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【三部連載中】魔法少女と二代目。  作者: ささかま 02
【イエロー編】時計ウサギと昼の月
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32 燻る


 いつだって、転機というのは突然目の前に現れる。

 それによって良い方へ進めるものなのか、悪い方へ転がり落ちるのかはとにかく。自分の意志とは全く関係なく巻き込まれて、太刀打ちできることなんてほとんどなくて、上手く呑み込む術だけを求められる。


 俺はそれを二度経験した。一度目は放課後、焼却炉へ続く校舎裏で。あの日あの場所に行かなければ、今の俺はいなかったし、きっと、時計に対する向き合い方も違っていただろう。

 そして、その転機の二度目は、多分今だ。


 ゆらりと火が揺れた。随分と弱々しい火だ。こんな火を見たことない。

 薄暗い住宅街にぼんやりと、小さな火を灯してロウソク頭のP5が立っている。


「エージ……」

「よう、久しぶり」


 努めていつも通り振舞う。しばらく会わないうちに、随分と弱々しい声になったものだ。

 俺が梨穂から話を聞いているのを知っているのかいないのか、P5は何とも居心地の悪そうに俺の様子を伺っている。

 そんな顔しないでくれよ。確かにお前のことは、風変わりな友人として思っているよ。でも、もう心は決まってしまっている。


「エージは、ボクといるの、イヤ?」

「なんでそうなるんだよ」

「だって、梨穂が……一緒にプルートには来てくれないって」


 梨穂の言う通り、P5は本当に俺たちをコイツの故郷に連れ帰りたいらしい。

 でも俺たちは、その願いを聞けない。俺には父さんの時計屋を継ぐっていう目的ができてしまったし、魔法少女として戦う覚悟をした梨穂の気持ちに寄り添うって決めたんだ。

 叶うなら、お前とも今までのように遊んでやりたいけど、それだけではいられない。


「でも、ガンバれば大丈夫って! ダメじゃないって!」


 そうだな、そう、言ったんだよなぁ。でも、そのための努力の方向が、皆別の方を向いていたんだよ。

 俺は一緒にいたいから、気を反らすために時計を贈った。P5も一緒にいるために、街を壊してでもイノセントジュエルを手に入れようとした。

 そして梨穂も。一緒にいるために、P5が街を壊すことを否定しようとしている。


 P5が、俺たちをプルートに連れ帰るために、自分で考え始めたのは良い変化だと思う。その時の気分で様々なものに目移りしていたP5が、一つの目的のために自分で考えるようになったのは成長と言っていい。

 だからこそ、俺たちがやろうとしていたのと同じことをしようとしているP5を見て、自分たちの身勝手さに嫌気が差したぐらいだ。


 だってそうだろう?

 P5をこの世界に引き留めるということは、コイツを仲間と引き離すということだ。

 P5が俺たち二人だけをプルートに連れていこうとしたのと変わらない。俺たちに家族や友人がいるのと同じように、コイツにも仲間がいるんだ。


「イノセントジュエルはもう、リホたちが持ってるってニクスが言ってた。どうしたらいい? どうしたらエージとリホは一緒にいてくれる?」


 多分じゃなくて、間違いなく。P5は本心から俺たちと一緒に居たいと思ってくれているんだろうとわかる。

 奇跡にそれを願うんじゃなくて、それを対価に俺たちの存在をプルートで受け入れさせようとしている。


 世の中、もっと簡単だったらよかったのにな。

 イノセントジュエルがあれば、奇跡は起こる。そう信じて、皆笑って大団円。なんてきっと物語の中にしかないのだろうか。

 自分の好きな人たちと一緒にいたい。そういうごく当たり前の願いすら、奇跡の石は叶えてくれないのに。


「俺さ、父さんの時計屋を継ぎたいんだよ」

「時計?」

「そう。家族や友達がいて、なりたいものがあるんだ」


 まだ五時だと言うのにすっかり日の落ちた冬の住宅街に、不安を目いっぱい詰め込んだようなロウソクの火が揺れた。

 P5に俺の知らない仲間がいるように、俺にもP5の知らない大切な人がいる。だから、その人たちを置いて、なりたいものを捨ててまで、プルートに行けない。


 もしかしたら、一年前の俺ならお前の手を取ってそちら側へ行っていたかもしれないけど、その俺はきっとP5に出会わなかった俺だ。

 P5と梨穂に出会って、何もかも、変わったんだよ。俺も、P5も。


「だから。プルートには行けない」

「やだよ、嫌だ! 一緒にいようよ!」

「ごめんな」


 ゆらゆらと不安に揺れていた火が、一際大きく、強く燃え上がった。

 わかっていただろう。全部わかっていて選んだ。なのに、なんでこんなに苦しいんだろうな。こんなこと言う資格なんてないのに。


「なんでっ……エージのバカ! もうキライ!」


 じりじりと熱いものが胸の奥の柔い部分を焦がしていく。ロウソクの火はさらに勢いを増し、黒い煙が燻った。

 P5の背後に、黒い空間が広がった。以前バイデントが帰って行くのに使っていたのと同じような空間だ。

 火が揺れて、完全に俺のよく知ったろうそくの火が、届かない世界へと消えてゆく。


 嫌い、か。うん、嫌われたって仕方がない。わかってる。いくらでも嫌ってくれ。

 それでも俺は、お前のおかげで踏み出せた夢を、手放せないんだよ。


 そっと息を吐く。

 薄暗い住宅街に一人分のため息が、白く濁った。



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