比喩でしか会話できない世界、詩人しか生き残れない
本日より、毎日2話”以上”投稿となります!
今日も朝が来た。
「本日は、空が青い絵の具をこぼしたような一日です」
少女が言う。
「……晴れって言え」
「はい。晴れです」
言えるんかい。
「ただし、現在の仕様では直接的表現は制限されています」
じゃあ今の何だよ。
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外に出る。
通りの人たちが話している。
「今日は風が優しく頬を撫でていますね」
「まるで母親のような安心感です」
分かるけど長いな。
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パン屋。
店員が誇らしげに言う。
「こちらは、小麦という大地の記憶が、炎という試練を経て、新たな姿に生まれ変わったものです」
「パンな」
「はい、パンです」
戻るな。
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「外側は、太陽に愛された大地のように少し硬く、内側は雲のように柔らかいです」
「分かるけどめんどくさいな」
「スープと共に食べることで、その魅力はさらに花開きます」
「ヒント形式やめろ」
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通り。
兵士が近づいてくる。
「現在のこの街は、波一つ立たない湖のように穏やかです」
「平和ってことな」
「しかし、石を投げれば波紋は広がります」
「急に怖いこと言うな」
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少女が言う。
「今回のアップデートでは、表現の豊かさが重視されています」
「豊かすぎるだろ」
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広場。
カップルが話している。
男が言う。
「あなたを見ると、私の心は迷子の子犬のように落ち着きを失います」
「不安なのか好きなのかどっちだよ」
女が答える。
「私はあなたといると、暖炉の前にいるような安心感を覚えます」
「あー、これは好きだな」
成立してるのが腹立つ。
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その時。
騒ぎが起きた。
人が倒れている。
周囲が叫ぶ。
「誰か!彼が今、大地と強く抱きしめ合っています!!」
「倒れてるだけだろ!!」
「体から赤い花が咲いています!!」
「出血って言え!!」
俺は駆け寄る。
「大丈夫か!?」
男が苦しそうに言う。
「私の足は今、壊れた橋のような状態です……」
「折れてるなこれ」
少女が冷静に言う。
「応急処置を行います。これは、傷ついた時間を少し巻き戻す行為に似ています」
「普通に言え」
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包帯を巻きながら、
「この布は、あなたの痛みを優しく包み込むでしょう」
「ただの包帯だろ」
男が言う。
「ありがとうございます。あなたは暗闇に差し込む一筋の光です」
「それは言い過ぎだろ」
俺は立ち上がって呟く。
「……これ、慣れたら普通に生活できるな」
少女が頷く。
「はい。理解には多少の時間を要しますが、意味は伝達可能です」
「でも時間かかるな」
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その時、空にウィンドウ。
「ユーザーフィードバック」
来た。
「“詩的で美しいが、理解に時間がかかる”」
その通り。
「改善を検討します」
やめろ。
少女が言う。
「次のアップデートでは、より分かりやすい表現が導入される予定です」
「それ最初からやれ」
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帰り道。
少女が言う。
「あなたと過ごす時間は、穏やかな川の流れのようです」
一瞬、普通にいいこと言った。
俺は少し笑った。
「……それは分かる」
少女、
「つまり、楽しいということです」
「わざわざ翻訳するな」
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俺は空を見上げた。
「この世界、遠回しにしないと気持ち伝えられないのかよ……」
少女が静かに言う。
「遠回りだからこそ、伝わるものもあります」
ちょっといいこと言うな。
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その時、遠くで叫び声。
「パンが空から降ってきます!!まるで神の恵みのように!!」
「比喩以前に何でだよ!!」
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俺はため息をついた。
「この世界、ポエムと現実の落差激しすぎるだろ……」
少女が一言。
「仕様です」
「分かってるわ」
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