表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女と二代目。  作者: ささかま 02
【ブルー編】なべて茶店はこともなし
48/68

07 遠い記憶


 今日は珍しく、初めて紬に来るお客さんがいる。

 とは言っても七海ちゃんの友達なんだが。


 クラスメイトなのか、制服姿で楽しそうに話しているのを、出来るだけ邪魔をしないように静かにクロスと食器棚のカップを一つ取り出す。

 制服、放課後、クラスメイト。うん、学生らしくていいね。俺はあんまり友達と放課後遊ぶっていうのをしてこなかったので、少しうらやましい。


 ちらりと見た七海ちゃんたちのテーブルには、さっき提供した飲み物の他にうさぎの人形がちょこんと座らされている。

 流行りものは全くわからないが、最近の子はああいうのが流行っているんだなぁ。


 カウンターの裏に持ってきた椅子に腰かけながら、カップを拭きのんびりと過ごす。

 時々聞こえてくる七海ちゃんたちの笑い声は楽しそうで、なんとなく暖かな気持ちになる。そんなことを考えていると、不意に声をかけられた。


「あのー」


 七海ちゃんの友達の髪の短いお嬢さんだ。

 ついさっき飲み物を提供したばかりだし、追加の注文というわけではなさそうだが、なにかあっただろうか。


「どうかした?」

「あそこに飾ってある写真について聞いてもいいですか?」


 あそこ、と言われて彼女の指さす方を見る。カウンターの端、キッチンの入り口横にそっと立てられた写真立てがある。

 ああ、あれか。別にそんなに変なものではないと思うんだが、何が気になったんだろう?


「ちょっとさくら」

「まぁまぁ。七海ちゃんも気になっていたんでしょう?」


 そそそっと七海ちゃんともう一人の友達も来るので、改めて写真立てを見る。

 特別聞かれたこともなかったが、別に隠す理由もない。シンプルな写真立ての中にいるのは若い、着物を着た女性。


「あぁ、あれね。うちの祖母だよ」


 少し日に焼けて色が薄くなってしまっているが、写真に写っているのは間違いなく若い頃の祖母だ。余所行きの品のある着物を着て椅子に座っている。

 物心つく前に亡くなったので記憶にはないが、祖父は飾ったあの写真のおかげで若い頃の姿だけはしっかりと覚えている。

 祖父はあまり多くを語らない人ではあったけど、祖母が大好きだったんだろうなぁ。


「へぇ! 綺麗な人ですね!」

「はは、ありがとう。この喫茶店は祖父が始めた店なんだけど、店名は祖母の名前からとったものでね」

「素敵な由来ですわ」


 にこにこと笑いながら話を聞いてくれる七海ちゃんの友達に、きっと天国の祖父も喜んでいることだろう。

 そもそも祖父の代からあまり人が入らない店ではあったし、ここ最近のにぎやかさに驚いていないといいのだが。


「どんな人だったノ?」

「どんな……。物心つくころにはもう亡くなっていて詳しくないんだけど、気立てのいい優しい人だって聞いてるよ。確か親戚筋の紹介で長野から嫁いできた人だったはず」


 遠い記憶をさかのぼってそう答えれば、振り返ると七海ちゃんたちが困ったように眉を寄せながらうさぎの人形を抱えている。気を遣わせたかな?

 別に祖母が亡くなったのはもうずっと前のことだし、あまり記憶にないので気を遣われるほどの思い出もないんだがな。


「そ、そうなんですねー」

「あははー。失礼しましたー」


 そそくさとテーブル席に戻っていく七海ちゃんたちを見送る。何だったのかよくわからないが、女子高生にも色々あるのだろう。

 しかしまぁ、持ち歩くくらいあのうさぎの人形、気に入ってるんだなぁ。

 なんだっけ、ネットのニュースか何かで見た気がする。人形を連れ回して色んなところで写真を撮るのが流行っているんだったか。世の中何が流行るかわかんないよな。


 カウンターの椅子に座り直し写真立てを見る。

 ポツンと、祖母の写真が鎮座している。


 祖父が亡くなって三年。あっという間だった気もする。

 一応祖父の遺産で大学は無事卒業できた。一、二年で必修科目の殆どを取っていたので三、四年からは頻繁に紬を開けていたし、正直この辺りの土地代だけで充分暮らしていけるので特に焦ることもなくここまで来てしまった。


 しばらく写真を眺めてからふっと息を吐く。

 家に、祖父が映っている写真はあっただろうか。帰ったらアルバムを探してみよう。祖母も、ずっと一人で飾られているよりは隣に祖父がいた方がいいだろう。


 まずその前に写真立てはあったか? 一応掃除はしているんだが、ここ数年大がかりな片付けはしていないので家にある雑貨のありかを思い出せない。

 多分探せば祖父の荷物の中にはありそうなんだが、長らく手を付けられていないからなぁ。

 いい加減ちゃんと片付けないといけない。


 ふと、何気なく七海ちゃんたちの座るテーブル席に視線をやる。

 相変わらず楽しそうで何より。先ほどよりは声を潜めているが、どうせ閑古鳥の鳴いた店なので気にせず話してくれ。

 きっと賑やかな方が祖父たちも喜ぶだろうさ。


 再びカップでも磨こうかと視線をそらそうとする一瞬。気のせいだとは思うが、少しだけ違和感を覚える。

 肩を寄せ合って話をする彼女たちの横で、テーブルに座らされたうさぎの人形がじっと写真を見ているような気がした。



魔法少女と喫茶店

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ