参拾伍
渋谷に着くと、やはり新宿と同じ光景だった。神谷は同じように白い光を現世人に向けて放ち、人々は理性を取り戻していった。品川、上野と、同じように回って理性を失った人々を救う神谷。東京駅に着いたころには能力も残り僅かになっていた。
しかし、流石に現世の警察や自衛隊も制圧を始めており、神谷が能力を使うことはもうなかった。
「ご苦労様」
「うん……」
疲れきった神谷はその場に倒れこんだ。「もう起き上がれない」と言いながら眠りについてしまった。
「…………くん。……谷くん。神谷くん!」
「はい! ……あれ?」
「こんなところで何してるの?」
街のど真ん中で寝ている神谷を覗きこむように見ていたのは岡島だった。
「あれ、何で寝てたんだっけ?」
「大丈夫? それより、現世に残っている衆人の数が随分減っているけど、何があったの?」
「……。俺がみんな倒した」
「ガーディアンも?」
「ああ。マーダーに操られてしまっていたからな。中沢以外は全員地獄に送り返したよ」
「中沢は?」
「消滅した。自分の能力で」
「自殺したの?」
「いや、俺がやった。話せば長くなる」
そう言って神谷は大まかに起こったことを岡島に説明した。岡島は納得したのか、大きくうなずいていた。
「大変だったのね。で、力尽きてこんなところで寝ていたと」
「そういうことだ」
「ちなみに今現世に残っている衆人は3人。私とあなた、そしてもう1人ひっそりと暮らしている人がいるわ」
「そうか。岡島はどうするんだ?」
「私はこの日本を見届ける方を選ぶわ。争っているあなた達もいなくなって寂しいきもするけれど」
「もう1人の衆人も多分残るんだろうな。俺は地獄に帰るとするよ。閻魔大王に報告しないといけない事が山ほどあるからな」
「そう。じゃあお別れね」
「世話になったな。気長に楽しんでくれ」
神谷は白龍を鞘から抜き、「いざ参らん!」と能力を発動して自らのお腹に突き刺した。気がつくと閻魔大王の大広間に着いていた。
「神谷か。閻魔様がお待ちだ」
「ああ」
鬼についていくと、いつもと違う部屋に誘導された。そこには村野や江口、桐井がいた。
「お久しぶりです、神谷さん」
「みんな……。もう何ともないのか?」
「ええ。地獄に戻ってきてから閻魔大王の力で元に戻りました」
「神谷さーーん!!」
「江口。痛い」
神谷は抱きついてきた江口を引き剥がし、喜びに満ち溢れている江口を見てクスッと笑った。どこか浩太の面影を感じたが、気のせいだ。
しばらくしてから閻魔大王が部屋に入ってきた。
「ご苦労だった。ちゃんと見ておったよ、お前達の働きを」
「閻魔大王、間近で見たの初めて……」
「こら江口! 静かにしてなさい」
「あはは、構わんよ。神谷なんてタメ口どころか文句や暇潰し相手にしてくる。ワシを何だと思っているのだと始めは腹を立てておったが、それが何度も続く内に慣れてしまったわい」
「神谷さん。閻魔大王を何だと思って……」
「あはは、暇そうだったから相手してただけだよ」
村野、江口、桐井は、今まで怖い存在として見ていた閻魔大王が一気に親しい存在のように思えた。
閻魔大王は鬼に何か指示をすると、鬼は部屋を出て行った。
「さて、本題に入ろう。ガーディアンとして働いていた君達には2つの選択肢を与える。1つ目は“残りの寿命を免除して地獄から消滅する”、2つ目は“自分で選んだ地獄で残りの寿命を過ごす”。好きな方を選べ」
急に選択肢を与えられた4人は黙り込んだ。地獄で生きる衆人たちは長い長い年月を永遠と拷問に耐え続けるというのが義務である。しかし1つ目の“地獄から消滅”というのは、その拷問から逃れる術があたえられたということ。2つ目はもう一度現世に行きたいと思う者が居るかもしれない為、与えられた選択肢である。もちろん、通常の八大地獄を選択することも可能だ。
しかし、全員が1つ目の“地獄から消滅”を選択した。
「ほう、全員が消滅を選んだか。流石にもう疲れたか?」
「それもあるな。でも、現世にはもう戻ってはいけない気がしたんだ」
「どうして」
「現世の人たちは今を必死に生きている。それを過去の人間が手出ししてはいけないんだよ。過去の人物は過去のまま身を引かないと」
「偉く大人な考えを持つようになったな。行く前は皆してワクワクした目つきだったのに」
「そうか? 覚えてないな」
他の3人も同じ考えのようだった。しかし、神谷には一つだけやり残したことがあった。閻魔大王にリーダーとしてみんなを見届けたいから消滅は最後にしてくれと頼んだ。閻魔大王は神谷の頼みを快諾し、金棒を取り出した。
「では江口、君から行こうか。最後に言い残すことはあるか?」
「もう何もないです。神谷さんと一緒に現世で戦えたこと、嬉しかったです。ありがとうございました」
江口は神谷に一礼して顔を上げると涙を流していた。閻魔大王は大きな金棒を江口に向って振り下ろした。グチャッという音と血が飛び散ると共に江口は跡形もなく潰れた。
残酷な殺し方だが、ただの獄卒が同じことをしても潰れた後に衆人は再生されてしまう。閻魔大王の金棒だからこそ消滅させることが出来るのである。
「次に桐井。最後に言い残すことは?」
「特にありません。お世話になりました」
江口同様、桐井も一礼をしたが涙はなく真っ直ぐと前を見ていた。閻魔大王は金棒で桐井を潰した。
「さて、次は村野だ」
「神谷さん。最初から最後までお世話になりっぱなしだったわね」
「こちらこそ、村野が居たからここまでこれたんだ。ありがとう」
「現世に行ってから黙祷している人たちを見ていたあなたの目。凄く寂しそうな目をしてた。本当は心優しい人なんだと直ぐ分かったわ。一緒にガーディアンとして戦ってて、やっぱり私が思ってた通りの人だと確信した。生まれ変われるならもう一度、一緒に旅をしてくれる?」
「もちろんだ。また会えると良いな」
村野は涙をこらえていたが、最後にはあふれ出していた。神谷に一礼をして優しい笑みを浮かべたまま閻魔大王に潰された。
閻魔大王は神谷の方を向いた。
「さて。ワシに何か要望があるみたいだな」
「さすが閻魔大王。言葉にしなくても分かっていたか」
「ワシを甘く見るのも大概にしろ。で、何だ?」
神谷は白龍を前に出して地面に置いた。
「白龍、お前の武器としての役目は終わった。姿を見せてくれ」
神谷が言葉を発すると白龍は光り、人影が出てきた。閻魔大王は驚いた顔をしていた。
「知っておったのか、人間ということを」
「白龍に聞いてね。そして約束していたんだ、地獄に戻ったら人間に戻すって」
白龍は久しぶりの人姿に少し戸惑っている様子で自分の手や足を見ていた。




