迫りくる危険
フォスさんと店員さんが“加工”について話している間、私は時間つぶしにフォスさんの横でガラスケース内に飾られているアクセサリーを眺めることにした。
いいなと思う物はあるんだけど……こっちの国の値段はよくわからないけど、桁数が……絶対にめちゃくちゃ高い。こんなのに囲まれてるとなんだか落ち着かないよ……
庶民生まれ、庶民育ちの私には場違いに思えて、だんだんと居心地が悪くなってくる。
居心地の悪さが疲れに替わり始めた頃、フォスさん達の“加工”の話がやっと終わった。
「それでは30分程お時間をいただきます」
「ああ、わかった」
フォスさんが私の今の表情に気づかないわけがなかった。
私の顔を見たフォスさんは始めの一瞬、何事だろうと思ったのかパチパチと瞬きをしていた。けれど私の表情の意味を悟ったようですぐにニコリと微笑んだ。
「ナツキ、出来上がるまでこの辺りの店を見に行かないか? こうして値の高い物を見ているより、ねだりやすい値の物を見ていた方が楽しいだろう?」
「うん、行く! 行きたいです!」
ねだりやすいとかいう話は置いておいて、いったんこの店から離れられるのならフォスさんの提案にも大人しく乗るというものだ。
私たちはフォスさんの提案通り近くの洋服を売っているお店へ足を運んだ。
ここでもやっぱり店員さんから嫌な視線を向けられ、アクセサリーに囲まれるとは別の居心地が悪さを感じていた。けれどこれもフォスさんが一睨みして、私を守ってくれた。
私はその優しさに気が付かないふりをして服に視線を向けた。
服を選ぶ振りをしながら、ちらりとフォスさんを見てみた。
フォスさんは視線に気が付かず、私に話しかけながら楽しそうに服を選んでくれている。
上品に生える長い睫毛を横目で見つめ続けていると、ついに視線に気づかれてしまった。
「? どうした?」
「なっ、何でもないです!」
慌てて首を振った。
けれど思わずしてしまった全力の否定は、何でもなくはないと行動で言っているようなものだ。
フォスさんフッと笑い、言った。
「正直に言ったらどうだ? 見とれてました、ってな」
フォスさんは視線に気が付きながらも知らないふりをしていたようだ。そして、「何でもない」という全力の否定は、ただただ見つめられていたのだと結論付ける要因になってしまったのだ。
私は口を尖らせ、いじけ混じりに言った。
「そうやって、からかって遊ぶなんて。フォスさん、意地悪ですね」
「いやいや、そんなつもりはなぞ? ただ、何故見られているのかがわからなかったからナツキの様子をうかがっていただけさ」
フォスさんは誤解だと両手を顔の高さまで上げ、首を振った。その時、壁にかけられた時計がふと視界に入ったようだ。
「そろそろ、取りに行っても問題ないかな」
「何をです?」
「もう忘れたのか? ナツキに送る指輪。まだ受け取ってないだろう」
「あー……」
受け取るのを楽しみにしていたわけではなかったため、すっかり忘れてしまっていた。
針はこのお店に入ってからすでに20分ちょっと経過していることを教えてくれている。
洋服選びを楽しんでいたわけではなかったはずなのに、時間の経過が早いように感じた。
つまりはほとんどフォスさんを見て過ごしていたという事。それほどフォスさんの顔がお気に入りなのかと再確認してしまい、私はなんとも言えない複雑な気持ちになった。
服にも指輪にも興味を示さなかった私に、フォスさんは困ったように笑っていた。
「ここの服はナツキのお好みではないようだし、早く受け取って次の店を回ろう」
「……そうですね」
洋服店を出てアクセサリーショップに戻ると、フォスさんは店員さんから小さな箱を受け取った。
フォスさんは箱を片手に柔らかな笑みを浮かべて近づいて来る。
「ナツキ、指を出してごらん」
言われた通り、私は無言で右手を差し出した。けれどそれはフォスさんの思惑とは違っていたらしい。
「反対の手だ」
「反対?」
そう言われ今度は左手を差し出すと、フォスさんは薬指に指輪をはめてくれた。そして満足そうにしていた。
加工されたという指輪は、見た目に変わったところは見られない。変先ほどと何も変わらない、女性が好みそうなかわいいデザインで、輝く石が控えめにはめ込まれている。
「これで変な輩も寄ってこないだろう。籍が入ったら今度は結婚指輪を買ってやるからな」
そこでフォスさんが指輪を送ろうといった意図がようやくわかった。しかも喜んで次の指輪まで買おうとしている。
「やめてください! もうこれで十分です‼」
「うーん、俺が買いたいんだが……ダメか?」
捨てられた子犬のような目に心がぐらついた。けれど、気持ちを持ち直しキッパリとお断りを入れた。
「結構です!」
どうにかフォスさんとの買う買わない戦争に勝つと、行先は決めずにアクセサリーショップを後にした。行先を決めなかったのは、どんな洋服店があるのか見ながら街をふらつくためだ。
「なんか大人っぽい感じのお店ばっかりですね」
「魔族の女性は気が強いのが多いからな。可愛いよりもそういった服を好むモノが多いのではないか?」
「ふーん。そういうものなんですかね」
「俺もよく知らんけどな」
そういう服も嫌いではないのだけど、どちらかというとカジュアル、もしくは可愛い系の服の方が好きだ。
私が「ここいいかも」と思ったお店はことごとく子供服の店だった。
私の趣味は子供だと見せつけたいのか!
気になる洋服店を見かける度にムッとして、そう叫びたくなった。
モヤモヤしながら歩いていると、道の先に人だかりができていることに気がついた。中心からは、何やら罵り合っているような声が聞こえてくる。喧嘩だろうか。
「テメェがぶつかって来たんだろうが!」
「あ? 何寝ぼけたこと言ってんだ! ぶつかって来たのはお前だろ!」
「っざけんな、ゴルァ!」
「ああ? やんのかぁ⁉」
しょうもない喧嘩内容だ。
こんなしょうもないことで喧嘩するなんて馬鹿馬鹿しい。それとも、理由なんて関係なくただ喧嘩をしたかっただけなのだろうか。
そして、見ている方も見ている方だ。止めに入るわけでもなく、ただ面白半分で眺めている。むしろ歓声が上がっている。
人だかりの内側の方は魔族ばかりが密集し、その周りには自身の主人を待っているのか、ちらほらと人間の姿があった。
「あー、ったく。何騒いでいるんだか。ナツキ、ちょっと止めに行ってくる。危ないから、端の方で待っていてくれ」
「わかりました」
フォスさんは騎士という立場上、このままこの人だかり放っておくわけにはいかないのだろう。仕方なさそうに近づいていった。
私は言われた通り建物の壁の傍で騒ぎが沈静化していく様子を眺めることにした。
聞いているとフォスさんに気が付いた喧嘩人達は、言い争っていたことなどそっちのけで慌てて逃げ出したようだ。しょうもないことで捕まりたくないのだろう。
「んん?」
ちょっと不自然なことに気がついてしまった。
叫ぶ内容を聞く限り、通行人同士がぶつかり合って喧嘩していただけのようだった。なのに、見間違いでなければその2人は同じ方向へ向かって慌てて逃げ、同じ角を曲がって行った。それはまるで仲がいい者同士のようだった。
ただの見間違いか偶然か。
騒ぎの張本人たちがいなくなると、見物人達も解散し始めた。
名前を呼び誰かを探しているヒトもいた。連れていた人間を探しているようだ。合流すると、皆何事もなかったように立ち去っていく。
けれど、名前を呼び続けるも、一向に連れていたであろう人間と合流できない魔族が何ニンもいるようだった。逃げられたのだろうかとも思ったけれど、私はフォスさんの言葉を思い出した。
「彼らの立場は大半がペットや奴隷だ。本人たちもそれが当たり前と思っているだろうな」
そんな人間が一度にこんなにたくさん逃げ出すものだろうか。
なんとなくそんなことを考えていると、視界の中にいきなり何か手のようなものが伸びて来た。ようなというよりも、それは魔族の手だ。
「!」
いきなり口を押えられ、危険だと感じた。迫りくる手を振り払い、この場から離れようとしたけれど、それはかなわなかった。
突如として襲い来る睡魔になすすべもなく、私はそのまま意識を手放した。
お読みいただきありがとうございます。
普通に平和な恋愛もの書こうと思していたのですが、平穏な世界に耐えられなくなった作者のせいで事件は起こりました。
というわけで。でわ、また次回!




