりして、閉じこもっている。それを良しとしてきた。

 でもヨルはそれを良しとしなかった。もう紬には来ないと言いながら、最後に殻にこもるなと、言ってくれた。


 でもしょうがないだろ? 外っていうのは危険がいっぱいなんだよ。

 俺の両親を奪った交通事故だったり、唯一の肉親だった祖父を奪った流行り病だったり。そんなものであふれていて、挙句の果てには怪物だって? 誰が好き好んで危険なことばかりの世界に行きたがるんだ。


 家と紬に引きこもっていれば、何も傷付かなくてもいい。

 怪物が暴れていようと、この街の工事業者はどういうわけか優秀だし、俺が帰宅する頃には壊れた建物には囲いが立てられていて直接被害を見る機会もない。


 なんのためにわざわざ、危険に身を投じるのかもわからない。

 誰だって、危険なことはしたくないはずだし、平和に暮らしたいと願っているはずだろう? それがどうしていけないのか。

 平和と閉じこもるのは同義ではないとはわかっている。それでもそう思わずにはいられない。


 そもそも怪物が何なのか、それと戦う魔法少女という存在が何なのかすら、誰もわからないままの状況が続いているんだろう?

 なら、最初からいないものとして過ごしていた方が心の平穏は守られるのではないか。


 ぐるぐると迷走している頭の中に、さらに嫌気が差してくる。何も考えたくない。追加のため息を吐いて、コーヒーミルを取り出した。

 適当に選んだコーヒー豆を中に入れてざりざりと削っていく。広がっていく香りにだけ集中して、余計なことは全部頭の外へ追い出した。


 あぁ、先にお湯を沸かしておくんだった。なんて考えても後の祭りで、仕方なしにコンロの前で薬缶を火にかけて待ちぼうけする。

 結局、何を言われようと、何をしようと俺の生活は変わらない。今更変えられない。


 こうして紬でコーヒーを入れている間は外で何が起こっているのかも知らなくて、ただ時間が過ぎるのを無為に待っている。いや、自分の意志で知ろうともしていないから、ヨルにあんなことを言われたんだろうな。

 しゅんしゅんと、音を立ててきた薬缶にコンロの火を止めてカウンターに戻る。最近アイスばかり飲んでいたから、たまにはホットにしようか。


 何気なしに視線をやった窓には、外の景色を遮るように薄いレースのカーテンが半分ほど引かれていて。

 あれは夏前に動かしたきりだっただろうか。そろそろ洗濯するべきか。


 このままで良かった。何も知らないまま、見ないまま。平穏で、無意味で。何もない。そんな毎日で。

 その、はずだったんだけどなぁ。


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