内容は普通、だが言い回しが中二病すぎる
朝。
「おはようございます」
少女が言う。
普通だ。
……と思った瞬間。
「我は夜の帳を打ち破り、暁の光をその瞳に宿した存在――すなわち、起床した」
「普通に言え」
外に出る。
通りの人が挨拶してくる。
「今日もまた、天より降り注ぐ光が我らを祝福している」
「晴れてるだけだろ」
パン屋。
店員がゆっくりと手を広げる。
「見よ、この偉大なる大地の恵みを、灼熱の業火にて鍛え上げし結晶――」
「パンだろ」
「いかにも。外殻は硬質なる守りを持ち、内には柔らかき慈愛を秘めている」
「だからパンだろ」
⸻
俺はパンを手に取る。
「これ一つ」
店員が頷く。
「その選択、運命に導かれし必然……対価は三の黄金」
「3ゴールドな」
「支払いを確認。契約は成立した」
急に普通。
通り。
兵士が近づいてくる。
「我らはこの地の秩序を守護する者。混沌を打ち払い、静寂を維持する使命を帯びている」
「つまり?」
「治安は安定しています」
最初から言え。
少女が言う。
「今回のアップデートにより、表現の荘厳化が行われました」
「言い方だけ強くするな」
「平凡な事象に深みを与えることが目的です」
「深みで誤魔化すな」
広場。
男が女に話しかけている。
「我が心は、貴様という存在に囚われている」
「重い」
女が少し困りながら答える。
「えっと……どういう意味ですか?」
男は力強く言う。
「好きです」
「最初から言え」
その時。
パン屋の店員が走ってくる。
「大変です!我らが誇る至高の結晶が、制御を離れ――」
「パンがどうした」
「焦げました」
「それだけかよ」
少女が空を見上げる。
「見てください。蒼穹を切り裂きし影が――」
俺も見る。
「鳥だな」
「はい。鳥です」
雰囲気だけ出すな。
その時、ウィンドウ。
「ユーザーフィードバック」
来た。
「“言ってることは分かるが疲れる”」
それな。
「“もっと普通に話してほしい”」
ほんとそれ。
「改善を検討します」
やめろ。
少女が言う。
「次のアップデートでは、表現のスペシャル簡略化が予定されています」
「ただの簡略化な」
俺は空を見上げた。
「この世界、普通に喋るだけでいいのに……」
少女が静かに言う。
「それは、容易でありながら最も困難な行為です」
「深いこと言ってる風やめろ」
少女が一言。
「パンは、パンです」
「それでいいんだよ!!」
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