陸
神谷は気になって振り返ると、その男は猛スピードで走り去った。嫌な予感がして咄嗟に追いかけた。神谷が曲がり角を曲がったとき、路上で血まみれの現世 人が4人倒れていた。その真ん中 に1人の現世人が包丁を持って立っていた。
偶然にも通り魔事件に遭遇しただけなのか、それとも衆人の仕業か。真ん中に立っている現世人を斬って確かめるのもよかったが、一人で動くには危険が多いと判断して村野が追いつくのを待つことにした。
走ってきた村野が息を切らしながら神谷の横に到着した。それと同時に包丁を持っていた現世人から、先ほど神谷が追いかけていた男が出てきた。
――――やはりあいつは衆人だったのか!
神谷は確信したが、男は衆人が持っているはずの刀を持っていない。現世人に乗り移り通り魔殺人を犯しているのを見たところ、森田なのは間違いないはずだ。
「お前、森田か?」
「ああ、そうだよ。昔、ここで同じように通り魔殺人をした森田だ 」
「色々聞きたいことはあるが、刀はどうした?」
「刀? ああ、これか」
そう言うと森田の左手が光り、刀が現れた。
「どういうことだ?」
「お前ら、ずっと刀を持ったまま移動しているところを見ると何も知らねえみたいだな。アハハ、可哀相だから教えてやるよ。刀は左手に収納できる。自分の刀と会話をすれば、出し入れの方法ぐらいは教えてくれるぜ。お前ら、刀はただのアイテムぐらいにしか思っていないのかも知れねえが、刀にも意思があるって知ってたか?」
「刀と会話? 意思がある? 言っている意味がさっぱり分からん」
「俺が教えてやるのはここまでだ。あとは自分で何とかしろ。ところでそこの姉ちゃん。お前も乗り移りの能力だろ?」
「何でそれを?」
「川上から聞いたよ。兄ちゃんの能力は分からなかったって嘆いてたけどな。何なら今ここで解明してやろうか?」
そう言うと、森田は抜刀して襲い掛かってきた。神谷は森田の攻撃を防ぐのに精一杯だった。森田は反撃する隙がないほどのスピードで斬りかかって来る。森田の斬ってくる刀にタイミングを合わせて全力で弾き返すと、森田は弾かれた反動を利用して近くに居た現世人に乗り移った。
森田は先ほどの通り魔事件で集まってきた野次馬や警察の中に飛び込んで行き、警察が犯人から押収したばかりの包丁を再び奪ってそのまま周りの現世人を斬りつけ始めた。その場に居た人たちは大パニックで一斉に逃げ出し、神谷たちの身体をどんどんすり抜けていく。
野次馬が居なくなり、警察が包丁を持つ現世人(森田)を取り囲んだ。その場に居た人たちは森田を警戒して動きが止まった。野次馬も居ない見 晴らしが良くなった 所で、警察にも森田にも見えていないのを利用して村野が森田が入っている現世人に斬りかかった。現世人から抜き出された森田はその場に倒れこみ、その隙に神谷は森田の腹に力いっぱい込めて刀を突き刺した。
「くそ。やはり乗り移りの弱点を知っていたか」
「当たり前だ。俺達はお前を止めるためにこの場所に来たんだから」
「でも、俺の目的は達成した。いや、これからも続いて行くさ」
「そうはさせない!」
「どうやって? たとえ今俺を殺しても、生き返っては乗り移り殺人を犯す繰り返しだ。俺の寿命が尽きるか、現世人が全滅するか。どう考えても現世人の全滅が先なのは目に見えている」
神谷は返す言葉がなかった。閻魔大王が森田を地獄へ戻さない限り、日本は全滅の道まっしぐらだ。
――くそっ!
刀を差したままの神谷が森田との問答で悩んでいると村野が声をかけてきた。
「神谷さん、福岡から東京までの電車で寝てたじゃないですか。夢で鬼に会わなかったんですか?」
――そういえばあの鬼が出てきたな。そして何か託された気がする。
「もし鬼が出てきたなら、何か力を授かっているかもしれません。今ココで使える能力かどうか分かりませんが、一度やってみる価値はあるかも」
神谷もあの鬼の言い方から、今の状況を打開出来る何かがある気がした。
――何でもいい。今役立つ何か能力を発動してくれ!
「いざ参らん!」
合言葉を言ったと同時に神谷の身体は光り、森田に突き刺していた刀が共に光った。すると森田の身体も同じように光り、姿が消えた。
――どういうことだ?
森田が消えた。神谷も村野も全く今の状況がつかめない。
――俺の能力はワープか何かか? もしワープだとしたらどこに飛んだのか検討も付かない。
森田が消え、身体を乗っ取られた2人の男性が放心状態で突っ立っていた。警察は現行犯で男2人の身柄を拘束した。
神谷は自分の能力を理解するのに時間がかかっていた。
消えたのは消滅したのか、どこかにワープさせたのか。しかしワープの能力とすれば、どこに飛ぶか分からない力を使い、あんな殺人鬼を別の場所で野放する危険がある。神谷は自分の能力がはっきりと理解するまで使わないことにした。
以来、通り魔事件も無くなり、たまに会う衆人の中でも森田を見たと言う者は居なくなった。




