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魔法少女と二代目。  作者: ささかま 02
【イエロー編】時計ウサギと昼の月
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30 星に願いを


 ポンっと、軽快な通知音の後にスマホの待ち受けに現れたメッセージを読んだのが十分前。

 体育の持久走でもやらない全力疾走を久々にしたわ。膝が笑ってやがる。元々インドアなんだよ、走らせんな。


 公園前で荒れ放題の息を整え、顔を上げればその先にはいつも屯している屋根付きの休憩所があって、ベンチには梨穂がいる。

 会って話がしたい。

 送られてきたメッセージに息を呑んだが、気が付いた時には上着を引っ掴んで真っ暗になった空の下を走り出していた。


「よう、待たせたか?」

「いえ、私も今来たところなので。すみません、急に呼び出して」

「いいってそういうの」


 ふっと息を吐く。昨日から日が昇らなくなったので肌寒くはあるが、上着を着こめば問題のない気温だ。まぁ、吐いた息はしっかり白く濁るのだが。

 このまま、明日になっても日が昇らなければ、ニュースで言っていた通り、街全体に避難勧告が出るかもしれない。避難したところで何にもならないのかもしれないが。


 休憩所もあるものの、相変わらず人のいない公園はがらんとしていて、もの悲しい。

 いつもはこんな風に思わないんだがな。やっぱ、走り回っている奴がいないだけで、同じ場所でもこうも印象が違うのか。


「ンで? 何かあったか?」

「はい。その、イノセントジュエルが見付かったんです」

「それは……」


 イノセントジュエルを梨穂が見つけたということは、P5の願いが途絶えるということだ。

 P5は俺たちとも一緒に居たいと、俺たちをプルートに連れていきたいと言っていたらしい。イノセントジュエルはそうするための、アイツのボスであるクライドって奴との交渉材料だった。


「俺は……そのプルートってとこに行くつもりはないけど、お前もそのつもりはないってことでいいんだよな?」

「……はい」


 P5やバイデントたちが街を壊してまで探していた物は、今梨穂たちの手元にある。

 奇跡だのなんだのを起こすと言われているらしいが、その力でプルートを救おうと考えていた。梨穂曰く、実際のところイノセントジュエルは万能ではないので、願いを叶えるには何かしら代償が必要なようだが。


「私、もっと上手くできるって、思っていたんですよ。深く考えなくても、きっと世界は良い方に転がっていくって」

「みんなそうなりゃいいって思ってるよ」

「考えたけど、わからないんですよ。どっちも、を選ぶ方法。このままだと、きっとつらい別れになる」


 ぽつりぽつりと話す梨穂に、そっと息を吐く。

 正直、梨穂がP5と話したという日から、俺はP5に会っていないので何とも言えない。けれど、イノセントジュエルを先に魔法少女が手に入れたのなら、バイデントとのさらなる抗争は避けられないだろう。

 そうなると、後はどこまで引き留められるかよりも、どうやって折り合いをつけるか。


「魔法少女として、私はP5と戦うべきなんですよ。P5と戦いたくない気持ちもある。でも、私は……」


 多分、ここに来るまでも梨穂は色々考えてきたんだと思う。

 考えて、悩んで、そして。


「何をどう考えても、私の優先順位はあなたが一番だった。P5のことだって、大切だと思ってる。それでも英時君のいる街を守りたいと思ってしまった」

「……うん」

「わかり合いたいって、一緒にどうすればいいか考えようって言っておきながら、私は、あの子と戦うことを選ぶんです」


 最初から、わかり切ったことだった。

 本来敵対する立場の存在が、手を取り合えると夢を見たかった。自分の日常で、何かを失う悲しみを負うことを考えたくなかった。

 それでも、コイツが戦うと言うのなら。戦う術を持たない俺のやれることは。


「わかった。お前がそれを選ぶなら、俺は……」

「英時君……」

「俺も一緒に、お前の苦しみを抱えてやる。罪悪感も、歯痒さも、全部。一緒に抱えて生きてやる」


 何がどういう因果か、あの日フェンスに首を突っ込んで動けなくなっているP5と遭遇して、二人と関わるようになって。全く、奇妙な縁だ。

 いつの間にか、二人がいるのが当たり前になっていた。


「覚悟は、しています。でも、きっと、一人では苦しいの」

「わかってる。付き合うよ、最後まで。梨穂が抱えられない分は一緒に抱えて、悩んでやるから」


 最初から、わかり合えない存在だった。街を壊す側と、そいつらを倒す側。そうやって割り切るには俺たちは関わりすぎた。

 家族や友人のいるこの世界を切り捨ててP5の手を取れないのなら、後はもう、離別するしかない。

 そして戦う力のない俺は、その意思を、同じ考えの梨穂に託すしかない。


「ありがとうございます、英時君」

「ん。こっちこそ、ごめんな」


 梨穂が、力なく笑った。俺にできることなんて限りなく少ない。けれど、せめて気持ちだけでも支えになれたら。

 P5をどうにか止めてやりたい気持ちが無くなったわけではない。だが、転がりだした石は止められない。

 それでも割り切れないから、俺たちは最後まで苦しみ続けるしかない。


 本来ならそろそろ西の方が赤く染まり始める頃だろうが、生憎空は真っ暗のままで。きっと、今日みたいな乾燥した冬の空なら星もよく見えただろうに。

 そしてそこに、一際輝く一番星があるのなら。

 そしてそこに、叶わない願いをそっと隠せたなら。



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