漆
神谷と村野は相変わらず2人で行動していた。ある日、刀を持って歩く衆人に会った。咄嗟に抜刀した神谷は斬りかかろうとしたが、相手は刀を抜く素振りをし ない。
無間地獄からこちらに来て、現世の時間で言えば半年が経っていた。神谷たちは、等活地獄や無間地獄に居た時のように無抵抗の相手に斬りかかるような真似はしなくなっていた。
「斬りかからないんだ」
「ああ。無抵抗の奴に斬りかかっても詰まらないからな」
「一ついいかな? あなた達も能力を持っていると思うけど、現世の人に影響を与える能力かい?」
「俺は多分違う。未だに自分の能力が何なのか分からないから使ってないんだ」
「なるほど。女性の方は?」
「私は現世人に影響を与える能力よ」
「そうか。じゃあ、現世人にイタズラをしたことはあるかい?」
「いや、現世人とは極力関わらないようにしている」
「なんだ、詰まらないな。僕は何度も現世人に イタズラしてきたよ。別に知られたからって不利になるような能力じゃないから言うけど、僕の能力は3秒だけ現世の人に姿が見えること」
「なんだそれ。そんなことして何の意味があるんだ?」
「分からないよ。僕だってイタズラ程度でしか使ったことないし」
青年は安居浩太と名乗った。生前、女児殺害事件を数件起こし、反省どころか人を人とも思わない殺人犯だったようだ。話を聞けば、彼の能力は現世人が話しかけて来るほどハッキリと現世人に姿が見えるようだ。たった3秒で消える為、すぐ幽霊扱いされると少し嬉しそうに話していた。
安居は話を続けた。この能力はイタズラをする為だけに使ってきたが、実は1度だけ人助けにも使ったことがある。親の目が離れた隙 に車道に飛び出た子供を咄嗟に歩道へ引き 戻して救ったそうだ。姿を現す3秒間は現世の物や人に触れることが出来るようだ。
「君の能力は素晴らしい能力だと思うよ。俺みたいに何の能力か分からない役立たずなんかよりはね」
「そう言ってくれたのはあんたが初めてだよ」
「他の衆人にもその能力の事を言ったのか?」
「ああ。中沢って衆人が居たの覚えているかい?」
「覚えてるさ。とっつきにくいだけじゃなくて人殺しオーラ炸裂の奴だろ?」
「そうそう。あの人にも言ったら“使えねえ”って一刀両断だったよ」
「それを言った中沢の顔、大体想像出来るな。それより中沢の能力は何なんだろうな」
「僕も聞こうと思ったんだけど答えてくれなくてさ。一緒に居た川上って奴が“消される前に失せろ”って僕を追い出したんだ」
「中沢と一緒に川上も居たの?」
「最初は川上に会ったんだよ。それで能力の話をしたら中沢のところに連れて行かれたんだ」
川上は衆人を探し出す能力。中沢のところに衆人たちを連れて行って何を企んでいるのかと神谷は考えた。しかし中沢の能力も気になるが、まずは神谷自身の能力を解明しなければ話にならないと思っていた。。
「安居くん」
「浩太で良いよ。何?」
「浩太は他の衆人の情報をどこまで知っているんだ?」
「神谷さん、それを話す前に一ついい?」
「何だ?」
「僕を仲間にしてくれない?」
「仲間……。仲間になって何か良い事でもあるか?」
「僕、こんな能力だから色んな衆人に会った時、散々馬鹿にされたんだ。その代わり、相手の能力も聞 き出せた。その中で1人、今の神谷さんに必要な能力を持った人が居たよ。でもその人が川上に見つかれば、確実に中沢の仲間にさせられる。その前にこちらに引き込んだ方が良い」
「中沢が何か企んでいるのか?」
「多分、現世の人達を殺すことで快感を得ようとしているはずだ。だから現世人に影響を与えることが出来る衆人を集めているのだと思う」
多分、今回現世に連れて来られた衆人の中で一番若いであろう浩太は、意外にも情報収集に長けた人物だった。神谷は浩太を仲間にして、自分に必要な能力を持つという衆人の元へ向かった。その衆人は浩太と仲良くなっていたらしく、既に居場所は分かっていた。
多田健。中年の優しそうなおじさんという感じだったが、 実は無差別通り魔事件を起こした死刑囚だ。
「どうも。神谷です」
「多田です。浩太くんは神谷くんの方に付くのかい?」
「うん。やっぱり中沢の方は怖くて僕には無理だよ」
「そうか。じゃあ私も神谷くんの方に付こう」
何やら二人の間で始めから相談していた様だが、神谷や村野には全く理解出来なかった。
「あの……。俺の方に付くとか中沢の方に付くとか、一体何の話ですか?」
「神谷くん、君は自分の能力が何か知っているかい?」
「それが、自分でも分からないんです」
「私はね、衆人の持つ能力を読み取り分析する能力なんだよ。君が何の能力で、どう使えばいいのか、何が弱点なのかを見る事が出来るんだ」
浩太が言ってた通り、今の神谷にとって必要 な能力だった。神谷は早速、多田に能力を見てもらった。
「いざ参らん!」
多田は10秒ほど神谷を見つめ続けた。そして口を開いた。
「神谷くん。やはり君にはリーダーとして我々を引っ張って行ってもらう事になりそうだ」
「どういうことですか? 俺の能力って一体……」
「君の能力は衆人を閻魔大王の元へ送り戻すこと。合言葉に反応して刀に力が宿り、その刀で斬った衆人をこの現世から閻魔大王の元へ送ることが出来る。つまり、寿命が尽きるか閻魔大王の判断で戻されるかだけでなく、君の能力でもあちらの地獄に戻す事が出来るということだ」
――なるほど。だからあの時、光った刀に刺さっていた森田は消えたのか。
「だったら危険だと思った奴は俺が送り返せば良いという事か」
「そういう事だ。しかしそれより厄介なのが中沢だ。奴の能力は衆人を消滅させる事。つまり、寿命でも閻魔大王の判断でもなく、中沢の意思で完全にこの世から消滅させられる。能力を宿した中沢の刀で斬られれば生き返る事が不可能という事だ」
衆人をも消滅する事が出来る中沢率いる現世人を殺す派。衆人を殺さず閻魔大王の元へ送り返しす事が出来る神谷が率いる現世人を守る派。今ここに2つの対立するグループが結成された。守る派を「ガーディアン」と名付け、中沢率いる殺す派を「マーダー」と呼んだ。




