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魔法少女と二代目。  作者: ささかま 02
【ブルー編】なべて茶店はこともなし
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10 静謐なる


 タブレット端末を片手に豆の在庫を確認する。

 砂糖やミルクは、いざとなれば隣のスーパーマーケットで買えばいいが、豆だけは無くなったからといってすぐに手元にくるわけではないので定期的なチェックが必要だ。


 まぁ、仕入れている豆は三種類しかないので、確認作業もさほど時間を取らないんだが。

 元々人の来ない店だし、豆の減りも少ない。今回は一種類だけ仕入れようか。


 正直なところ、コーヒー自体は好きだが、豆にあまりこだわりはない。紬に置いてあるコーヒー豆も、祖父が仕入れていた種類をそのまま買っているし、それを日ごとに順番で飲んでいるだけ。

 前に好奇心で、三種類の豆を挽いた後のミルに残った粉にお湯を注いで飲んだところ、雑味の煮凝りみたいな味がしたので以来、冒険はしないことに決めた。


 その調子で他の備品の在庫をチェックする。ドリッパーの紙フィルターはもう数が心許ないので注文する。後、カップを磨くクロスが傷んできたしそれも。

 食品と洗剤類はスーパーで買えるからいいとして、カトラリーで傷んでいるのはなかったよな?


 次々と、エクセルで作った在庫表にチェックしていって一息。月に一度の在庫チェックはこれで終了。

 カウンターにタブレットを置いて、軽く伸びをする。特に大掛かりなことはしていないが、立ったりしゃがんだりという動作はどうしてこう、疲れるんだろうな。


『依然として怪物の目的はわかっておらず──』


 意識がタブレットの画面から離れたことによって、つけっぱなしにしていたラジオの音声が耳に入ってきた。

 定時のニュースなのか、昨日出ていたらしい怪物の被害と、専門家の見解を報告している。


 こわいなぁ、大変そうだなぁとまでは思うものの、正直あまり現実味がない。

 元々インドアなのもあるが、俺自身は怪物に遭遇したこともなければ直接被害を受けた建物を見たこともない。おかげで本当にこの街に怪物とやらが出没しているのかを疑う毎日だ。


 なんというか、アレだよ。海の向こうで起きている凄惨な事件のニュースを聞いている感じ。被害に遭った人の無事を願う気持ちはあるが、それが自分の身近に降りかかるヴィジョンが一向に見えない。

 平和ボケと言われればそれまでなのだが。自分でも、目に見えない被害はこんなにもないものとして生活できるのかと驚いている。


 後どういうわけか、この街の工事業者の人の仕事が早いのも一因だ。

 怪物の被害に遭った建物があると、早々に崩れても被害が広がらないように目隠しにもなる外壁を立ててくれるので、今にも崩れそうな建物をテレビ以外で見たことがない。

 そういうのもあって、俺の日常には怪物は一切関わってこないよくわからないものという認識のまま固まってしまっている。


 まぁ、平和なのはいいことだろう?

 少なくとも、俺の観測する範囲には、怪物は出ていない。だからって怪物の存在を否定するわけではないが、この穏やかな世界が続けばいいと思う。


 誰だってそうだ。平穏が一番。多少騒がしかろうと、結局変わらない日々こそが万人の望むもの。

 なら魔法少女には感謝しないとな。俺がこうして平和ボケしたまま、紬の中だけでのんびり過ごせるのもその魔法少女のおかげだ。


 毎日のように街のどこかでは頻繁に怪物が出て暴れているらしいが、同時に魔法少女が守ってくれている。

 被害を受けて苦しむ人も確かにいるのだろうが、こうして穏やかな雰囲気でラジオのニュースが流れたり、窓の外を買い物帰りの人が歩いているあたり、平穏の総数は守られているんじゃなかろうか。


 うん、きっとそうだ。

 そうに違いない。


 紬にはきっと明日もそんなに人が来ないし、来るのは見知った買い物帰りの常連と、何の縁があってか頻繁に顔を見せてくれるヨルと七海ちゃんくらいだ。

 二人が店に来るようになって、紬がちょっと賑やかにはなったがそれも許容範囲内だ。どこにでもある、平和な日常の延長に違いない。


 ふっと息を吐く。ラジオ番組はいつの間にかニュースから音楽番組に代わっていた。

 流行りの曲だとか、人気のアーティストの新譜だとか。余り記憶に残らない音がだらだらと流れていく。

 なんだか溌剌とした曲調の音が多くて、不思議な気分になる。今はそういう曲調が流行っているのか?


 何気なく向けた窓の外の景色を見て、ようやくその理由がわかった。

 いつの間にか太陽が元気になっている。今年は雨が少なかったのでつい、うっかりしていた。スーパーマーケット駐車場を行き交う買い物客もすっかり短い袖になっていて、ああなるほど、と妙に納得した。


 年中ほぼ同じようなワイシャツとスラックスで過ごしているものだから、季節感なんて遠い昔にどこかに投げやっていた。もうそんな時期か。

 憂鬱だ。なんて思ってみたものの、結局日中は紬に引きこもっている俺にはそんなに関係がないのかもしれない。


 立ち上がって、窓辺へ寄る。薄いレースのカーテンを引いて少しだけ窓から差し込む光量を制限した。

 もうすぐ、本格的に夏が来る。




喫茶店店主の平和? な日常

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