25 抜けない棘
梨穂視点。
世界は二つあるらしい。
私たちのいる世界と、プルートと呼ばれるバイデントたちの暮らす世界。そのプルートの土地は貧しく、荒廃しており、その状況を解決するためにこちらの世界のどこかにあるイノセントジュエルを探している。
私たち魔法少女は彼らがイノセントジュエルを探す際に街を壊そうとするのを阻止するためにいる。
と、いうのが、チュチュが最初にしてくれた魔法少女の説明なのだけど。正直、自分がどうしたいのか、最初はよくわかっていなかった。
確かに住んでいる街を壊されるのは困る。でも自分が魔法少女になったのも、バイデントたちが街を壊すのも、どこか現実のことではないように感じて。ふわふわして、まるで夢の中の出来事のように感じていた。
そんな私に、目の前に起こっていることが現実のことだと教えてくれたのは、P5と英時君だった。
「浮かない顔ですね」
どこか遠くを見ながらブロック塀の上に佇むP5に声をかける。
彼は、目と鼻はないけどとても表情豊かだ。普段は明るく快活で背は高いのにどこか子供っぽくて、そんなP5に文句を言いながらもあれこれと手を貸す英時君が、あんまりにもありふれた、日常の形をしていたから。
「ボク顔ないよ? わかるの?」
「ええ。だってたくさん一緒に遊んだじゃないですか」
そう言って微笑みかければ、P5がこちらを振り返って少しだけ嬉しそうにする。
初めてプリズムトリニティのシャイニーイエローとして出会った時とは違う。あの時のP5は何を考えているのかもよくわからない不気味な存在だった。
そんな彼が、カロンたちの様子がおかしいと気にするようになった。それはきっと英時君に出会って、彼のちょっと不器用な優しさに触れたから、誰かの痛みや悲しみに気付けるようになった。誰かの笑顔を望めるようになった。
「皆ね、なんだか怖い顔してるんだ。楽しくなさそうなの」
「そう、ですか」
「イノセントジュエルがあれば皆笑顔になる?」
ただ、私とは違う立場にいるだけ。
褒められるから街を壊すと言っていたP5が、自分にできることを模索する姿は、その成長を喜ぶべきだとは思う。
けど、そうなってしまっては、今のままではいられない。
イノセントジュエルは、奇跡を起こすほどの力があるとチュチュは言っていた。
英時君はそんな都合の良いものがあるのかと疑問視していたし、本当のところはわからない。
でもきっと、P5や他のバイデントたちにとっては、それは真実なんだろう。だから私たちの街を壊してでも、イノセントジュエルを探している。
「あなたが街を壊すと、悲しいです」
私が、とは言えない卑怯さに、P5は気が付いただろうか。こちらを向いたまま何も言わない彼を見つめ返す。
わかっている。本当は、取り繕うばかりで、何もかも中途半端だってことも。
P5と仲良くしていたいという気持ちがないわけではないけど、それでも私が守りたいと思ったのは、英時君が、P5とバイデントが一緒にいるところを見たくないと言ったから。
あの人が、嫌だと言った。英時君が街を守るためではなく、自分が街を壊すP5を見たくないと言う理由だけで行動を起こした。
その姿が、流されるように、なんとなくここまで来てしまった私には眩しかった。
「他の方法を一緒に考えませんか?」
「でもカロンは戦うって言ってた。そうしないと、プルートが救えないって」
「それは……、二つの世界で協力し合えればきっと」
「どっちもはガンバらないと、なんでしょ?」
首を傾げるP5に可能な限り噛み砕いて話す。
住んでいる街が壊されると悲しいという気持ちは嘘ではない。ただ、現実味がないだけ。どうにかしてこちらの世界とプルートの両方を救う方法がないか考えていて、自分もP5と本当は戦いたくないのも本当。ただ、何もかもが中途半端なだけ。
P5は、純粋に私たちとも一緒に居たいと願ってくれている。
だからこそ、私自身が、一番P5との問題に向き合っていなかった。全部英時君を理由にしていた。彼が嫌だと言った。何の偏見もなくP5と普通に接していた彼が決めたのなら、きっとそれがいいと。
「イノセントジュエルを見付けたらクライドにお願いして一緒にプルート行こうよ! そうしたら皆一緒に居られて楽しいよね」
P5が嬉しそうに声を弾ませた。
でもそれは。
「それは、ダメですよ」
「なんで? クライドならきっといいよって言ってくれるよ!?」
「私たちは、きっとそちらにはいけません」
「ヤダよ、一緒にいようよ。どうしたら一緒にプルートに来てくれる?」
これは多分罰だ。何もかも中途半端で、何も見えていなかった私への。何も失わずに、何もかもを手に入れられると思い上がった傲慢な私への。
P5は、ただ自分の好きな人と一緒にいたいだけ。そしてその好きな人の後ろに他にも繋がりがある存在があるとは気が付いていないだけ。
もっとちゃんと考えていたら、なんて後悔しても遅い。今までにだって何度も立ち返るタイミングはあった。なのにきっと大丈夫、なんてずっと目を逸らしていた。
だから今更後悔なんて、言う権利などなくて。
「ボクは、クライドたちともエージとリホとも一緒に居たいよ」
悲しそうなP5の声が、ただの純粋な願いが、痛いほど胸に突き刺さった。




