拾漆
マーダーとの大戦も終わり、日は暮れて夜の8時を過ぎた頃だった。北海道の札幌駅前にてガーディアン5人が作戦会議を開いていた。
「まず理性を失った現世人を探すには、警察の動きを見るのが一番早い」
「神谷さん、その情報収集は僕に任せてほしい」
「分かった。浩太の情報収集能力は衆人の中でトップクラスだ。任せるよ」
「ありがとう。じゃあ早速行って来ていいかな?」
「ああ。明日の正午、ここに集合だ」
「了解」
浩太は早速街の中に消えていった。
大戦開始直前に入った女性「星川湊」は今回の大戦で最も死なれては困る能力の持ち主だ。星川は「理性を失った現世人の理性を戻す」という、矢島と対になる能力だった。衆人に対して使えば殺意を押さえることも出来る。その為、今回の大戦では相手の殺意を出来る限り押さえたことにより生き残ることが出来た。
浩太が情報収集をしている間も、全員で町を歩き怪しい人物を探していた。広いこの土地で、穏やかな時間がどんどん過ぎて行った。
あまりにも平和そうな現世人たちを見ていると、先ほどまでのマーダーとの大戦が遠い昔のことのように思えた。しかし、そんなガーディアンの中でも星川はずっと険しい顔をしている。
「星川、どうした?」
「神谷さん、現世人たちはどうして今にも溢れ出しそうな殺気を持っているのにあんなに穏やかなんでしょう」
「殺気が見えるのか?」
「見えるというか、感じるの。理性を戻す能力を持ってから、現世人の中から滲み出る殺気が」
神谷は現世人たちを見るが、どうも殺気を持っているようには見えないし感じない。星川は能力のせいで人一倍敏感なのだろう。しかし、現世人の殆どが殺気を押さえ込んでいるとは想像もしていなかった。
「あの子は理性を失ったら殺人の1つや2つはすぐ起こすでしょうね」
そう言った星川の視線の先には、まだ中学生であろう少女が立っていた。神谷や村野、多田には大人しそうな女の子にしか見えない。しかし、何かのきっかけでリミッターが外れたら犯罪を犯してしまうのだろう。
よく犯罪を犯した人の近辺にインタビューをすると「大人しい子だった」「そんな事をする子には思えない」など、周りには気付かれない事のほうが多いのだ。しかし、どんな人も犯罪を犯す可能性を秘めているのだ。
夜の北海道をぼちぼち歩きながら人を観察していた。夜中になると殆ど誰も歩いていない。マーダーも居る気配がなかったので、岩見沢市で一晩を過ごすことにした。日が昇り、人通りも増え始めた朝7時。街を再び散策し始めた。
すると「神谷さん! みんな!」と叫びながら浩太が走ってきた。まだ約束の時間でもないし、場所も全く違う。しかし浩太は仲間を探して早く伝えたかった。
「浩太、早かったな。というより、よく見つけたな」
「まあね。それより聞いて! 理性を失った現世の人たちなんだけど、5人中4人は既に警察に逮捕されていたよ。2人は暴行事件を起こして、1人は公務執行妨害、そして1人は窃盗事件だった。でも後1人、理性を失ったまま逃走中の人が居るらしい」
「5人も居たのか。しかしよくそんな情報を集めることが出来たな」
「僕もそこそこいい能力持ってるだろ?」
「そこそこって。かなりいい能力だよ。自信を持て」
「神谷さんは本当にいつも優しいな」
神谷は嬉しい気持ちをあまり表に出さず、ガーディアンの今後の行動を練り直した。そして浩太の情報を元に、釧路市に居る可能性があるという最後の1人の現世人を探しに行った。
時間は既に朝10時になっていた。無計画に移動していた為、岩見沢から釧路に行くにはかなりの距離があった。バス、電車、飛行機を利用して着いた時は既に16時前だった。
移動中も多くの現世人を見ていたが、やはり星川は殺意を秘めてる人が殆どだと言っていた。神谷を含め、ガーディアン全員が生前の自分達の行いに少なからず反省し始めていた。――なぜ我慢が出来なかったんだろうか。と。
「居た!」と叫んだのは浩太だった。情報収集の際に写真で顔を見ていたらしい。理性を失っているはずの現世人は女性で、普通にコンビニで立ち読みをしていた。しかし、明らかに何かを実行する雰囲気を醸し出している。
「星川。理性を戻すにはどうするんだ?」
「簡単です。私の刀で斬るだけです」
「それなら、さっさとやってしまおうか」
星川は「いざ参らん」と能力を発動し、女性に向って刀を振りかぶった。その時、女性は持っていた鞄からナイフを取り出し、近くに居た客を刺した。刺したと同時に星川が刀を振り下ろし、女性を真っ二つに斬った。もちろん本当に斬れるわけではない。
理性を取り戻した女性は客に刺したナイフを慌てて抜き、自分がしたことに驚きを隠せない様子だった。店員が慌てて駆け寄って来て、ナイフを奪い取り刺した女性を取り押さえた。別の店員が救急車と警察を呼び、大騒動となった。
「くそっ! もう少し早ければ、あの女性を犯罪者にせずに済んだのに」
「すみません」
「いや、星川のせいじゃない。それもこれも全てマーダーのせいだ」
神谷は苛立っていた。マーダーが余計なことをしなければ犯罪を犯さずに済んだであろう。険悪なムードがガーディアンの中に漂っていた。すると、星川が神谷に刀を突き刺した。
「何をしてるの!?」と村野は慌てて星川に駆け寄ったが、刺されている神谷がその村野を止めた。
「村野、ここは星川が正しい。俺が少し苛立ちすぎていたところを抑えてくれたんだ。星川は悪くない」
「そうだった。衆人の殺意も抑える能力だったわね。早とちりしてごめんなさい」
冷静さを取り戻した神谷は、あることに気付いた。岡島から電波が届いていた。




