20 愛というものは
梨穂視点
誰かを特別に扱うということは、他の誰かを粗末に扱うことだ。
たった一人を愛してしまえば、その他の人を差別してしまう。
そう、どこかの宗教が言っていた。なら、私のしようとしていることは、それに当て嵌まるのだろうか。
そんなことを考えながらふっと息を吐く。
目の前には真剣な顔をしたさくらちゃんがいて。
「ごめん! 二人が何か悩んでるのも気が付いてるし、今相談したら負担になっちゃうってこともわかってるんだけど、それでも! 私、二人に相談したいし、二人にも相談してほしい!」
何かに耐えるような、真剣で、今にも感情が溢れそうな表情をしたさくらちゃんに、ちらりと隣の七海ちゃんと視線を合わせ、頷き合う。
私たち三人の悩みや相談なんて、きっと魔法少女やバイデントに関することしかない。
「丁度、私たちもさくらちゃんに相談したいことがあったんです」
「梨穂!」
「そうと決まれば、今日はいっぱい話すわよ」
「七海!」
話した方がいいのはわかっていた。どうしても、魔法少女として戦っている以上、普段からP5と仲良くしていることは二人に対する裏切りになってしまうのではないかと思うと、二人に話すのは憚られた。
嬉しそうに笑って、私と七海ちゃんに抱き着くさくらちゃんに、ちくりと胸が痛む。
さくらちゃんの家に移動して話した結果、他二人も破壊の使者に遭遇していたらしい。
ただ少し違うのは、二人の会っていた破壊の使者は人間に擬態していて、さくらちゃんと七海ちゃんは、プルートを救いたいという気持ちに傾いている。
私だって、P5と戦いたくない気持ちはある。
けどそれは、私自身の中から生まれた物ではない。英時君が、P5が街を壊す姿を見たくないと言った。自分とは明らかに違う存在を前にして、それでもP5は踏み止まれるはずだと信じようとした人がいた。
そこに希望を見た。
二人の仲を信じたくなった。だから、確かに私はP5を嫌いではないし仲良くしたいとは思っているけど、この気持ちの始まりは借り物で。もっと言うのなら、好きな人によく見られたくて同調しているに過ぎないのかもしれない。
「とにかく! 私たちの意思統一はしっかりしておきましょう!」
「うん。破壊の使者たちに対して、どういう対応を取るか、だよね」
そっと息を吐く。
二人は私のことをよくマイペースだっていうけど、本当はもっと利己的で、どうしようもないの。だって私はずっと、あの人の良く思われたくて、いい子のフリをしているだけなんだもの。
「私は、もう少しP5と話をしたいです」
だから私は嘘を付く。
「話して、わかってくれそう?」
「……わかりません。でも彼、なんだか子供みたいなんですよ。だから、もう少しだけ、説得できないか頑張ってみたいんです」
二人がプルートという世界を救いたいと願う横で、英時君に嫌な思いをしてほしくなくて、P5だけでも救われればいいと願ってしまっている。一人、足並みを揃えないで、違う方向ばかりを向いている。
さくらちゃんと七海ちゃんを信じていないわけではないけど、自分のことばかりで嫌になる。きっといつか、罰が当たるのね。
「人もプルートも傷付かずに済む方法はないのかな」
「どうかな。チュチュは、イノセントジュエルの力は無限ではないって。一方を救えば、もう一方は……」
あれこれと話し合う二人の横でそっと笑顔を作りながら静観する。
バイデントたちが探しているイノセントジュエルは、全ての世界を救えるわけではない。どちらか一方しか救えない奇跡。そのどちらもを願えない時点で、きっと私にイノセントジュエルを使う資格はないんだろうな。
「……カロンたちだけじゃダメで、私たちだけでもダメ」
「さくらちゃん?」
「なら。協力、するしかないよね?」
真っ直ぐなさくらちゃんと七海ちゃんが眩しい。
二人にも好きな人がいる。二人はその人を守るために、街を守り、そして街を壊そうとする存在までも救いたいと願える優しさを持っている。
そんな二人が私の憧れで、そうなれない自分が恨めしい。
「ねぇチュチュ。隠しごとをするのって、辛いですよね」
さくらちゃんと七海ちゃんが今後の方針を話しているのを聞きながら、そっとチュチュに話しかける。
普段はプリズムパクトの中で眠っているチュチュがそっと現れて、ぐっと伸びをしてみせた。
何かを知っているようだけど、あまり話してくれないのは私たちに言えない事情があるからなのか。
「サァ? なんのこと? 私にはわからないワ」
とぼけるように首を傾げたチュチュはきっと何かを隠している。それについては私もだから、あんまり深くは聞けないんだけど。
多分、誰かを傷付けるためのものではない、はず。でも結局は秘密にしているわけだし、隠しごとが嫌いな七海ちゃんにばれたら、私たちは二人とも怒られちゃうね。
「どうすれば、皆で幸せになれるんでしょうね」
「きっと大丈夫ヨ。私と、リホたちなら。きっと、ネ!」
なんて、耳障りの良い言葉を並べながら。
私たちは自分の心の中で、大切な人たちに順序を付けた。




