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生産職だと勇者パーティーを追放されたが、万能クラフトで最強の隠居生活を始めます  作者: 黒崎隼人


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第2話「白銀の仔狼」

 泉のほとりで野営の準備を終え、ソウタは手作りの鍋で湯を沸かしていた。

 湯気と共に、摘み取った野草の青臭くも爽やかな香りが漂ってくる。

 干し肉を削ぎ切りにして鍋に放り込み、しばらく煮込むと、肉の旨みが溶け出した食欲をそそる匂いが辺りを包み込んだ。

 木の枝を削って作った匙でスープをすくい、ゆっくりと口に運ぶ。

 素朴な味付けだが、空き腹には十分に染み渡る美味しさだった。

 温かいスープが胃に落ちると、体の内側からじんわりと熱が広がり、緊張が解けていくのを感じる。


『やっぱり、自分で作った飯はうまいな』


 ソウタは独り言を言いながら、泉の水面を眺めた。

 月光を反射してきらきらと輝く水面は、見ているだけで心が落ち着く。

 ふと、背後の茂みから微かな物音が聞こえた。

 風に揺れる葉の音ではない。

 何か生き物が、枯れ葉を引きずるような重く不規則な音だった。

 ソウタは匙を置き、腰のナイフに手を伸ばした。

 ここは死の森だ。

 凶悪な魔獣がいつ襲ってきてもおかしくない。

 呼吸を潜め、音のする方向へと鋭く視線を向ける。

 茂みがガサリと大きく揺れ、中から小さな影が転がり出てきた。


「……犬?」


 ソウタの口から、予想外の言葉が漏れる。

 地面に倒れ込んでいたのは、純白の毛並みを持つ小さな獣だった。

 耳はピンと立ち、ふさふさの尻尾を持っているが、体つきはまだ幼い。

 しかし、普通の犬ではないことは一目でわかった。

 その体からは、微かに冷たい魔力の波動が漏れ出ている。

 仔狼は苦しそうに浅い呼吸を繰り返し、脇腹からは赤黒い血がべったりと滲み出し、純白の毛を汚していた。

 深くえぐられたような傷口は痛々しく、かすかな息を吐くたびに小さな体が小刻みに震えている。


『このままじゃ、死んでしまう』


 ソウタは警戒を解き、仔狼のそばへと駆け寄った。

 そっと手を伸ばし、血に汚れていない背中を撫でる。

 毛並みは驚くほど柔らかく、絹のようになめらかだった。

 仔狼はビクッと体を震わせ、うっすらとまぶたを開いた。

 氷のように澄んだ青い瞳が、弱々しくソウタを見上げる。

 その瞳には、恐怖ではなく、どこか助けを求めるような色が浮かんでいた。


「大丈夫だ。今、手当てをしてやる」


 ソウタは優しい声でなだめると、急いで革袋の中から布切れと、先ほど摘んでおいた薬草の残りを取り出した。

 薬草を手のひらに乗せ、万能クラフトの力を発動させる。

 淡い光が薬草を包み込む。

 植物の繊維が分解され、薬効成分だけが抽出され、濃縮されていく。

 数秒後、ソウタの手の中には、エメラルドグリーンに輝く粘り気のある液体が精製されていた。

 ただの傷薬のつもりで作ったそれは、失われた四肢すら再生させる神話級の霊薬エリクサーであったが、ソウタがその事実を知る由もない。


「少ししみるかもしれないが、我慢してくれよ」


 ソウタは仔狼の脇腹の傷口に、緑色の液体をゆっくりと塗り込んだ。

 液体が傷口に触れた瞬間、まばゆい光が溢れ出す。

 赤黒くえぐられていた肉が、まるで時間を巻き戻すかのように急速に盛り上がり、新しい皮膚が覆っていく。

 わずか数回の瞬きの間に、致命傷だったはずの傷は完全に塞がり、血の跡すら残っていなかった。

 仔狼は驚いたように体を起こし、自分の脇腹の匂いを嗅ぐ。

 痛みが消え去ったことを理解したのか、氷のような青い瞳を丸くしてソウタを見つめた。


「よかった。これで一安心だな」


 ソウタはほっと胸をなでおろし、仔狼の頭を優しく撫でた。

 仔狼は抵抗することなく、目を細めてソウタの手のひらに頬をすり寄せてくる。

 その体温が指先から伝わってきて、ソウタの胸の奥に温かい感情が広がった。

 ふと、仔狼のお腹から、小さな音が鳴った。

 傷は治ったが、空腹はどうにもならないらしい。


「腹が減ってるのか。俺の飯でよければ、食べるか?」


 ソウタは焚き火のそばに戻り、木のお椀にスープと柔らかく煮込んだ肉を取り分けた。

 少し冷ましてから、仔狼の前に差し出す。

 仔狼は警戒しながら匂いを嗅いでいたが、肉の匂いに抗えなかったのか、恐る恐る舌を伸ばした。

 スープを一口舐めた瞬間、仔狼の瞳が大きく見開かれる。

 次の瞬間には、我を忘れたように猛烈な勢いで肉に食らいつき、あっという間にお椀を空にしてしまった。

 顔を上げた仔狼は、口の周りを舌でペロリと舐め、もっと欲しいとばかりに尻尾を勢いよく振っている。


「ははっ、よく食べるな。お前、名前はなんて言うんだ?」


 もちろん、獣が言葉を返すわけはない。

 ソウタは少し考え込み、純白の毛並みを見つめた。


「よし、今日からお前はシロだ。俺はソウタ。よろしくな、シロ」


 シロと呼ばれた仔狼は、その名前を受け入れたかのように、嬉しそうに短く吠えた。

 ソウタはシロを抱き上げ、自分の膝の上に乗せる。

 柔らかな毛並みの感触と、小さな鼓動が直接伝わってくる。

 一人きりで始まった森の生活に、思いがけず小さな家族ができた夜だった。

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