弐拾陸
神谷と中沢の一騎打ちが始まった。刀同士がぶつかった衝動で後ろに弾かれるも、土埃を立てながら止まった。力は同じぐらいといったところだ。
神谷が攻撃を仕掛けた。スピードも力も人間技ではないぐらいの速さと強さ。中沢が押されているようにも見える。マーダーのメンバーは息を呑むように見ていた。
中沢が刀を受けた隙に神谷を蹴り飛ばし、反撃を始めた。先程と立場が逆転して、中沢が押している。神谷は受けながら反撃の隙を伺うも、中沢は全く隙がない。
「中々手ごわいな。だが、あまり長引かせると現世の方が先に崩壊しかねないかもな」
中沢が言うのは、先ほど操った十数名の被告人たちがテロを起こして国を崩壊させるということだ。
「そんなことさせるか! お前をさっさと片付けて、現世の人々も助ける」
「そんな都合よく行くかな」
中沢はより一層力をかけて斬りかかってきた。中沢の刃が神谷の頬をかすめた。消滅の能力を発動していなかった為、切り傷だけで済んだ。
「チッ! 運の良いヤツめ。発動のタイミングを間違えた」
「残念だったな。じゃあな」
そう言うと、神谷は白い斬撃を中沢に向って飛ばした。中沢は左腕を切り落とされ、流石にキレた様子だった。神谷は真っ二つにしたつもりだったが、微妙に避けられたことに舌打ちをした。
「貴様ぁぁぁーーー! 許さねえ!」
叫びながら右腕だけで攻撃してくる中沢。神谷は重い攻撃を受け流していた。怒った中沢は大振りで攻撃が読みやすい。自分も怒って攻撃している時はこうなんだろうなと冷静に分析していた。
鬼の形相で流石に恐ろしいと感じたが、ここで怖気づく訳にもいかない神谷。しかし、圧倒的に押されていた。
「神谷さん、大丈夫ですかね!?」
「黙って見てなさい! 大丈夫。大丈夫だから」
江口は心配で心配で居ても立ってもいられなかった。しかし隣で拝むような姿で神谷の事を見守っている村野を見ると、手を出してはいけないと踏みとどまっていた。
神谷は上下左右から斬りかかって来る中沢の重い攻撃を受け続けていた。すると、遂に神谷の刀が弾き飛ばされた。
中沢はしてやったり顔でニヤッと笑いながら大きく振りかぶった。
神谷の頭上から振り下ろされる刀を回転しながら避け、その回転の力を利用して刀を回し蹴りした。
中沢は刀を蹴られた反動で体勢を崩し、その隙に神谷が能力を発動して中沢を斬った。中沢の身体は光って消え去った。
屋上から見ていた者たちは一瞬過ぎて何が起きたのか誰にも分からなかった。しかし、中沢が消えたという事実だけはみんなが理解した。
「勝った……」
運動場で1人ポツンと立つ神谷はつぶやくようにその言葉を口にした。屋上に居たガーディアンが一斉にワープで降りてきて神谷の勝利に大喜びした。
「凄い! 凄いです!!」
「神谷さん!! やっぱりあなたは最強です!」
「あの中沢に勝つなんて!」
「浩太さんも星川さんもきっと喜んでますよ」
大喜びしている仲間達を見て神谷もやっと実感が沸いてきた。しかし、喜んでいたのも束の間。マーダーが操って解放した被告人達がまだ野放し状態だ。
「勝利に浸るのはとりあえず後だ。早く現世の方も手を打たないと、国内戦争が起き兼ねないぞ」
「そうね。とりあえず脱走した被告人たちを探し始めないと」
一気に気を引き締めたガーディアンの前に、残されたマーダーが立ちはだかった。
「よくも中沢さんを……」
「お前ら全員皆殺しにしてやる!!」
明らかに殺気立っているマーダーたちは、刀を抜いて今にも斬りかかろうとしていた。しかし、その前に立って止めたのは島内だった。
「待て、冷静になれ」
「島内! どけろ。中沢さんがやられたんだぞ!」
「中沢さんが居なくなった今、こいつらに勝てる方法なんてない。一旦引くぞ」
島内は不服そうな顔をするマーダーたちを静めるように話し、梅田のワープでどこかへと消えた。神谷は能力を発動していたが、使わずに済んだ。
「とりあえず、この近辺で騒動になってる場所を。浩太!」
「神谷さん、浩太くんは……」
「そうか。やられたのか。くそっ! もう少し早く援護に行っていれば!」
「仕方ないです。今は今やるべき事を」
「ああ、分かっている。行くぞ」
ガーディアンも拘置所から外へと出た。大阪府内は大量のパトカーがサイレンを鳴らして走り回っていた。大量の被告人脱走で町中が大騒ぎになっている。
警察署へと向かい、現在の状況を確かめに行った。すると、署内は電話や無線が鳴り響いている。
「事件発生! 梅田三番街にて発砲事件! 男3人が何か叫びながら銃を発砲している模様!」
「直ちに現場に急行しろ!」
『はい!』
情報を聞いた神谷たちはワープで三番街に飛んだ。確かに男3人が空に向って銃を発砲している。何か言葉を叫んでいるのではなく、とりあえず大声を出したいという感じの叫び方だ。
「村野」
「はい」
神谷に指示されて村野は銃を発砲している男の内の1人に乗り移った。急に発砲を止めて静かになった男を不審に思う脱走犯仲間達は発砲を止めて様子を伺った。
「おい。どうした?」
「警察に捕まるのが怖くなったか?」
「いや。やめよう、こんなこと。何の意味もない」
「お前がやろうって言ったんじゃないか」
「ああ。でも、やってみてわかったよ。こんな行動、何の意味もなさない」
「チッ! 臆病者が。俺はこの周りにいる野次馬達を撃ってもいいんだぜ」
「やめとけ。これ以上罪を重くしてどうする」
「お前、本当にどうした? そんなこと言うやつじゃなかっただろ?」
「それは……」
続きを言おうとしたところでタイムリミットが村野は来て外に出てしまった。我に戻った男は自分がなぜ仲間から疑いの目で見られているのかさっぱり分からないという感じだった。
「どうした? 何かあったか?」
「何かあったのはお前の方だよ。どうなってるんだ? 大丈夫か?」
「何が? それより、早いこともっと大騒ぎしないと。警察が来るまでに」
「戻ったみたいだな。よし、続きをやるか」
そう言って再び銃を発砲しながら叫びだす3人。村野は少し疲れが見え始めていた。




