参拾弐
ガーディアンのメンバーは休止前と殆ど変わりなく、能力も神谷の知っているままであった。復活した中沢が何をしようとしているのか分からない。もしかすると新たな力を手に入れているかもしれない。ありとあらゆる可能性をシュミレーションしていた。
そして岡島より連絡が入った。「明日の正午に計画を実行する。ターゲットは東京全域。お前らに勝ち目はない」との事だった。さらに岡島から入った情報では、マーダーとして活動していた殆どの衆人は戻ってこず、マーダーのメンバーは島内、高坂、井口、梅田、そして中沢の5人だけだった。ガーディアンも神谷、村野、桐井、桑井、江口の5人。他にも衆人たちは居るが、今回の対決には一切手出ししないということだ。
「明日の正午。東京全域って、何をする気だ」
「神谷さん、私達に守れるんでしょうか?」
「桐井、弱音は吐くな。守れるかどうかの心配をしている暇はない。守るしかないんだ」
「そう。ここまで来たらやるしかないのよ」
村野も江口も吹っ切れたような顔をして真っ直ぐ神谷を見つめていた。それを見た桐井と桑井も覚悟を決めた顔になった。
神谷は「いくぞ」と行って桑井の力で東京にワープした。計画実行の正午まであと18時間。現世では夕方の6時を迎えていた。
人通りも多く、仕事帰りのサラリーマンやOLが街を練り歩いている。学校帰りの学生達がワイワイと楽しそうに買い物をしている。その平和が明日の正午で終わるとも知らずに。
日付が変わり、正午まであと30分となっていた。ガーディアンは始まりの場所である新宿駅前に固まって待っていた。
ソワソワと待つ4人を余所に、神谷はジッと目を瞑って待っていた。神谷が何かを察知し、目を開けた。
「何かあったの?」
「来るぞ、ここに1人」
「マーダーですか?」
「ああ。多分、高坂だ。東京駅に中沢、池袋駅に島内、品川駅に梅田、そして上野駅に井口だ」
「何でそんなに詳しく分かるの?」
「白龍だよ。こいつ、刀との交信がやたらと長けている。だから、各々持っている刀の場所を探し当てたんだ。マーダーは既に持ち場についている。そして、高坂も直ぐそこに隠れている」
そう言って神谷は抜刀し、脇の花壇に向って斬撃を飛ばした。その斬撃を避けるように高坂が慌てて出てきた。
「さすがはリーダー。これぐらいの隠れ方じゃ直ぐ見つかるか」
「死にたくなかったら今から何をしようとしているのか話せ」
「それは無理ね。もう実行する時間だから」
高坂は抜刀して天に向って振り上げた。そして「我らマーダーの意思は永遠なり!」と叫ぶと、刀の先から光が発射された。空に吸い込まれるように天高く上っていく光は、しばらくすると消えた。
「何をした?」
「私達の役割はここまで。あとは邪魔ばかりするあなた達ガーディアンを始末する!」
そう言うと、固まっていたガーディアンの回りを囲むようにマーダーの他の4人が現れた。完全に包囲された状況の中、ガーディアンは全員抜刀した。
「神谷、今度こそ終わりだ」
中沢のその一言を合図にマーダーは刀をガーディアンの方に向け、一斉に光を放った。神谷は目を瞑ってしゃがみ込んだ。光を避けることが出来たのか、何も起きない。ゆっくり目を開けると、神谷を囲むようにガーディアンの4人が立っていた。
光に直撃している4人を見て神谷は焦って声をかけた。
「おい! なぜ避けなかったんだ! 大丈夫か?」
「神谷さん。やっぱりマーダーを止められるのはあなたしかいない。この光は憎悪を引き出す物。出来る限りあなたの盾になりますから、少しでもマーダーを地獄に送り返してください。そして私達が憎悪に満ちて神谷さんや現世人を傷つける前に処分してください」
「村野……。分かった、少し待っていろ!」
神谷は急いで囲まれている中から飛び出した。光が眩しくて神谷が中から出てきたことにマーダーは気付いていなかった。その隙に井口と梅田、高坂を斬り地獄へと送り返した。
3人の光が急に消えたことで、中沢と島内は外に出ている神谷に気付いた。ガーディアンに向けて放っていた光を止めて、神谷に向って刀を構えなおした。
「ほう。仲間を盾にして自分だけ助かったか。薄情な奴め」
「ああ、俺は仲間を盾にして命拾いした。だからこそ、責任を持ってお前達を倒さなければならない」
「やってみろよ。でも、その前に相手はお前のお仲間だ」
神谷が後ろを振り向くと、目つきが変わってしまった4人が神谷に向って刀を構えていた。憎悪に満ちて完全に我を失っていた。
何の前触れもなく刀を振りかぶって走ってくる村野。神谷は思わず弾き返した。
「村野! 目を覚ませ!」
「アハハ、無駄だ。もう我を失っている。完全に殺人鬼の目だ!」
「中沢は黙ってろ! 村野! 村野!」
神谷の呼びかけにも全く反応せず、村野は一心不乱に襲い掛かってくる。初めて現世に来たときから一緒だった村野を斬るのに、かなり躊躇していた。
横から江口や桐井が斬りかかってきた。咄嗟に跳ね除けたつもりが、2人の腕を一気に斬り落としてしまった。神谷はやってしまったと思ったが、一層のこと地獄に送り返してやった方が良いと思い能力を発動させて2人を斬った。
光って消えた2人を余所に、桑井と村野が襲い掛かってくる。神谷が桑井の刀を受け止めると、村野が少し下がって紅龍に血を与えた。紅龍の刃が赤く染まったのを見た神谷は、村野が本気であることを受け入れて腹を括った。
すると受け止めていたはずの桑井が急に消え、神谷の背後には村野がいた。そして神谷のお腹を突き抜けている赤い刃が見えた。
「どういうことだ?」
「ほう。中々のコンビネーションじゃないか」
「何が起きた!?」
「分からないか? 一瞬の出来事すぎて当事者には分からんか。桑井がお前を村野の方へワープで飛ばしたんだよ」
神谷は必死に頭を整理した。そしてやっと理解した。
「なるほど。で、俺を紅龍で刺すことができたというのか。でも村野も紅龍も俺の相棒だ。対処法ぐらい知っている」
神谷は紅龍を抜いて村野から距離をとり、紅龍が刺さっていた箇所に白龍を刺した。すると止まらないはずの血が止まり、傷口もふさがっていった。
「今リセットしている時間は無いから、この場で回復させてもらったよ」
「なるほど。紅龍の傷口を塞ぐ唯一の方法は白龍ということか。それが分かればこちらも対応できる」
中沢が言うと、神谷が持っていた白龍が消えた。桑井のワープだった。白龍は中沢の手元に行き、神谷は無防備な状態になってしまった。そして桑井が再びワープで神谷を村野の元へ飛ばした。




