17 純粋な願いに打算を少し
なんとなく、いつもよりポケットの中に特別な重みを感じる。
今朝、身支度の時にポケットに今まで入れていた時計を取り出して、別の懐中時計を入れた。
本来ならラッピングなんかもした方がいいんだろうが、多分、そういう物の情緒もまだない気がするのでそのまま渡した方が目を引くだろう。
時計を作った。製作日数約二日。デザインから考え始めたらもっとかかるが、さすがに今回は手持ちのパーツと、父さんに頼んでいくつか外装パーツを貰って組み立てた懐中時計だ。
P5に渡すのならと、文字盤のガラスが割れないように蓋付きにした。アイツよくふらふらするし、その方がいいだろうと思った。
一から組み直した時計は、今はまだ完璧ではないのかもしれないが、P5を引き留めたい一心で、初めて誰かのためにと作った時計だ。
まぁ、正直柄じゃないとは思う。これでアイツを引き留められるとも思っていない。
それでも、少しの間だっていい。P5の気を引くことができたら、何かはきっと変わるはずだ。
大きく息を吐いて、適当に中身を詰めた鞄を肩にかける。
夏期講習も今週で一旦終わりだ。暑い時間に外に出なくて済むのは助かるが、クーラーの効いた教室を出るのはいささか億劫ではある。
そんな事言っていても仕方がないので、クラスメイトに声をかけつつ学校を出た。
考えなきゃいけないこともあるが、今のところ何とかなっている。
進学先も、結局工学系の学部がある大学にした。技術については父さんが教えてくれると言うし、見聞を広めるためにも、色々試してみるのもいいだろうということになった。
大学を決めたのも遅かったが、まぁ、何とかなるだろう。
「エージ!」
「こんにちは」
いつもの帰路で案の定、月島とP5に声をかけられた。いるとは思っていたが、この暑い中でも普通に公園にいるんだよなぁこいつら。
用事があったし、いてくれて助かってはいるんだが、それはそれとしてこの暑い中よく外に居られるなとは思う。元気そうでなによりだよ。
「何してるのー」
「帰るところだよ」
P5に手を引かれるようにして、歩道から公園内に連れ込まれる。いつものように屋根のある休憩所のベンチに押し込まれた。
ありがたいと言っていいのかはわからないが、P5にとって、俺といるのは比較的楽しいことに分類されているらしい。
そのことについて悪い気はしないし、別にP5の特別になりたいとかそういうわけでもない。ただ、今のコイツの状況が気に入らないだけ。
周りに感化されて、言われるままに行動しているだけなら、きっとまだ引き戻すことはできる。と、思いたい。
物の善悪がわかっていないのは、それを教える存在がいないからだろう。プルートとやらが危険な状況にあって、それを打破するために違う世界にまで来ているのなら、まともに倫理や道徳を教える奴がいなくてもおかしくはない。
だから、今からでも。
「時計見たい!」
「手出せ」
いつものように嬉々とした声色を上げたP5に返して、ポケットの中の真新しい懐中時計を取り出す。カチャリと、外蓋とチェーンの擦れる音がした。
俺の腕を掴もうとするP5の手を捕まえて、手のひらを開かせ、その上に時計を置く。
「上のボタン押してみろ」
「コレ?」
「そう」
不思議そうにロウソク頭を傾げるP5に、わかりやすいように言葉を短くし、指差す。P5の指が上部のボタンを押せば、ぱかりと文字盤を覆っていた外蓋が開いた。
P5が無言のまま懐中時計と俺を見比べて、パチパチと火の粉を弾けさせる。顔がない癖にわかりやすい。それこそ、普通に顔があったら目を輝かせているんじゃないだろうか。
「やるよ、それ」
「え? え! イイノ!」
「あらあら」
わぁわぁと声を上げながら頭を振り、P5が懐中時計を左右から見ている。そんなにか。とりあえず火の粉が舞って危ないから頭を振るな。
最終的に、手の上に時計を乗せて掲げるP5を眺めながら、一つ目の段階は、難なく突破できたとみていいんじゃないだろうか。
「よかったですね」
「ウン! リホにはあげないよー?」
「まぁ、ずるい」
嬉しそうに見せびらかすP5と、くすくす笑いながら返す月島に、何とも平和な風景だと息を吐く。
喜んでもらえたようで何より。そのまま夢中になって、イノセントジュエルだの、街を壊すだののことは忘れてくれ。
「嬉しそうですね。あれが言っていたもの、ですか?」
「まぁ、どれだけ効果があるかはわからないがな」
この時計が、P5が踏み止まるきっかけになればいい。
別に俺は英雄になりたいわけではないし、可能なら受験生である身で世界のあれこれに巻き込まれたくはないのだが、P5の仲間に暴れられ続けても受験どころではなくなるしな。
この時計と俺たちのことを憎からず思ってくれるなら、街を壊すのを思い留まってほしい。そしてその思いを他のバイデントたちにも話してくれたら、なんて。いささか都合がよすぎるか?
「この時計、エージが作ったの!?」
「そうだよ」
「ボクの?」
「そう」
にんまりと、ロウソク頭に刻まれた大きな口が嬉しそうに口角を上げる。
コイツとその仲間を仲たがいさせたいわけではない。
だが、これが和解のきっかけになればいい、とは思う。




