参拾壱
神谷は白龍の過去を聞き、白龍の願いを聞いた。しかし白龍には悪いが、今やるべき事は他にあると思っていた。
神谷は白龍がくれた力を父親に使うと決めた。寝たきりになった人を治すにはかなりの力を使うかもしれない。一度きりになる可能性もあったが、それでもいいと思っていた。
「本当に良いんだな」
「ああ」
「じゃあ発動するぞ」
白龍が力を発動すると、鍔に溜まっていた血が刃の方に流れ始めた。滴れる手前で止まり、刃に血で模様が描かれたようになった。
神谷はその刃を寝ている父の胸元に上から突き刺した。父は眠るように目をつむった。
白龍に溜まっていた血がどんどんと父の中に流れ込む。それを神谷は見届けていた。そして白龍が自ら父の身体から刃を抜いて神谷の手元に戻ってきた。
「どうなったんだ?」
「成功だ。完治したと思うぞ」
「血は全て使い切ったのか?」
「いや、3分の1ほどだ」
「って事は、もっと多くの人を助ける事が出来るかもしれないな」
神谷は再び力を発動し、次は母の足を斬った。母はその衝撃か、少しフラついてその場に座り込んだ。その母に駆け寄ったのは父だった。
母は立って動く父を見てかなり驚いた顔をした。そして立ち上がる母は自分の異変にも気付いた。
「あなた、身体が……」
「ああ。さっき急に眠気が襲ってきて、目が覚めたら今までが嘘のように身体が普通に動くようになっていたんだ」
「……」
母は喜びで声も出ず、目から涙をこぼした。そして普通に歩けるようになった自分の変化も父に伝えた。その姿を見て父も目から涙をこぼした。
両親が涙を流して喜んでいる姿を見て、神谷はそっと実家を出た。
「いいのか? 見届けなくて」
「もうこれ以上苦労をかける訳にはいかない。俺がここに居座って悪影響を与える可能性だってある。もうここに来る事はないさ」
そう言って神谷は再び電車に乗り込み、北陸の拠点へと向かった。
夜も更けた頃、拠点に戻ってきた神谷は誰もいないアジトでゆっくりと目を閉じで眠りについた。
「ガーディアンもそろそろ解散かな。俺はここで何もせず寿命を迎えるのかな」
「何を言っているんだ。お前はまだまだ人を救わないといけないんだろ」
「でもどうやって人を救うんだ?」
「それは分からないが……」
ガーディアンの活動を一時停止してから白龍と話している時間も長くなり、ネタも尽き始めていた。
知らない間に寝てしまってたようで、太陽の光で目が覚めた。生前ぶりの気持ちいい目覚めをした神谷は、ゆっくりと身体を起こして辺りを見渡した。すると、少し離れたところに人影が見えた。
「誰だ!?」
「俺だよ」
神谷は目を擦りながら立ち上がり、声のする方へ歩き始めた。聞き覚えのある声のだが思い出せない。ガーディアンの仲間ではないのは確かだった。
相手も神谷に向かって歩いてきて顔がハッキリ見えた時、神谷は背筋が凍った。
「中沢……!どうしてここに……」
「驚いたか? そりゃそうだよな、地獄に送ったはずなのに。閻魔大王が現世に送るはずのない俺が現世に居るんだから」
「閻魔大王に何かしたのか?」
「いいや、閻魔大王の意思で俺はここに来た」
「どういう事だ?」
中沢。確かにあのマーダーの中沢本人だった。監禁されていたはずなのに、どうやって出てきて現世に送られたのか。今すぐにでも閻魔大王に聞きに行きたかったが、今現世を離れれば中沢が何をするか分からない。
中沢は混乱している神谷を見て不敵な笑みを浮かべていた。
「色々考えている顔だな。それもそうだろう。とりあえず、マーダーは今何をしているか知っているか?」
「いや、知らない。お前が居なくなってから島内がマーダーを仕切ろうとしていたが、結局まとめきれず数人が脱退して活動を止めている。だからガーディアンも今は一時停止中だ」
「成る程。確かに島内には無理だろうな。でもマーダー自体は一応残っているという事か」
「いつこっちに来たんだ?」
「お前が目覚める3時間ほど前だ」
「3時間もずっと俺が目覚めるのを待っていたのか?」
「ああ。あまりにも気持ちよさそうな寝顔だったんでな、そっとしておいたんだよ」
「丸くなったな。以前ならチャンスだと思って殺していただろ」
中沢は笑いながら神谷に向かって言った。
「最終決戦の開幕宣言をしに来た。別に丸くなったわけではない。俺はマーダーのメンバーを再集結させる。お前はガーディアンを集めて俺たちと戦え。この期間で平和ボケして鈍ったとは言わせないぞ」
「成る程な。分かった、受けて立つ。お前こそ直ぐやられてメンバーに減滅されないようにしろよ」
中沢は開戦の日は岡島伝いで知らせると言って神谷の前から立ち去っていった。
神谷は早速白龍を使ってガーディアン達に拠点に戻るようにと連絡をした。
一番に桑井がワープで戻ってきて、刀達を使って各自の場所を把握したら、桑井がメンバー全員をワープで連れ戻した。
「お久しぶりです、神谷さん」
「久しぶりだな。みんな元気だったか?」
「ええ。神谷さんは何か雰囲気が丸くなった気がするけど」
「ああ、ちょっと色々あってな」
村野は白龍の鍔に赤い模様が入っている事に気付いた。
「それは?」
「ああ、これか。ちょっと新たな力を貰ってな。あまり多用出来ないんだが、今後どう活用していこうか考えているんだ」
「さすが神谷さん。休止中も技術向上を……」
「ただの偶然だよ」
神谷は買いかぶり過ぎだと言って、休止中の事を詳しく話す事はなかった。そして、本題に入り中沢の復活を伝えた。
久しぶりの集合で和やかムードだったガーディアンは一気に険しい顔つきに変わった。
「最終決戦……。今度こそ中沢を完全に消滅させないと、いつまでもこの戦いが終わらないという事ね」
「そう言う事だ。次こそ俺が完全に消滅してやる」
「神谷さん、1人で背負わないで。私たちにも頼って」
「そうだな、悪い」
神谷は久しぶりにチームワークというものに触れ合い、人の温もりを感じていた。




