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地獄の果てまで行ったら現世に戻りました  作者: 真灯出愼
第弐章―神谷龍之進編―
40/42

肆拾

 偶然通りかかった男が龍二に似ていて、思わず着いていった先に霊が見える父親が居て。そして子孫である口ぶりで家に招きいれられた龍之進。

 リビングに置かれた机の前に座り、浩太と名乗る男が目の前に座った。


「浩太さん、さっきの子は息子さん?」

「浩太でいいですよ。ええ。高2の息子で洋介(ようすけ)っていいます」

「洋介か。浩太は幽霊がハッキリ見えるのかい?」

「はい、見えます。だから驚くこともなくなりました」


 浩太は昔、叔父と名乗る龍二に会ってから見えない人が見えるようになってしまったという。しかし、浩太はそれを怖がることもなく受け入れた。

 今は龍二に言われて興味を持った心理カウンセラーになり、一般の人々はもちろん、犯罪者のカウンセラーも行っている。子供は洋介の下に女の子がもう1人の4人家族。幽霊が見えるのは浩太だけのようだ。

 話していると洋介がリビングに入ってきて机の前に座っている浩太をジッと見た。


「また誰か居るの?」

「ああ。今日はちょっと珍しいお客さんでね」

「そう……」


 口数は少ないが、思春期にしては普段からコミュニケーションを取っている様子だった。龍之進の事もチラッと見たような気がしたが、見えているのかを判断するのは不可能だった。


「“また”って言ってたけど、霊をよく家に招いているのかい?」

「たまにですけどね。あまり入れたらいけないって思ってるんですけど」

「そうだね。幽霊はいい奴らばかりじゃないからな。体を乗っ取ろうとする奴も居るから気をつけるんだよ」


 浩太と話していると思わず落ち着いてしまったが、龍之進もそんなことをしている場合ではなかった。他の衆人の近状を知る術を探さなければと席を立った。浩太は少し寂しげに見送りに玄関まで着いてきた。


「龍二叔父さんはもうそちらには居ないんですか?」

「ああ。龍二は君に会ってから地獄に戻り、閻魔大王の手で消滅したよ。でも、俺は今日確信した。君の息子は龍二の生まれ変わりだ。立派に育ててやってくれ」

「やはり洋介が……」

「気付いていたのかい?」

「ええ、確信は持てていなかったのですが。分かりました。龍之進さん、僕がそっちに行くまで待ってて下さいね。ゆっくり叔父さんのお話を聞かせてください」

「分かった。待っているよ」


 そう言って龍之進は家を出た。少し歩くと四つ角のところに洋介が立っていた。いつの間に外に出ていたのかと不思議に思ったが、自分の姿が見えていない人に声をかけても意味が無いと目の前を素通りしようとした。


「白龍。白龍だろ?」


 龍之進は久しぶりに呼ばれたその名を聞いて驚きの顔を洋介に向けた。


「俺が見えるのか?」

「見えるさ。父さんと同じで、殆ど見えている。でも友達に言ったら気持ち悪がられるし、変な目で見られるのは嫌だから今までは見えない振りをしていた」

「そうだったのか。それより、なぜ俺の別名を知っている? 君は知らないはずだが」

「断片的だけど、自分が生きてきた17年にはない記憶があるんだ。日に日に消えていくんだけど、まだ残っている。その中にあんたの顔があって、白龍って呼んでいる自分が居た」

「そうか。前世の記憶が少なからず残っているのか。洋介くん、今少し時間はあるかい?」


 洋介は「うん」と頷き、人気の少ない公園に龍之進を連れて行った。

 ここなら人通りもないし話しやすいと言いながらブランコに腰をかける洋介。龍之進はブランコの周りにある柵に腰をかけた。


 洋介が覚えている前世の記憶は、殆どが現世地獄の記憶だった。龍之進の知らない龍二の生前の記憶で1つだけ覚えていたのが、電車で大事件があったというニュースを見ているワンシーンだった。そう、龍二が起こしたあの事件だ。

 洋介はその記憶が一番鮮明で、実際にネットで調べたこともあったという。すると、実在する事件で、自分にそっくりな顔の男性の顔写真が出てきてその下には「神谷龍二 死刑囚」という文字があった。

 同じ神谷という名字で、自分と同じ顔。そしてこの断片的な記憶となればこの人の生まれ変わりが自分だと思うようになっていたという。しかし、他の記憶が曖昧で確信が持てなくなっていた。


 龍之進は一連の話を聞き終えると、自分と龍二のことを話した。間違いなく洋介は龍二の生まれ変わり。そして自分の子孫であるということ。あんな大事件を起こしたのは少し魔が刺してしまったことによるもので、根っからの悪人ではなかったこと。現世でのマーダーとの戦いや仲間思いなところ。そして昔、洋介の父である浩太に会っていることも話した。

 洋介は安堵した顔で龍之進の話を聞いていた。


「死刑囚の生まれ変わりだと知ったときは流石に自分が怖くなった。でも、あなたの話を聞いて安心しました。龍二さんは仲間思いでいい人だったんですね」

「仲間だけではない。武器だった俺にも優しく接してくれたんだ。あいつは本当にいい奴だった。だから閻魔大王に消滅されたとき、完全に消えるのではなく生まれ変わりの道に進めたんだ」


 龍之進が少し龍二との思い出に浸っていると、洋介はブランコから降りて龍之進の隣に座った。


「ねえ。地獄ってどんなところ?」

「興味があるのかい?」

「まあね。だって死んだ後の事って死んだ人にしか分からないじゃん。自分で確かめに行くのも無理だし」

「それもそうだな。八大地獄はそれはそれは恐ろしい場所さ。現世に伝わっているとおりと言っても過言ではない。しかし、閻魔大王はそんなに怖い人ではないよ。顔もよく見りゃ童顔だし。意外と押しに弱くてね、懲りずに話しかけてたらしまいには少しぐらいの願望なら聞いてくれるんだよ」

「意外だね。嘘をついたら閻魔大王に舌を抜かれるとか聞いたことあるんだけど」

「閻魔大王はそんな事しないよ。そういうのは獄卒っていう別の奴らがするんだ。閻魔大王は基本的に衆人の仕分けしかしていない」

「そうか。やっぱり地獄に落ちるのは怖いな」

「怖がることはない。俺が一番恐ろしいと思ったのはこの現世だよ」

「この世界が一番恐ろしい?」

「そう。この世界は欲望に満ち溢れている。人間はその欲望を満たす為に工夫して生きている。しかし、衆人となった我々が欲望に満ち溢れた現世で生きるのは地獄にはない苦痛だ。元々人間だった我々は現世に来ると欲望が溢れてきてしまう。しかし、現世人と違ってどんなに頑張ってもその欲望を満たす方法はないんだ」

「欲望か……」

「洋介はお腹がすいたらどうする?」

「ごはんを食べるね」

「そう。現世人は食欲が出たらそれを満たす行動をとる。しかし、衆人はお腹がすいても食べるものがない。食べる術がないんだ」

「そういうことか。それは確かに苦しいね。でもそれは地獄に居ても同じなんじゃないの?」

「地獄は四六時中、休む暇なく拷問を受けている。欲望が生まれることがないんだ。苦痛は苦痛なんだが、人が最も苦と思うものは欲望が満たされないことなんだよ」


 洋介は龍之進の話に聞き入っていた。死んだ人にしかわからない話も入っていて凄く興味を持ってしまった。

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