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地獄の果てまで行ったら現世に戻りました  作者: 真灯出愼
第弐章―神谷龍之進編―
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肆拾弐

 完全に日が暮れてしまった公園は少ない街灯で薄暗く不気味だった。そこに怪しげな男の影が見えた。一人で喋っている洋介をジッと見つめている様子だった。危険を感じた龍之進は、洋介に帰るように促し洋介は鞄を持って帰って行った。龍之進が見送ると、怪しい男が洋介の後を付けていくのが見えた。

 龍之進は嫌な予感しかしなかったので、警戒をしながら洋介をつける男の後ろを歩いていた。すると男は鞄からナイフのような光るものを取り出し、襲い掛かる機会を伺いだした。


「洋介、今すぐ走って次の曲がり角を左に曲がれ!」


 龍之進が叫ぶと洋介も誰かにつけられているのに気付いていたのか、振り向かず猛ダッシュで走り出した。急に走り出した洋介に男も驚き慌てて追いかけたが、曲がり角を曲がった先に洋介は居なかった。洋介を見失った男は苛立ちからナイフを地面に投げつけた。


「くそっ。次は必ず仕留めてやる」


 そう呟いて、男は来た道を帰って行った。龍之進はそれを見て、なぜ洋介が狙われているのか分からないが、今後あの公園で会うのは危険だと感じた。


 洋介は走って角を曲がると家の前にいた。まだ家までは数分の距離があったはずなのに、どうして自分が家の前に居るのか分からなかった。

 家に入ると両親は夕食を食べずに洋介が帰ってくるのを待っていた。「遅くなった」と一言謝り、いつものように家族で夕食を食べた。両親は特に遅くなった理由を聞かず、普段通りだった。洋介は風呂に入って自室で宿題をしていると、急に部屋に龍之進が現れた。


「洋介」

「うわ! ビックリした。急に現れないでよ。一応幽霊何だから、その辺分かってよ。で、家まで来てどうしたの?」

「悪い悪い。さっき洋介をつけてた男、ナイフを持っていたんだよ。何故だか分からないけど洋介が狙われているのは確かだ。今後あの公園で会うのはやめよう」

「ナイフ!? なんで僕が……。それに、あの公園で会えないってことは、今後龍之進と会えなくなるってこと?」

「会えない訳じゃない。とにかくこれから会う場所は変えよう。洋介の身に何か起こってからでは遅いからな」


 洋介は心配する龍之進を見て提案をのんだ。しかし、洋介はもうひとつ気になることがあった。


「あの時、龍之進に走って角を曲がれって言われて曲がったら家の前に居たんだけど、何かしたの?」

「ああ。ちょっとした能力が使えるんだよ。瞬間移動的なね」

「凄いね!! 超人みたい!」

「現世に居る俺みたいな幽霊達は皆持ってるよ。種類は違うだろうが」


 目を輝かせる洋介を見て、ふと嫌なことが頭を過ぎった。


「洋介、早く死にたいとか思ってないだろうな?」

「え……。そんなこと、思ってないよ」

「図星か。いいか、自殺は地獄では最も重い罪だ。自分の命を大事にしない奴が自分の好きな道を歩けると思うなよ。確かに自殺して死んだ奴が現世に送られることもあるが、それはそいつが現世だけは絶対に戻りたくないと思っている時だけだ。人間として生きられるのは80年、90年。地獄の時間で言えばたった2ヶ月ほどの命なんだ。今を大事に生きろ」

「ごめんなさい。少しでも死にたいと思った僕が馬鹿だった」

「分かったならいいんだ。それじゃ、今日はこの辺で帰るよ。明日もまた会うかい?」

「うん! 明日は部活も休みだから、17時に。そうだな、場所は南の公園で待ってるよ」

「分かった。じゃあな」


 龍之進は興味を持ちやすい洋介に能力を使う姿をあまり見せては行けないと思い、ワープではなくそのまま壁を抜けて外に出た。暗闇へと消えていく龍之進を洋介は見送った。洋介の隣の部屋では浩太も龍之進の姿を見ていた。

 浩太はなぜ家に龍之進が居たのか疑問に思った。家に来るとしたら幽霊が見える自分にしか用はないはず。しかし浩太には1度も会いに来なかった。

 浩太は洋介の部屋に行き、ドアをノックした。少し驚いた洋介がドアを開けると、浩太は単刀直入に質問をした。


「洋介。お前、見えるのか?」

「え? 何の話?」

「とりあえず中に入るぞ」


 浩太は洋介の部屋の中に無理矢理入ると、座ってもう一度質問を投げかけた。


「幽霊が見えるかと聞いているんだ」

「み、見えないよ。お父さんじゃあるまいし」

「今、ご先祖様の霊が家の中から出て行く姿を見たんだ。何度か会っているんだが、家に何をしに来ていたのか」

「家を守ってくれてるんじゃないの? なんでそれで僕が見えるってことになるの?」

「最近お前の口数が減ったが、どこか生き生きしている姿を見ていると、普段からご先祖様と交流を持っているんじゃないかと思ってな。その方は聞き上手だし話し上手なんだ。俺も話していると元気になる。洋介の最近の様子がそんな感じに見えるんだ。違うか?」

「お父さんは心理カウンセラーだから人の様子を伺うのが本当に上手いよね。……見えてるよ」


 洋介は父にはこれ以上隠しきれないと思い、全てを話した。毎日公園で会って話していたこと、龍之進以外の幽霊も見えていること、少し危険な目にあったから明日は会う場所を変更しようと相談しに来てくれていたこと。そして、自分自身前世の記憶が少し残っていることも伝えた。

 全てを告白する洋介の話を聞くに連れて驚きの表情が戻らなくなっていた浩太。最後の「前世の記憶」に関しては声まで出てしまった。


「前世の記憶って、龍二叔父さんのことか?」

「お父さん、知ってるの?」

「ああ、昔な。龍二叔父さんに言われて心理カウンセラーの道を歩んだんだよ」

「そうだったんだ。お父さんは僕の前世が龍二って人だというのはいつ分かったの?」

「確信したのは龍之進さんに会ってからだ。それまでは薄っすら面影を感じていた程度だった」


 洋介は浩太の話を聞きながら、叔父である龍二、先祖になる龍之進について興味を示した。

 浩太は子供の頃、龍二に会ったことで霊感体質になった。洋介が霊感体質になったのは完全に浩太の遺伝である。

 高校になっても前世の記憶が残っているのは稀で、その記憶を確認する相手がいるというのは異例中の異例だ。霊感があることは誰にも言わないようにと浩太に口止めされ、洋介も信じてもらえないと思っているから大丈夫だと答えた。


 龍之進は相変わらず衆人たちの監視を行っていた。しかし、現世の苦になれた者は特にルールを破ることもなく、平凡に暮らしている。すると龍之進は急に地獄へと戻された。

 突然の出来事に慌てる龍之進。その前には閻魔大王が座っていた。


「現世を随分楽しんでいるようだな」

「ええ、まあ。子孫たちに会えるし、何しろ洋介と話していると龍二と話しているみたいで嬉しいんですよ」

「まあ、長年刀として生きてきたお前にとって、人として生きている今は何をしても楽しいのだろう。だがその時間もそろそろ終わりに近づいている」

「と言いますと?」

「もうすぐお前の寿命だ。地獄に来た時に決められた寿命を伸ばすことは不可能。お前は地獄時間で残り1週間の命だ。現世に居れば10年生きられるが、現世に戻るか?」

「もちろん。残りの命はすべて子孫に授ける。そう決めたんだ」

「よかろう。では命が尽きるその時まで、存分に現世で苦しむがいい」


 目の前が光り、龍之進は再び現世に戻ってきた。

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