03 愛される番
だが、龍人族の貴族たちは、人間の男の番には否定的だった。
もちろん彼らも龍人だから、番が何者にも代えがたい存在なのだということは理解している。
だが、下等生物の人間を王の番、王配陛下として敬うのはプライドが許せないし、子が産めない男など言語道断だという意見が大半だった。
ある夜会に参加したマークをキリアンが大使に呼ばれた隙に話しかけてくる者がいた。
財務大臣ザバスで、娘のイアーナを連れていた。
「お前はこのままで良いと思っているのか?」
ザバスはいきなりマークを糾弾しはじめた。
「? どういう事でしょう」
「お前は男だ。子は産めない」
マークもそれは懸念していた。
キリアンのことを愛し始めていたが、自分では子どもを与えてあげることはできない。
このまま自分が側にいて、稀代の賢王として名高いキリアンの血を、後世に繋がなくてもいいのだろうかと。
「国民は陛下のお子が次代を継ぐことを切望しておる」
その空気をマークも常に肌で感じていた。
「お前から陛下に側妃を娶るように進言しろ! 子が産めない王配として義務を果たせ! いいな?」
そこで側から、娘のイアーナが甲高い声で叱責を始めた。
「農民あがりの汚らしい男娼がいつまでも陛下にしがみつくんじゃないわよ。さっさとこの龍人国から出て行きなさい」
「おやおや。ここに龍人族の法を知らぬ者がいるようだ。はたしてこの者たちは本当に龍人か?」
しみいるようなキリアンの声は会場によく響いた。
談笑していた貴族たちは口をつぐみ、固唾を飲んだ。
もちろんザバスとイアーナ親子も石像のように固まった。
「建国の頃から守られている龍人族の法では、『番同士を他者が引き離すは法度』とあるのを知らぬようだが、お前は我が国の者か?」
「……へ…陛下」
二人は真っ青になって震えあがった。
「さらにその法では『番の身分はより高き番側に準ず』とされていて、ここにいる私の愛しき番は私の身分に準じて王族となっておるが……はたしてその口のききかたは王族に対する言葉か?」
キリアンの人差し指が小さく振られた。
すると会場の奥から4人の兵士が駆けて来る。
「この龍人族でもない、我が国の国民でもない奴らを牢屋に放りこめ」
この二人は高位貴族で、代々財務大臣を務める家柄だ。
貴族たちと無用に揉めてほしくないマークはキリアンを止めようと思い、キリアンの袖を引いたがやんわりと制された。
「この場を借りて言うが、私は側妃を娶るつもりはない」
水を打ったように会場が静寂する。
「幸いにも親族に優秀な子どもも数人いる。王位継承に何ら問題はない。私が生涯愛するのは番だけ……」
そうして柔らかな笑顔でマークを見つめる。
「以上だ」
そう告げてキリアンはマークを連れて会場を後にした。
その夜、初めてマークからキリアンを閨に誘った。
全力で自分を庇ってくれ、生涯愛するのは自分だけと公衆の面前で宣言してくれたのだ。
キリアンは大喜びでマークを優しく愛した。
事後の気だるい雰囲気の中、マークの指がキリアンの首筋をなぞる。
キリアンの首には2枚の鱗が生えていた。
「ずっと思っていたけど、何故ここに2枚だけ鱗があるの?」
龍人族の身体には鱗はなく、この首筋にだけ残っている。
「これは龍の逆鱗だ。龍人にとって大切なものだ」
左の首筋には青い鱗、右の首筋にはピンクの鱗が、それぞれ1枚ずつ生えていた。
「青い鱗、これのおかげで番が分かるんだ。初めてお前を見つけた時、この鱗が燃えるように熱くなったんだ」
マークの指が青い鱗をなぞる。
そして次はピンクの鱗をなぞった時、キリアンはその手を掴んだ。
「ピンクの鱗はいずれお前に与えるものだ」
「え?」
「今は19才か…」
そう言いながらマークの裸の身体を、頭の先から足の先までたっぷりと時間をかけて見つめた。
「な…なに」
あまりに無遠慮に見るのでマークは赤くなった。
「もう2,3年したらこの鱗をお前に食べさせよう」
「へ? 食べるの?」
「ああ」
「僕が?」
「ああ」
「その鱗を?」
「ああ」
「食べれるの?」
「美味くはないが食えるはずだ」
「剥がして? 痛くないの?」
「凄く痛いらしい」
「ええ? どうしてそんなこと…!」
「これをお前に食べさせたら、お前に寿命を分けることができる」
「……」
「竜人の寿命は500年、人間は100年ほどだろう? 私は今60才だから残りは440年、お前は残り80年ほど……二人が同じ頃に人生が終えられるように、私の寿命をお前に分け与えることができるんだ」
「そんな…」
「お前に先に死なれたら生きていける自信がないからな」
「そんな…どうして…」
「何? どうした?」
マークの瞳から涙がこぼれた。
「こんな良い暮らしをさせてくれて、寿命…命まで分け与えるなんて……どうしてそこまで…!」
「番だからに決まっているじゃないか」
「……僕はキリアンにどう恩返ししたらいいか分からないよ」
「恩返しなんていらない。ただ、愛してくれればいい」
「キリアン…」
まだキリアンの愛を完全に信じ切れていなかったマークの頑な心が、ようやく溶けた瞬間だった。
そうして彼らはふたたび抱き合い、夜の営みを再開した。




