参拾
人間だった頃を忘れ去った刀達の所に現れたのは閻魔大王だった。
「そう言えば、閉鎖した剣山に置いてあった刀が沢山残っていたな」
「はい。1室に固めて保管しております」
「その刀を使って新たな地獄に衆人を送ってみるかの」
「新たな地獄とは?」
「人間界じゃ」
「衆人たちを生き返らせるおつもりですか!?」
「違う違う。生き返らせるのではなく、衆人として現世に送るのだ。構って欲しい衆人が誰にも相手されずに生きる苦しみ、良いと思わないか?」
「確かに、誰かに見て欲しい、構って欲しいという習性を持つ衆人達にとっては誰にも相手されないというのは最も苦に感じるかもしれないですね。で、なぜ刀を?」
「刀は衆人同士の暇つぶしだ。だが、斬り合い殺しあうのもすぐ飽きるだろう。無意味な殺生に飽き、更に苦痛を感じる事になる」
「成る程。二重の苦しみを与えるという事ですね」
こうして閻魔大王の提案で新設されたのが現世地獄である。そして閻魔大王は1人で刀の保管された部屋に行った。
「ワシはついさっきまでお前達の存在を忘れておった。しかし、この部屋に入って思い出したよ。お前達も元は人間であり衆人だった。今から数人、衆人が来る。一緒に人間界に行ってやろうと言うものはおるか?」
刀達は無言だった。それもそうだ。長期間放置され、自ら意思を捨てたのだ。今更という感じもあった。
しかし閻魔大王の語りかけで反応した刀も存在した。それが白龍を含む20本の刀だった。話す事はできないが、閻魔大王によってひとつだけ暗示がかけられた。「刀として役目を果たせ」と。
暫くすると部屋に衆人が入ってきた。続々と集まる衆人に手渡されていく刀。いきなり抜こうとするも、何百年と放置された刀がそう簡単に抜けるはずもない。
衆人たちと現世に送られ、いきなり斬り合いが始まった。
今までは剣山でただ衆人が降ってくるのを待っているだけだった刀達が、今は1人の衆人に使われる武器として人を斬っている。
刀としての喜びを感じていた。それは白龍も例外ではなかった。
ただ刀として、武器としてやっていたが、ある日を境に持ち主がやたらと喋りかけてくるようになった。
白龍は徐々に言葉を思い出し始めていた。
「俺の名は神谷龍二。お前の名前も決めてやるよ。そうだな……。柄の綺麗な白を入れてやりたいな。よし、俺の龍二の龍を使って“白龍”ってのはどうだ?」
白龍は自分の名前を覚えていなかった為、刀となってしまった自分に名前を付けてくれた事を喜んでいた。
持ち主である神谷は人を斬ることに疑問を持ち始めていた。そして遂に白龍が話す日が来た。
「なあ白龍。俺は地獄に来てから人を斬る快感を覚えたのと同時に 、斬られる痛みを知った。でも、やっぱり痛みのほうが強いんだよ。お前は人を斬っているとき何を思う?」
「俺は気持ちいいぜ」
「そうか。刀だもんな。斬ってなんぼだよな……え? 今喋ったのか?」
「お前が毎日喋りかけてくるから言葉を覚えちまったんだよ」
「白龍、お前が喋ってるのか!?」
「そうだって言ってるだろ。返事して欲しくてこの1週間馬鹿みたいに喋りかけてきてたんだろうが」
「そうなんだけど。いやぁ、本当に会話が出来ると思っていなかったよ」
神谷は今まで見せなかった子供のような表情をしていた。それからはもっと話してくるようになり、白龍もそれを喜んでいた。
しかし神谷と話し、力を合わせて敵を倒していくにつれて白龍は自分の身体が刀である事に不満を抱くようになっていた。
ある日、神谷が怒りで我を失って戦っていたため、勝てる相手に負けそうになっていた。白龍はやってみたかった身体の乗っ取りを実行した。
久しぶりの人間になった白龍は、何百年のブランクを物ともせず圧勝した。そして身体を返した後に気付いた。「まだまだ人間としてやっていける」と。しかし、閻魔大王はそれを許さなかった。
神谷が何度か地獄に戻っている時、白龍も閻魔大王と話をしていた。
「閻魔大王。俺、もう一度人間としてやり直したい。戻してくれないか?」
「それは無理だ」
「もう人間には戻せないってことか?」
「いや、戻すのは可能だ。しかし、それはワシの力で戻すのではない。お前の持ち主が戻すのだ」
「神谷が俺を人間に戻す力を持っているのか?」
「そうだ。物にされた者は持ち主が出来て、持ち主の役に立ち、持ち主が許可を出した時に始めて人間に戻る事が出来る。だから、ワシがどうこう言える立場ではないのだ」
白龍は神谷に頼んでみようと思った。しかしそれからはマーダーとの対戦が続きそれどころではなかった。
第二次対戦も終戦した後、神谷は一人旅を始めた。白龍も流石に疲れていた。
そして神谷が実家に行った頃、白龍が動いた。ここで恩を売って武器としての役割を終えようとしたのだ。
そして神谷の血を使って人を助けるという力を発動させた。
「白龍、自分の為ってどういう事だ?」
「閻魔大王が言ってたんだ。人間に戻る方法があると」
「白龍が人間に戻る……。戻ったら俺の武器は無くなるという事か?」
「そうなるな」
「それら困る!」
「そう言うと思ったよ。でも、俺も人間に戻ってお前達のように罪を償いたいんだ」
「どうしたら戻れるんだ?」
「お前の許可が必要だと」
「俺の許可?」
「お前が俺に武器としての役割を果たしたから人間に戻っていいと言えば俺は人間に戻る」
神谷は考え込んでしまった。それもそうである。今、白龍が無くなればマーダーが活動を再開した時に勝てるとは思えない。自分の能力も白龍があってこそ使えるものである。
「白龍、悪い。俺には武器としてのお前が必要なんだ。人間に戻られると困る」
「そう言うと思ってたよ。気にするな。俺は持ち主がお前で良かったと思っている。お前が俺に白龍という名をくれた日から俺はお前に尽くすと決めたんだ、龍二」
「白龍……。ありがとう。お前がくれた新しい能力、大事に使うよ。そして俺がこの現世での役割を果たした時、一緒に地獄に帰ろう。その時は人間の白龍になってな」
「おう」
白龍は少し寂しい気持ちになっていた。神谷にハッキリと現世に居る間は人間には戻さないと言われたからだ。
しかし、これで吹っ切れた。武器として神谷に仕える。それが自分の役目だと言い聞かせた。




