参
光が治まるとと現世の終電後で人が居ない新宿駅のホームに立っていた。獄卒が説明していた内容を思い出し、衆人たちは暗いホームで一斉に鞘から刀を抜いた。
今度はすんなりと鞘から抜け、問答無用で衆人たちの斬り合いが始まった。この斬り合いに1対1というルールはない。やり合っている後ろから殺されることもある。
斬って斬られてを繰り返し、致命傷を負ったものは一度消滅するがすぐに復活する。そんな争いを何時間も繰り返していた。
駅のホームに電気が付き、人が入ってきた。衆人たちは自分達以外の気配に気付き、一斉に戦いをやめた。そして、全員声を発することも無く静かに刀を鞘に納めた。しかし、現世の人であろう人物は衆人達の存在に気付いていない。その事実を汲み取った衆人たちは戦いをや めて、駅の外へ出ることにした。
衆人20人が一斉に外に出ると、まだ日も出ていない薄暗い時間帯の為、歩いている人もまばらな街。
衆人たちは現世の人に触れることも出来ないし、姿も見えない。しかし、何人かの衆人たちは現世に戻ってきたということで少し喜びを感じていた。神谷もその1人だった。
――ドスッ!
そんな現世に黄昏ている神谷を、中沢が後ろから刀で一突きした。背中からお腹を貫通している状況で耳元で中沢が囁いた。
「今、現世に戻って来れたって喜んだだろ」
「だったら何だ?」
「お前、さっき駅の中で刀を合わせた時に現世に未練なんてねえよって言ってただろ。なのに何を喜んでいる」
「未練はないさ。でも、つい最近まで居た現世だぞ? 地獄よりは落ち着かないか?」
「分かってねえな。ここは地獄でも反省しなかった異端児が送り出された地獄だぜ? つまり、現世は地獄以上に地獄というわけだ」
「俺はそうは思わねえけどな」
「いつまでその甘い考えで居られるか、楽しみに見ててやるよ」
そう言うと中沢は神谷の身体に刺さった刀を横に振りきり、神谷の身体は内臓と共 に半分に切り裂かれた。一瞬で神谷は身体が消滅したが、しばらくすると再生した。中沢は生き返った神谷を見届けてどこかへと立ち去った。どうやら中沢には目的地がある様子だった。
神谷はこれからどうしようかと悩みつつ、生前の名残で電車旅をすることにした。この日本での移動手段としては電車は便利な交通機関である。死人である神谷にとっては乗車賃も要らない為、生前以上に電車を楽しめるのではないかと内心喜んでいた。
目的地は決まっていなかったが、ひとまず新宿のホームへ向かった。すると、ホームには沢山の人溢れかえっていた。
通勤ラッシュの時間帯の為、人が多いのは分かりきった話だが、辺りを見渡すとみんな目を瞑っていた。衆人たちが送られて来たこの日は、 神谷が大量殺人を犯したあの事件の日から5年という節目の日だった。
「神谷さん?」
村野という女性がホームを見つめている神谷に声をかけた。年は神谷とあまり変わらないぐらいだが、キャリアウーマンのような雰囲気を持っている。生前、連続女児誘拐殺人を犯した死刑囚だった。
「どうかされたのですか?」
「ああ、俺なんですよ。この場所で毒ガスを使った大量殺人を犯したのは」
「そうですか。後悔しているんですか?」
「まあ、していないって言ったら嘘になりますけど、あれはあれでよかったと思ってます」
「でも寂しそうな顔をしてましたよ」
「一応良心もありますからね。根っからの悪人ってわけでも無かったですし」
村野はニコッと笑いながら神谷の話を聞いていた。
目的も無い2人は、電車に乗って遠出をしてみることにした。鈍行で行く電車旅は、神谷にとって至福の時間だった。
新宿駅から高尾駅まで、1時間ほど電車に揺られていた。もちろん現世の人たちには見えない2人。座っている上から人が座ると言った、生前ではありえない経験をしながら電車旅を楽しんでいた。
途中、他の衆人にも会った。もちろん皆各々に好き勝手しているのでバッタリ合うこともある。
高尾駅に付いたころ、同じく衆人の矢島も高尾にいた。
「なんだてめぇら。衆人同士イチャイチャしてんじゃねえぞ!」
矢島は神谷たちがカップルのように一緒に行動しているのが気に入らないようだ。神谷に嫉妬しているのか、刀を抜いて斬りかかっていった 。
「嫉妬は困るな。別にイチャイチャしてるわけじゃないし」
神谷は矢島の刀を軽々と受け流しながら挑発し始めた。矢島は大振りで神谷に斬りかかりながら全く当たらないことに更に苛立っていた。それを傍観している村野に気付き、矢島は冷静になった。
「ふんっ。大罪人がカップルごっこなんて笑い者だな。他の衆人に言いふらしてやる」
「ガキだな。あんたいくつだよ」
「35だけど? 死者に年なんて関係ないだろ」
「それもそうか。まあ好きにしろよ。俺は死者としてこの現世を楽しむって決めたんだ。生前遣り残したことがいっぱいあるからな」
「勝手にしろ。俺はこの刀で今すぐにでも現世の人間を斬り刻んでやりたいがな」
「触れることも見えることもないこの状況で無駄な願望だな」
「うるせぇ。いつかこの執念が現世の人間を殺せる力になるだろうよ」
矢島は吐き捨てるように言って立ち去った。村野は傷一つ付いていない神谷を見て関心していた。その後も電車で揺られながら東京からどんどんと西の方向へと向っていた。




