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弐拾漆

 村野が疲れた表情をしているのは神谷も分かっていた。警察が到着し、発砲している男3人を制圧した。安堵したのも束の間。次に心斎橋駅構内でテロ事件発生との無線がパトカー内に入った。

 神谷たちは桑井のワープで心斎橋駅に飛んだ。地下のホームからどんどん人が走って出てくる。奥では銃声が鳴り響いていた。


 ガーディアンが銃声の聞こえる方へ走っていくと、多くの負傷者が階段のところで横たわっている。ホームではまだ取り残されている一般人と銃を持った脱走犯と思わしき男が6人いた。


「桑井! 負傷者を地上に!」

「分かりました」


 桑井はその場で胡坐を組んで座り、瞑想を始めた。すると、階段に血を流して横たわっていた人々がどんどんと消えていく。それに気付いた犯人がまだ息がある負傷者に向って発砲し始めた。

 ワープが先か、銃弾が先か。ギリギリのタイミングで競り合っていた。


「何なんだ! なぜ人が消えていく!? 意味がわかんねえよ!」


 どんどん人が消える状況に困惑し始めた犯人達が更に発砲をする。桑井も必死にワープしているが追いつかない。すると村野が再び犯人の1人に乗り移り、負傷者の前に立ちはだかった。


「おい、何の真似だ。そこをどけろ」

「殺すまでしなくていいだろ」

「いや、何人殺害するかでこのテロ行為の大きさが決まるんだ。だから少しでも多くの命を奪ってやる」

「やめろ」

「どけろ」


 犯行仲間は村野が入っている男に向って発砲した。仲間でも邪魔をする奴は容赦しないという意思表示だった。

 1分が経ち、村野は男の中から出てきた。かなり息切れをしており、相当疲労が溜まっている様子だった。


「村野、大丈夫か? もう無理をするな」

「でも……」

「いいから。今は休め」

「ごめんなさい」


 村野は申し訳なさそうに弱々しい声で謝った。神谷も村野の能力に頼りすぎたと少し反省していた。

 桑井もずっと集中しながら負傷者を飛ばしている。いつ倒れてもおかしくない状況だ。星川が居れば理性を取り戻させて犯行を止めることも可能だったかもしれない。しかし、中沢にやられてしまった。

 殆どの負傷者がホームから外へ移動させた頃、警察の特殊部隊が入り口まで迫ってきていた。犯人達も人が消えることに気をとられていた為、警察が直ぐそこまで来ていることにまだ気付いていなかった。


「突入!!!!」


 特殊部隊が一斉にホームに入ってきた。犯人達は焦って銃を乱射して特殊部隊の足を止める。犯人達はまだホームに残っていた一般人を人質に線路に降りた。そして奥へと消えていった。特殊部隊もゆっくりと後を追う。


「桐井、人質を連れてる奴だ」

「分かりました」


 桐井が「いざ参らん!」と叫びながら犯人の元へ走り出した。そして人質を連れている男を刀で斬った。

 「何だ!?」と叫びながら慌てる犯人が、人質を持っていた手を離した。その隙に人質の女性は特殊部隊の方へと走った。

 目が見えるようになった男は特殊部隊が再び近くまで迫っていることに焦った。そして銃を乱射するも、今度は弾切れを起こした。

 絶好のチャンスを特殊部隊が見逃すわけがない。一斉に犯人の元へ駆け寄り、4人、5人とあっという間に身柄を確保した。


 テロを起こした犯人たちの拘束を見守った神谷たちは地上に上がった。入り口付近には桑井がワープさせた負傷者達がその場で治療を受けていた。


「ご苦労様。大変だったろ」

「いえ。人数が多かったので入り口までしか飛ばせませんでした。本当は病院まで飛ばしてあげたかったんですけどね」

「いや、ここで十分だ」


 桑井は負傷者達が治療を受けているのを見て一安心したような顔をしていた。心斎橋駅の出入り口は全て封鎖され、地上では血まみれになった大勢の人たちが治療を受けているという状況。それは戦場のような光景だった。

 日本でこんな事が起きるなんて……。現世人の誰もがそう思っていた。


 脱走した被告人たちは次々と逮捕され、桑井もワープ能力を使って手助けをしていた。そして脱走者全員が大阪拘置所へと戻った。

 今回の不祥事が多くの犠牲者を出したとして、大阪拘置所の所長は解雇。そして厳しい捜査が行われた。

 結論を言えば、牢の鍵を開けて回る看守が監視カメラにしっかり映っており、計4名の看守が逮捕された。しかし、逮捕された元看守たちは口をそろえて「記憶にない」と主張し続けた。それもそうだ。マーダーに操られた行動の為、本人の意思ではない。しかし、現世の中ではどうにも言い逃れが出来ない状況だった。結局4人は殺人罪、殺人未遂罪、公務執行妨害罪、逮捕監禁罪、器物損壊罪、ほか暴力行為等処罰処罰法等、数多くの罪を犯したとして死刑判決を受けることとなった。


 ガーディアンたちは元看守4人の死刑をどうにか取り消せないかと考えたが、死人である衆人が現世の人々に口出し出来る訳がなかった。

 結果、中沢は消滅したがマーダーの作戦は成功したということになる。中沢の居ないマーダーは新たなリーダーを島内にして再始動し始めたが、そんなに上手くいくはずもなかった。


 いくらチームとはいえ、元凶悪犯である衆人たちは自分より強いと明確に分かる人物でない限り従おうというものは居なかった。まして、自分より強いと思っていたリーダーが負けたのだ。そんな相手にわざわざ喧嘩を売って自分まで消されることになるのは御免だとマーダーにいた衆人たちは次々と出て行った。

 マーダーに残ったのは島内と高坂、そして井口の3人だけだった。もはや解散状態だったが、それでも中沢の意思を継ぐ者としてマーダーを存続させておきたかった。


 平穏な日々が戻った現世では、近年起こっている「無意識の犯行」について重視されるようになっていた。もちろんそれは衆人による仕業である。霊媒師や心理科学者など、様々な人物がその謎を解明しようと全力を尽くしていた。

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