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魔法少女と二代目。  作者: ささかま 02
【ブルー編】なべて茶店はこともなし
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02 喫茶「紬」


 今日も晴れ。

 上空の方では風が強いのか雲が細切れになって流れていく。それを喫茶「紬」の窓から眺めるのが、俺の日常だ。


 変わらない紬の内装が額縁のようで、カウンター後ろに運んだ椅子で眺める窓の外の景色が好きだった。季節によって空の様子も違えば、スーパーマーケットへ買い物に来る人の装いも違う。

 なのに、この空間だけは何も変わらない。その空間が心地いい。


 一人分のコーヒーを入れて、持ち込んだタブレットに視線を落とす。ずらりと活字が並んだそれは、いわゆる電子書籍というやつだ。

 昨今便利になったもので、本屋に買いに行かなくても本が読める。最近はもっぱら著作権の切れた小説をまとめたサイトを読み漁っているが、そのうち有名な作家とやらの本も買おうかと考えている。


 しかしまぁ。こんなのんびりと過ごせるのも、紬に殆ど客が入らないからなんだが。

 ちらりと視線を上げた先には、今朝掃除したきり午後になっても誰もいない店内。今日は一人も客が入っていない。まぁ、いつも通りだな。


 普段から日に一人、二人入ればいい方なのだし、今更一日客が入らない程度で気にする理由もない。

 むしろ最近はヨルと七海が頻繁に来てくれるので、去年と比べると繁盛しているまである。ありがたい話だな。


 閑古鳥が鳴いているが、まぁ。言ってしまえばこの店は道楽のようなものなので潰れる心配もなければ、俺の生活に関しては何ら問題ない。

 やっぱり不労所得ってすごいな。目の前のスーパーマーケットと駐車場一帯の土地を貸すだけで、あとはこうして紬に引きこもってのんびり小説を読んでいるだけで暮らしていけるのだから。


 幼い頃に両親を亡くし、自分を育ててくれた祖父も数年前眠るように死んで。ざっくりと言うなれば、天涯孤独になってしまったのだが、案外何とかなるものだ。ほぼ土地持ちだった祖父のおかげなのだが。

 大学を出たものの、やりたいこともなく。そのまま喫茶「紬」を継いで、のんびりと暮らさせてもらっている。


 手を伸ばしてすっかり冷めたコーヒーを一口。どうせ一人だし、入れ直すのも面倒だ。

 意識がそれたことで、ふと微かに聞こえる程度の音量で流しっぱなしにしていたラジオの音声に意識が向いた。


 冷静で、けれどどこか悲惨そうな物言いで近くに怪物が出たと報じている。周辺地域の住人は迅速に避難するように。

 ……大変そうだなぁ。


 いや、同じ街の中で起きているはずなんだが、何分俺の生活圏内に噂の怪物とやらが出没したことがないのでついそういう反応になってしまう。

 一応今流しているラジオもこの美空町のローカル放送のはずなのだが、実際に怪物を目にする機会もないので、どこか遠くのことのように思えて仕方がない。

 何なら街ぐるみで俺を騙そうとしているんじゃないか、なんて陰謀論めいた考えまで浮かんできそうだ。


 一応? 近くに出没した痕跡らしきものはあるにはあるんだけど、どういうわけかこの街の業者は有能らしくてね。

 こう、怪物が暴れた後の壊れた建物とかがあるにはあるんだが、目隠しと呼ぶべきか、埃が広がらないようにする壁? のような物で早々に壊れた建物は囲われてしまうので、怪物がそこにいたという実感がわかないまま過ごしている。


 やっぱり家と紬の往復しかしないからかなぁ。自分でもインドア生活を極めている自覚はある。

 もう少し軽い運動した方がいいとは思うのだけど、思うだけで特に行動が伴っていない。何なら紬までの行き帰りは歩いているしいいだろうという甘えがある。

 それを自覚しているからといって、行動に移すかどうかは別問題なのだが。


 そんなことを考えている内にすっかりラジオは緊急ニュースから、トークバラエティーに移行している。

 ……世間もこういう感じであっさりと日常に戻るので、余計に担がれているんじゃないかと疑いそうになるんだよなぁ。


 とんとんっとタブレットの画面を叩く。

 シンプルなホーム画面に戻り、ウィジェットとして表示されているウェブ検索バーに触れた。いくつかの検索履歴が表示された。


 怪物、かぁ。半年前くらいから日本各地に怪物が出たと言うニュースが流れ始め、今年の頭以降はこの美空町にばかり出現するようになったらしい。

 最初の頃、怪物は街で好き勝手に暴れているが、最近では魔法少女と呼ばれる人たちが追いやってくれているともニュースで聞いていた。


 しばらく考えた後、今度はアンドゥボタンを押してホーム画面に戻る。

 まぁ、うん。あんまり関係ないかな。実際、度々街に避難勧告が出ているものの、今のところ一度もその怪物を見たことがないのだし、このまま関わらずに過ごせるのではないだろうかと。……ちょっと楽観的過ぎるか。


 ぐっと伸びをして固まっていた背筋を伸ばす。すっかり冷たくなったコーヒーを飲み切って立ち上がる。

 キッチンに移動してシンクに飲み終わったコーヒーのカップを置いた。カップを洗ったら何をしようか。さっきまで読んでいた電子書籍を読むのもいいし、別の何をするのでもいいな。


 ……しかし、本当に平和だな。

 怪物の出現が、この街ではそこそこの頻度で発生しているらしいが、俺の生活は何も変わっていない。なら、別にわざわざ首を突っ込むような真似をしなくていいだろう。


 カラリと客の来店を告げるベルが鳴る。

 水に濡れた手をぬぐい入り口に向かって声を投げかけた。


「いらっしゃいませ」


 さて、本日最初の客の接客に行くとするかな。




今度の主人公は閉じこもり系喫茶店店主


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