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地獄の果てまで行ったら現世に戻りました  作者: 真灯出愼
第弐章―神谷龍之進編―
41/42

肆拾壱

 日が暮れ始め、空も薄暗くなってきた。洋介は龍之進の話をもっと聞いていたいと駄々をこねたが、流石に人気のない公園で幽霊と一緒に長時間居るのは良くないと説得して今日は別れることにした。

 洋介は毎日17時にここで待ち合わせをしようと提案してきた為、龍之進は承諾した。帰っていく洋介の背中を見送り、龍之進は衆人探しを始めた。


 毎日17時に公園に行かなければいけない為、遠出することが出来ない。龍之進はどうしようかと考えたが、ちょうどいい時に岡島が姿を現した。他の衆人たちの近状を知る方法を伝えるのを忘れていたと言いに来たのだ。


「龍之進さん、伝え忘れがあって」

「どうしたんだい?」

「現世に居る衆人は全員繋がっているんです。能力とは無関係に。どこでもいいので水がたまっている場所に自分の左腕をそっとかざしてください。するとランダムですが、水面に他の衆人の今の状況が見えます。あと、個々の能力は基本的に閻魔大王が決めて授かっていると思うので、龍之進さんも何か役立つ能力を開花するかと思います」

「水面に左腕をかざすのか。わかった、やってみるよ。わざわざありがとう」


 岡島は今度こそ伝えるべきことを伝えたと確認してその場を立ち去った。それからは龍之進は自分の役割をしっかりこなしながら洋介とも毎日交流を続けていた。

 ある日、龍之進は龍二がやっていたように能力を発動させてみた。


「いざ参らん!」


 体の変化はない。しかし何となく分かっていた。ワープの能力ではないかと思い、場所をイメージした。するとワープすることが出来た。

 刀だった頃の龍二たちの話で、ワープは衆人も現世人も飛ばせると言っていたのを思い出した。これなら洋介を飛ばすことも可能だということ。悪影響でなければ飛ばしてもルール違反にはならないだろうと龍之進は思った。


 現世には龍之進を含めて20人の衆人がいる。全員が良い人というわけではない為、ルールを破って現世人に危害を加えようとする者も現れる。

 龍之進は水面を利用して各自の動きを逐一チェックし、怪しい行動をしている者が居ればワープで近辺に飛び尾行するという日々を送っていた。


 ある日、閻魔大王から貰った刀で現世人を斬ろうとしている衆人が居た。龍之進はすぐにその衆人の元へ飛び、少し遠目から様子を伺った。すると、衆人は現世人の女性を斬り始めた。能力的に影響のないものだった為、現世人は斬られていることに気付いていない。しかし衆人は一心不乱に斬っている。

 龍之進が止めに入ったときに衆人の男性は動きを止めた。


「やめろ。どうしたんだ?」

「あんたは確か、龍之進……? ああ。俺が怪しい行動をしていたから監視していたのか。あの女は詐欺師でな。俺もあいつに騙されて結局借金まみれで自殺したんだ。あの女を見つけた瞬間、怒りが込み上げて居ても立ってもいられなかった」

「そうだったのか。でもあんなことをしても何の意味もないぞ」

「分かっている。それがこの現世地獄の特徴だもんな。分かっているんだが……」

「その鬱憤、少しでもやわらげてみるか?」


 男の名はたにみつる。不思議そうな顔をしている谷を龍之進はワープで浩太の家に連れて行った。浩太は家に居る様子だったので、谷を待たせて龍之進だけ家の中に入っていった。

 急に現れた龍之進を見て少し驚いた顔をした浩太はすぐに自室へと向った。着いていった龍之進は浩太の部屋で2人きりになったところで本題を話し始めた。

 浩太は少し考えた後に了承してくれた為、外で待っていた谷を家の中に招き入れた。


「俺は霊媒師とかそういうのじゃないから上手く出来るかわかりませんよ」

「分かってる。でも何もしないよりマシかなと思ってな」

「よろしくお願いします」


 浩太は谷にいくつか質問を始めた。谷は真剣に答えながら2人で会話を始めた。心理カウンセラーの浩太なら、谷の胸に引っかかっているものを取り除けるのではないかと思って連れてきたのだ。

 幽霊が見える心理カウンセラーは中々居ないだろう。しかも、幽霊に理解力のある者となれば浩太しか居ないのではないかと思う。


 部屋の外で廊下を歩く足音が聞こえた。現世の人からすれば浩太が1人で喋っているような感じに見える。しかし部屋の扉が閉まっている為、電話でカウンセリングをしているのだろうと思ったようだ。

 洋介は部活で遅くなると昨日言っていたので、龍之進もゆっくり浩太の家で落ち着いて話を聞いていた。


「浩太さん、ありがとうございました。お陰さまでなんだかスッキリした気分です」

「それはよかった。心の闇が深くなって悪霊になってしまっても困りますから」

「浩太、ありがとう。どうお礼をすればいいか分からないが、何かして欲しいことがあれば努力はするよ」

「そうだね。じゃあ、次の休みの日にでも龍二叔父さんの話を聞かせてよ」

「それならお安い御用だ」


 浩太が休みの日は玄関に赤い布を括っておくと約束して、谷と龍之進は浩太の家を後にした。


「龍之進、ありがとうな」

「構わんよ。それが俺の役目だからな」

「もう少し現世を楽しんでみるよ。じゃあ」


 谷は龍之進に手を振って去っていった。夜7時になろうとしていた頃、龍之進は慌てて公園に向った。洋介との約束の時間だった。

 近くだった為、ワープせずに少し走って公園に向った。すると制服姿の洋介が既にブランコに座って待っていた。


「悪い。遅くなった」

「いいよ、今来たところだから」


 いつも洋介の学校での話を聞いてから、それを踏まえて龍之進が生きていた頃の話や死んでから思う事を交えて話していた。

 洋介は龍之進と話すようになってから異様に歴史の成績が上がったと喜んでいた。ちょうど龍之進が生きていた頃の戦国時代の範囲を勉強している様子だった。


「教科書ではこんな感じなんだけど、実際のところどうだったの?」

「あまり覚えていないんだけどな。俺が仕えていた大名家は歴史に名を残すようなお人ではなかった。言っておくが、お前達がよく知っている織田信長は俺より年下だからな! 俺は10歳で家督を継ぎ、代々仕えていた大名家の側近にまで駆け上がった。しかし、その頃は信長公が元服した年でな。随分話題にあがったものだ」

「織田信長より年上なんだ。何だか不思議な感覚だね」


 洋介はどんどん龍之進に懐いている様子だった。

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