28 望んだものは
梨穂視点。
年が明けた。
年末年始の行事は滞りなく、家族やさくらちゃんたちと過ごした。合間合間に、バイデントが現れるようなトラブルはあったものの、おおきな怪我や事故もなく。
けして平穏ではないのだけど、無事年を越すことができた。
英時君とは何度かメッセージのやり取りはしているものの、冬休みに入って以降は会ってはいない。
受験生だし、勉強のジャマをしたくないのもある。だから次に会うのは学校が始まってからになりそう。
今まで夏休みですら頻繁に会っていたし、少し気持ちの整理をするいい期間なのかもしれない。
……色々あったと、言っていいのかな。P5のことももちろんだけど、そっか。私、自分でも気が付いていないうちに、魔法少女であることプレッシャーに感じて思考を放棄していたのか。
英時君に指摘されて初めて自覚したけど、確かに根拠もなくきっと大丈夫だと、思い込み過ぎていたのかもしれない。
ぼんやりとさくらちゃんたちと別れて歩きなれた道を進む。隣には誰もいない。でも、大丈夫だと思う。英時が一人じゃないと教えてくれた。
だからもう、安心して向き合える。
P5を止めるにはどうすればいいのか、そんなことを考えていた折に、イノセントジュエルが見つかった。
七海ちゃんのよく行く喫茶店に隠れていたらしい。なんでも喫茶店のマスターさんのお婆さんが私たちの前の魔法少女で、その縁で喫茶店にあったのかもしれない。
とにかく、そのイノセントジュエルの力のおかげで、さくらちゃんはカロンを倒した。
イノセントジュエルには二つの使い方がる。魔法少女の力を強化するリソースとしての使い方と、本来の奇跡ともよばれる願いを叶える力。
カロンを倒したのは、リソースとしての力。その浄化の力で、一番プルートを救いたいと願っていた、カロンと協力し合えないかと思い悩んでいたさくらちゃんが、彼を。
ポケットに仕舞い込んでいたプリズムパクトを取り出して眺める。チュチュは普段、このパクトの中で眠っているらしい。
イノセントジュエルは、最も無垢な心を代償としてしか願いを叶えられないと、チュチュが言った。
チュチュは、何を知っていて、何を私たちに話していないんだろう。
「ねぇチュチュ」
周りに人がいないのを確認してそっと声をかける。すると、パクトの中心にある宝石が光り、そこから現れたチュチュが「なぁに?」なんて言いながらニッコリと笑い返してくれる。
なんだか私たち、よく似てるね。私がそうだから、とてもよくわかるの。その笑顔が何かを隠している時の顔だって。
「イノセントジュエルのこと、教えてもらえますか?」
「イノセントジュエルに二つの力の使い方があるのは話したわよネ? さっきサクラが使ったのはイノセントジュエルが持つ浄化の力なノ」
「はい。それで、もう一つの、イノセントジュエルの力を正しく使えるのは誰なんでしょうか?」
一瞬の間があって、チュチュがにっこりと笑う。
ウサギのぬいぐるみのような姿をした妖精は、きっと悪い子ではない。何かを隠してはいるけれど、それは私たちにとって何か被害があるわけではない。と、思う。
ふわふわと、宙を浮いたチュチュが優しい声で言った。
「心配しなくていいワ」
「答えになっていませんよ」
ああ、教えてくれないのはどうしてなんだろう。なんて、自分のことを棚に上げながら考える。頼るのは恥ずかしいって、彼女もそう考えているのかな。
私は、小さい頃からそれなりになんでもできる方だった。誰かの手を借りる方が少なくて、ある程度なら、自分でできるんだって思っていた。
だから、人の善意を信じながら、自分の弱みを人に晒せなかった。
ねぇチュチュ、誰かを頼るのって難しいね。そんなこともできないのかって、失望されたくないし、できない部分を笑われたくもない。
でも、案外優しい人っているんだよ? 頼ったって、弱さを見せたって、受け止めてもらえる物なんだよ?
「いつかは、聞かせてくださいね」
「ウフフ。何のことだかわからないノ」
にこにこと、なんてことないように応えながらチュチュがそっと私の腕の中に納まる。ふわふわして、柔らかい手触りにそっと息を吐いた。
恐らく正しくイノセントジュエルを使えるのは、チュチュだけなんだと思う。
そしてイノセントジュエルを使えば、チュチュは何かを失う。最も無垢な心というのが何を指しているのかはわからないけれど、それをわかっていて、チュチュは……。
あれもこれも、なんて、何もかもを掴めないことはわかっている。けれどそれでも、私はP5にもチュチュにも、悲しんでほしくないと思ってしまった。
私を見上げて、にこにこと無邪気に笑うチュチュに一抹の不安を覚える。
私も、英時君のように支えてあげられる人になりたいって思ったのに。
上手くいかないなぁ。
全てが終わった時、チュチュはこんな風に笑いかけてくれる? P5とも、変わらずあの公園で会える?
なにもわからない。
わからないけど、どうかそれがお互いに最も納得できる結果であればいい。




