23 秋空
P5は意外と表情が豊かだ。
表情、といっても顔はロウソクで目や鼻は無いんだが。その代わり、頭の火や大きく開いた口、それから大げさなほどの身振りで大体の感情は察せられる。
要は、顔がなくてもP5は非常にわかりやすい奴ということだな。
そのP5が、どこか非常につまらなそうにしている。何? 明日は異常気象でも起きるのか? ここ数年の夏は異常気象と言ってもいいレベルの気温だったと思うんだが、それ以上か?
いつもは公園を意味もなく走り回っているのに、今日はベンチに座る俺の頭にロウソク頭の顎らしき部分を置いてのしかかったまま、特に何かを語るでもなくぼんやりとしている。
のしかかられているので移動することもできず、しかたなしとばかりに梨穂と顔を見合わせれば、そちらも困ったように首を傾げていて。梨穂も何があったのかは知らないらしい。
「何かあったんですか?」
梨穂の問いかけにP5が、ぐりぐりと俺の頭にロウソク頭をこすり付ける。今日、本当に大人しいなコイツ。
しばらくそうしたかと思うと、何やら「あー」とか、「うー」とか、唸った後、ようやく顔を上げてP5が口を開いた。
「なんかカロンたちが変」
「変、とは?」
「わかんない。でも皆、つまんなそう」
すねたような、つまらなそうな声でそういうと、再びP5は唸り声を上げた。
これは、あれか? 上手く言語化ができずに苛々してるのか? 俺の上で話すのは……まぁ、この際諦めよう。とりあえず人の後頭部に頭をぐりぐりするのやめてくれないか?
「つまらなそう、というのはどういう風にですか?」
「……カロンはイライラしてるし、ニクスもあんまり話してくれない」
「……きっと、皆何か悩みがあるんでしょうね」
P5の仲間については俺よりも梨穂の方は詳しいので、会話には参加せず静観を決め込む。
ますます、街を襲っているはずの向こうさんにも色々な事情があるんだなぁなんて考えながら、何かを考え込む梨穂の姿を眺める。
カサカサと、少しひんやりとした風に吹かれて公園に植えられた木々が囁いた。
「ナヤミ?」
「内容まではわからないですけど、こうしたいけど出来ない、どうすればいいかわからない、ってことがあるのかもしれませんね」
困ったような表情のまま梨穂がP5に答える。
魔法少女という立場上、言い難いはずなのに、随分と無理をするなぁ。
もっとこう誤魔化したり、言いよどんだっていいはずなのに、梨穂はどこまでもP5に誠実に向き合おうとしている。
それは可能ならバイデントたちとも手を取り合い、お互いの世界を大事にしたいという考えなのだろう。例え相手が、この街に侵攻してきている奴らの仲間だとしても。
俺だって争いを望んではいないが、もっとはっきり答えられない。
「ボクはどうすればいい? どうすればカロンたちのナヤミ? が無くなる?」
「難しい質問ですね。彼らの願いは、イノセントジュエルを見つけ出すこと。そのためには私たちの住んでいる街を壊さないといけない。だから……私一人では、その悩みを解決することはできません」
まぁそうなる。板挟みなんだよな、コイツも。他の魔法少女がどう考えているのかは知らないが、少なくとも梨穂は魔法少女としての立場も、こうして三人で話している関係も守ろうとしている。
P5は自分の仲間に褒められたくて、街を壊そうとしていた。そして今は仲間の悩みを解決してやりたくて、慣れないながらに考えている。
「クライドのためにイノセントジュエルを探したら、リホもエージも、イヤ?」
「住んでいるところが無くなるのは悲しいですから」
「どちらとも一緒にいたいは、ダメ?」
「ダメではないが、努力が必要だ」
不安そうに話すP5を宥めるように言い聞かせる。
コイツ、本当に精神が幼いんだよ。身長だけずるずる伸びているが多分、ランドセル背負って走り回っているくらいの子供と一緒だ。
だから自分の身近な存在が物事の判断基準になる。
クライドって奴も含め、他の街を襲っている仲間が何か悩んでいれば気になるし、同時にそれを争っているはずの梨穂に聞いたりもする。理由は自分にとってどちらも身近な存在だから。
今のところP5がバイデントと一緒にいるところを英時は一度しか見ていない。梨穂も頻度は少ないと言っていた。
ならば、一応俺たちはP5に何かしらの影響を与えられていると考えてもいいはずだ。
叶うなら、このまま。何か感じることがあるのなら、街を壊す以外の方向に目を向けてほしいと思う。
「ムツカシイのは、わからない」
「皆そうですよ。ゆっくり、皆で考えていけばいいんです」
梨穂が諭すように、子供に言い聞かせるようにP5に向かって話しかける。
相変わらず上からのしかかられていて、P5の様子はわからないが、それでもきっと何かは感じ取ってくれただろう。
少なくとも、梨穂が憎しみあって戦いたいわけではないことくらいは。
じんわりとP5に密着されている背中が汗ばむ。夏が終わったからといってまだ完全に気温が下がり切ったわけではないので、いささかこの暑さは不快だが、わざわざ振り払うほどでもない。
まだもう少し、俺たちの願いを理解するには時間がかかりそうなP5の唸り声が、秋の風に呑まれて消えた。




