表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女と二代目。  作者: ささかま 02
【イエロー編】時計ウサギと昼の月
PR
116/120

33 もう逃げない

梨穂視点。


 暗くなった空を見上げ、そっと息を吐く。

 もう数日の間青い空を見ていない。美空町には今避難勧告が出されていて、街の中もすっかり静かになってしまった。

 そうなった原因は、間違いなくあの空の裂け目にある。


 さくらちゃんがカロンを倒した後、急に空が暗くなって、アレが現れた。

 以来、まるで私たちがイノセントジュエルを持っているのがわかっているように、頻繁にバイデントが街に現れて。


「つまりあの空は、こちらの世界とプルートが重なろうとしているから暗くなっているってことでいいのね?」

「ウン」

「で。この事態を収めるには、やっぱりあちら側に行ってクライドを倒す他ないと?」

「そうなノ」


 今はチュチュがプルートに行くための準備をしてくれているけれど、気は乗らないけど、急いだほうがいいかもしれない。

 これ以上街を壊されるのも困るし、何より英時君は今、受験のために前乗りすると言って数日街を離れている。英時君の家が、帰って来たら無くなっている、なんて自体にはしたくない。


「ねえリホ。リホは、大丈夫? 無理してない?」


 引き続き、プルートに向かうためのあれこれを話しているさくらちゃんと七海ちゃんから離れて、チュチュが私に話しかけた。

 その言葉が、どんな意味を秘めているのかはわからない。皆それぞれ、私たちの知らないところで破壊の使者たちとかかわりがあったみたいだから。その心配をしてくれているだけなのかもしれない。


「どうでしょう? でも今はやるべきことをやるだけです。一緒に背負うと言ってくれた人のためにも」


 手を取り合える未来を、私は信じたかった。

 今もそうなればいいとは思っているけれど、そうなれないのだってわかっている。


「イノセントジュエルは最も無垢な心を代償としてしか願いを叶えられない。けれど、無垢ではなくとも、ある種の純粋さがあれば、或いは……」

「チュチュ?」

「ううん、やっぱりなんでもないノ!」


 ふわふわと宙を浮いて陽気な声でさくらちゃんの元へ行くチュチュを見送って少しだけ、苦しくなった。

 私も、チュチュも。お互いに何かを隠していると認識していて、話さない。私たちだけは、多分お互いを責められない。

 さくらちゃんがカロンに向けて使った、イノセントジュエルの浄化の力は浄化と呼ぶには、あまりにも強力で圧倒的な力だった。

 そんな力を、私はP5に使うつもりはないし、チュチュもきっとイノセントジュエルの代償は直前まで、話すつもりがないんだと思う。


「梨穂」

「何か、お悩みですか?」


 チュチュと入れ違いに私の名を呼んだ七海ちゃんに、いつもの調子を装って返事をする。


「梨穂」

「私で良ければ、聞かせてください」


 ほんの少しだけ不安そうにしていた七海ちゃんが、ぐっと何かを呑み込んで、力強く笑った。


「イノセントジュエルについて考えていたの」

「二つの世界を救う方法、ですか?」

「うん。それもあるんだけど、本当に、奇跡を起こせるのかなって」

「……確かに、チュチュはイノセントジュエルの代償を詳しく教えてくれませんが、でもそれは、私たちが不利益を被ることではない、はずです」


 そう、きっとイノセントジュエルの代償は、私たちに関わる何かではない。

 そう、思いたい。だって、きっと、何も言えないことをチュチュも苦しんでいるはずだから。


 不安はある。私たちはまだわからないまま、知らないことを抱えながら進まなければいけない。

 わからないなり解釈して、間違い続けないといけない。


「信じたい?」

「そう、ですね。うん。私は信じていたいんです」


 P5のことも、チュチュのことも。

 七海ちゃんの言う通り、私は信じたい。


「私ね、ニクス……、バイデントたちには悪い奴でいてほしかったの」

「悪い奴、ですか?」

「うん。大きな目的なんて無くて、ただ自分たちの気分で街を壊しているんだと思いたかった。だってその方が、なんの気兼ねもなく戦えるじゃない?」


 やっぱり、七海ちゃんは強いな。何かあっても、絶対に逃げない。

 何より真っ直ぐで、どんなことがあっても向き合っていける。私もそんな風になれたら、なんて思わなくもないけど、私には私にしかないものがあると知っている。


「七海ちゃんは強いですね」

「……、知ってた? いい女は逃げないものなのよ?」


 得意げに笑う七海ちゃんにつられて、つい私も口元が緩むのを感じた。

 逃げない、か。うん。私も、もう逃げたくない。逃げて、目を逸らして苦しくなるくらいなら、思いっきり間違えたまま進みたい。


「ありがとう。七海ちゃんの話を聞いていたら、私の方が頑張らないとって思いました」

「そう? ならよかった。さくらのことも心配だけど、一度私たちも帰りましょうか」

「そうですね。家族にも、心配をかけてしまっていますし」


 ゆっくり息を吸って、吐く。

 私が、やらなければいけないこと。まずはP5と向き合う。そして私の気持ちをきちんとP5に説明して、P5の願いも耳を逸らさずに聞く。


 例えお互いの願いが相いれないものだったとしても。わかり合えなくても。

 最後まで戦って、私の言葉を届けよう。

 それしかできなくても、それだけは。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ