04 番との蜜月
「陛下の機嫌が非常に良いから助かってる」
ある日マークは、キリアンの側近のカインにそう言われた。
「?」
キリアンの機嫌の良さに自分がどう関わっているか分からなくて、不思議そうな顔をしているとカインは驚いた顔をした。
「おい、おい。お前、龍人の生態について勉強させてもらってないの?」
カインはキリアンの乳兄弟で、キリアンにもプライベートでは気安い口調だ。
そのまま番のマークにも気軽に声をかけてきて、まるで弟のようにあれこれ世話を焼いてくれている。
人間だと蔑まれているマークにとって、キリアン以外では王宮での唯一の味方だった。
「授業は龍人族の偉人の話や王宮のマナーが中心で…」
この国で生活するため、マークには教師がつけられていた。
「そんな事よりまずは龍人のことだろう? 違う種族なんだ、相互理解が前提だろう! くそ! キリアンのやつ、番に関しては本当にポンコツだな」
マークは付けられた教師に何の疑問も持たなかったし、キリアンは王として執務に忙しく、夜に会えても睦言や情事が優先で、マークの近況を尋ねることはなかった。
女官を始めとする王宮職員のマークに対する無礼な態度にも、いち早く気が付いたのはカインだった。
それをカインがキリアンに進言すると、彼は女官長をクビにし、マーク付きの女官たちを総入れ替えしてしまった。
確かにそれであからさまな蔑みは減ったが、人間に対する差別意識は根深く、根本的な解決には至っていない。
今もマークを王族として敬うという態度には程遠い状態だ。
カインは側近として行政に関しては権限を持つが、王宮内の内省にはそれがなく、非常に歯がゆく思っている。
「龍人の逆鱗について知っているか?」
「あ、それはキリアンから直接聞いたよ。首筋にある青いのとピンクの鱗の事でしょう?」
「そうだ。ピンクの鱗については聞いているか?」
「……寿命を分け与えるって…2,3年したら僕に食べさせるって言ってた」
「……そうか。食べさせるって言ってたか」
カインはほっとした。
キリアンのマークに対する溺愛ぶりは理解しているが、逆鱗を与えるかどうかはそれとは別だ。
きちんと番としてマークの将来を考えているのだと分かって安心した。
「青い鱗のはなしは?」
「これで僕を、番を見つけられたって…」
「そうだ。青い鱗で龍人族は番を感知できる。だが番を見つけられた龍人は少ないんだ」
「え!?」
「龍人は番に会えることを切望している。それこそ本能で生まれた時からな。だが、青い鱗を使ってもそれは難しい。なぜなら視界に入らないと番を見つけられないんだ」
「視界に…」
「その子を目で見て初めて青い鱗が反応し、番だと分かるんだ」
「……」
「だから龍人は年頃になると常に周りを見回している。学院を卒業したら旅に出る者も多い。国中を回って番を探すんだ。でも2年、3年…10年探し回っても見つけられる者は少ない。特にお前のように龍人族で無かったのならなおさら……もう奇跡だ。キリアンは本当にラッキーだったんだよ」
「そうして番に会えたら、青い鱗は今度は別の働きをする。番の愛情を感知できるんだ」
「おそらく番に見捨てられないようにそんな能力があるんだろうが……お前はここに来た頃はキリアンのことを何とも思っていなかったし、ただ戸惑っていただろう?」
「……」
その通りだ。
環境の変化についていけなくて恐怖すら感じていた。
「その頃のキリアンはいつもイライラしていた。自分の愛情が充分伝わっていないことと、お前から少しも愛情を感じないことにいら立っていたんだ。
でも最近のキリアンはご機嫌だ。お前からの愛情を感じて幸せなんだよ」
マークは自分がキリアンを愛し始めたことをキリアンはもちろん、周囲にも知られていたのかと恥ずかしくなった。
赤くなった顔をごまかすため話題を変える。
「カインに番はいないの?」
「……妻はいるが、彼女は番じゃない。俺は番が分からないんだ」
「え?」
カインが襟元を緩め首筋を見せる。
ピンクの鱗はあった。だが……
「青い鱗がない……」
「生まれた時から無かったんだ。先天的に欠損している俺のような奴は稀にいる。事故なんかで青い鱗が割れてしまって感知できない奴も結構いるな」
「青い鱗が傷ついたら、番への愛情もなくなるの?」
「そうだな~その存在を感知できなくなるし、番からの愛情も分からなくなるから影響はあるだろうけど……何? もしかしてキリアンがそんな事になるのを心配してる?」
「……」
「大丈夫だよ。鱗は結構固いんだ。簡単には傷ついたり割れたりしない。そして何よりあのキリアンの溺愛ぶりで分かるだろう? 鱗なんてなくてもお前以外、見やしないよ」
「……だといいけど」
「じゃ俺はそろそろ仕事に戻るわ。午後からもしっかり勉強しろよ」
そう言ってカインはマークの勉強部屋から出て行った。




