31 救いはどこに
梨穂視点。
ふっと、寒々しい部屋の電気をつけてベッドの上に腰を下ろす。すっかり冷え切った自室にエアコンを入れてみるも、吹き出し口から溢れてくる風はまだ冷たくて。
部屋が暖まるまでの間、ぼんやりと、先ほどのことを思い出す。
いつもは三人で騒がしく過ごしていた公園で、英時君と二人で会った。彼に、P5と戦うと告げた。
果たしてあの時、英時君はどんな気持ちで私の話を聞いていたのだろうか。どんな思いで、最後まで付き合うと、一緒に抱えると言ってくれたのだろうか。
いえ、すごく救われはしたの。それは私が彼を好ましく思っているからなのも、あると思う。かといって、その想いが本当に恋愛感情かと言われると、少し曖昧で。
私はさくらちゃんのように恋に恋すると言うような感情はよくわからない。七海ちゃんのように、ただ一人のためにと一生懸命になれるほど、情熱的ではない。
けれど、私にとって英時君はやっぱり特別で、お気に入りの人。
だからこそ、今はこの想いをどこかに吐き出すべきではない。
色んなことが起こっている。それを一つずつ片付けて、全部終わってから。その時に、私たちの関係がどうなっているかはわからないけど。今は、曖昧なままの感情をしっかりとした形に整えるために、やるべきことをやらなくては。
P5とはあれ以降一度も、会えていない。
バイデントと行動を共にしているのか、はたまた
プルートにいるのかも、わからないまま。次に会う時には、戦わないといけないのだろうか……。
わかってる。ちゃんと、戦う意志はある。イノセントジュエルはもう見つかっていて、チュチュが管理してくれている。
可能なら、P5と戦いたくはない。けれど、それを説明したところで、じゃあP5にどうして欲しいのか、私たちはどうしたらいいのがわからない。
けれど、私は一人ではない。だから、やらないといけない。
ああ、そうだ。わからないことと言えば、チュチュについてもそう。
イノセントジュエルは二つの力がある。浄化の力と奇跡を起こす力。P5質が求めていたのは奇跡の方の力。
でもイノセントジュエルは万能ではない。奇跡には代償がいる。
チュチュの言う、最も無垢な心というのが何を示すのかわからない。それを差し出すとどうなってしまうのかも、チュチュは教えてくれない。
イノセントジュエルの正しい使い方を知っているのはチュチュだけで、私たちに話してくれないということは、その代償を差し出すのは……。
どうしてチュチュは話してくれないのだろう。代償を差し出して何が起こるのか。
きっとチュチュは、一人でその代償を差し出すつもりなんだと思う。私たちに心配させないために、何も話さないまま。
そっと息を吐いて、ベッドの上に倒れ込む。
何もかもが上手くいかない。けれど、せめて信じたいと思った。
英時君が、信じられなくなったら相談していいと言ってくれた。この暖かい気持ちを大切にしていきたいと。例えどんなに間違えてしまっていても、この暖かい気持ちだけは信じていたいと。
うん。そうだ。この思いが間違いなら、思いっきり間違えよう。
P5のことが嫌いになったわけではない。けれど一緒に、プルートには行けない。だから戦わなくちゃ聞けないのだけど、私はイノセントジュエルの力をP5に向けたくはない。
イノセントジュエルのもう一つの力は、浄化の力。けれどあのカロンを倒した力は、アレは浄化というよりも、圧倒的な力で押しつぶしているような感じだった。あとに、何も残らない。
あの力が浄化の力なら、P5は悪なのか。わからない。わからないけど、私まであの子を悪だと断じたくはなかった。
世間的に見るなら街を壊す存在の仲間なのだから、きっと悪なのだろう。
でも、あの子は私たちと出会うまでは、何も知らなかった。楽しいことだけ、褒められるから。そういう感情だけで生きていた。
プルートの状況を詳しく知っているわけではないけれど、そういう善悪の感覚すら教えてくれる人がいなかったのなら、何もかも頭ごなしに否定できなかった。
英時君の時計に夢中になっていた姿を思い出す。
もっと時間があれば、引き留めることができたのかな。もっと早く私が向き合っていれば。もっと、もっと。
息を吐いてベッドに体重をかけて沈み込む。
正しいことを選べなかった。だから思いっきり間違えて、全部抱えていこう。苦しくても、しんどくても。そうしていかなければ。
もうすぐ来るP5と戦う時には、私はイノセントジュエルの力を使わない。浄化の力は使わず、私自身の力で。魔法少女プリズムトリニティのシャイニーイエローとして。
戦って、全部背負っていく。
「大丈夫、一人じゃない」
私には一緒に、抱えてくれると言ってくれた人がいる。
決して健全ではない関係なのかもしれない。それでも、その言葉に確かに救われた。それは、曖昧なままの私の感情の中にある、唯一確かなこと。
それさえあれば、きっと。
「大丈夫」
ひんやりとしたシーツに顔を埋めて、もう一度、自分に言い聞かせるように呟いた。




