参拾肆
中沢が白龍を、神谷が黒斗を持って構えた。2人とも他人の刀を持つのは初めてだった。普段、自分の刀を使っているだけだと気付かなかったが、握り心地、重さなど、全てにおいて全く違うものだった。
『いざ参らん!』
2人とも自分の能力を発動した。この場合は自分が持っている刀に能力が宿る為、黒斗には神谷の能力、白龍に中沢の能力が宿っていた。
再び斬り合うが、先程までとは全く違う刀捌き。2人とも刀の使いづらさが表に出ていた。
「秀路さんと言いましたよね。はじめまして神谷です。白龍と同じ時代という事は1500年ごろの方ですか?」
「……」
「やっぱり直ぐに話してくれるわけないですよね、すみません。後でゆっくりお話聞かせてください。白龍の……いや、龍之進のことも」
神谷は黒斗に話しかけてみたが、もちろん無視をされた。黒斗は戦闘中に話しかけてくるとは思ってもいなかった為、返事する事が出来なかったのだ。やりにくそうに戦う神谷だが、刀が使いづらいのは中沢も同じ。刀のことは後回しに、中沢に全力で向っていった。
「白龍! 行くぞ!」
神谷は中沢の手の中にある白龍に叫びながら中沢に向かって行った。その姿を見た中沢は、ただの武器である刀に愛着を持ち過ぎている神谷に苛立ちを感じていた。
中沢は白龍を地面に叩きつけ、神谷に向って白龍を蹴った。神谷はそんな中沢の行動にキレた。
「白龍に何をする!! 中沢……許さねえ」
「お前は武器に愛着を持ちすぎなんだよ。武器は武器だ。お前の刀を返してやる。だから俺の刀を返せ」
「嫌だね。黒斗は俺が預かる。そんな乱暴に扱う奴に刀を持つ資格はない!」
「何を言っているんだ? それは俺の武器だ、大人しく返せ。さもなくばこのままお前の刀を踏み折るぞ」
「やめろ! 分かった。返す……返すから、それ以上白龍を傷つけるな」
神谷は黒斗を鞘に納め、自分の足元に置いた。それを見た中沢も落ちている白龍を拾い上げ、鞘に納めて自分の足元に置いた。互いに刀からゆっくりと後ろに下がって離れた。すると刀は自ら宙に浮き、互いの持ち主の方へ飛んでいった。
神谷は白龍が目の前に来た瞬間に掴み、鞘から抜刀して中沢に斬りかかった。中沢も黒斗を盾に防ごうとしたが、神谷の攻撃の方が早かった。中沢は砕けるように消えた。
「白龍? 今のって……」
「ああ。中沢の能力だ。今斬った時はまだ中沢の能力が俺に宿っていた。だから地獄に送ったのではなく、中沢は完全に消滅したんだ」
「それじゃあやっと」
「勝ったんだよ、中沢に。これでマーダーとの決着がついたんだ。ガーディアンもお前1人になってしまったがな」
神谷の足元には中沢が掴み損ねた黒斗が落ちていた。神谷が拾い上げると白龍が「鞘を抜いてやれ」と言ってきた。神谷は黒斗の鞘を抜くと、刃が錆びて刀としての役目を終えたような姿になっていた。
「これは?」
「持ち主がいなくなった場合、刀もその役目を終える。持ち主の意思がもう届かない刀は錆びて朽ちるのみ。人間にも戻れないんだ」
「そんなことなら早く言ってくれよ! 中沢を説得して……」
「あんな状況でお前に説得できたか? 中沢はお前の言うことを聞く奴だったか? 冷静になって考えろ。全員を救うのは無理なんだよ」
「そんな……」
「あんたの気持ちだけで十分嬉しいぜ。約束どおり、朽ちる前に話してやるよ。昔話を」
「秀路さん」
黒斗は武器としてしか見なかった中沢と違い、人として見てくれる神谷に心を開き始めていた。しかし、持ち主がいなくなった武器はそう長く存在出来なかった。
「俺の本当の名前は中沢秀路。親は下級武士でな。俺の代からは百姓になったんだ。龍之進は隣町の武家の子で、龍之進の親が俺の町に買い物に来る時に着いて来て、一緒に寺で遊んでいたんだ」
「なんだかうっすらと覚えている。いつも買い物をする親についていって、お寺で街の子と遊んで待っていた気が……」
「そう。その中の1人が俺だった。武家の子とはいえ、いつも裸足でボロボロの着物。俺と同じ下級武士の子で、月1回の街での買い物でみんなと遊ぶのが唯一の楽しみだと龍之進は話してくれたことがあった」
神谷は黒斗の話を聞きながら、一つ引っかかっていた。黒斗の本名だ。
「中沢秀路って言うんですよね? まさかとは思いますが、中沢の先祖?」
「鋭いな。その通りだ。今回現世に送られている衆人たちは、刀となった先祖と共に行くのがルールなんだ。ま、ほとんどの奴はそんな事実を知らないまま消滅したり地獄に戻ったりしているがな。昔、俺達が地獄に来た頃に閻魔大王が刀にした者は何千万人といた。今地獄に来る者の殆どの先祖は居るだろうな」
「じゃあ、白龍は俺の先祖ってこと?」
「ああ。黙ってて悪かったな」
「そうだったのか。ってことは、白龍の本名は」
「神谷龍之進だ。と言っても秀路の話で思い出しただけだけどな」
黒斗は少しずつ崩れ始めた。それを見た神谷は必死に止めようとするが戻らない。
「もういい。その気持ちだけで十分だ」
「ごめんなさい」
「お前が謝ることじゃない。俺がもっと子孫である秀斗とコミュニケーションを取っていればこんな結末にはならなかっただろう。ありがとうな」
黒斗は朽ちて風で全て飛ばされて消えていった。神谷は色んな事実を知ってしまったが、それ以上に今しなければいけない事が残っていた。
マーダーたちによって現世の多くの人が理性を失ったのである。計画実行の時、各地点でマーダーが放った光は雨のように地上に降り注ぎ、その光に当たった現世人は通常押さえている殺意などが解放されていたのだ。
「白龍、もう少し共に頑張ってくれるか?」
「もちろんだ」
神谷は新宿駅付近に戻った。すると、街は無法地帯と化していた。通り魔どころの話ではない。血まみれで倒れている人々が苦しそうに助けを求めていた。
そこら中で刃物を持った人々がうろついている。手当たり次第に人を刺す者もいれば、既に倒れている人を目掛けて止めを刺しに行く者。戦場のような光景に神谷は立ちすくんでしまった。
「龍二、しっかりしろ! お前が止めるしかないんだ」
「でもどうやって……」
「俺が与えた最後の能力を今ここで全て解放するんだ」
「全て解放?」
「言う通りにしてみろ」
神谷は白龍が指示する通りに力を解放させた。刀の先から白い光が放たれ、それを現世の人々に向けた。凶器に満ちていた現世人たちが一気に大人しくなり、冷静になった人々は目の前の光景に恐怖していた。
警察や自衛隊などが到着し、一斉に取締りが始まった。神谷はそれを見届けていたが、新宿以外にもこのような場所があるのではないかと思った。
中沢が言っていたターゲットは東京全域。神谷はすぐさま移動を始めた。




