拾陸
中沢は計画通りと言わんばかりの笑みで神谷を見ていた。神谷は我を失ったように殺気を全面に出している。中沢に向って斬りかかる神谷はただの殺人鬼であった。流石の中沢もあまりの強さに押され気味だった。
「お前の本性はこれか。偽善者面していても本性を見たら信用ねえな」
「黙れ。今すぐお前を殺してやる」
「全力でこの程度なら、お前が俺を殺すのは無理だ。俺はまだ全力じゃないぞ」
中沢の言葉を聞いた神谷は攻撃の手を止めて距離を取った。神谷は刀を右手に持って振りかぶり、中沢の方向に振り下ろした。すると白龍から白い斬撃が飛んだ。明らかに危険な物だった。
中沢の真横を通り抜けた斬撃は後ろの木にぶつかり消えた。地面や木に傷はついていなかったが、現世の人達は突風が吹いたように感じていた。中沢は少しの間驚いて動けなかった。
「今度は外さないぞ」と言いながらもう一度振りかぶる神谷。中沢は咄嗟に神谷の懐まで走り、刀を振り下ろそうとする腕を持って止めた。そのまま中沢は左手から刀を出そうと刀の名を呼んだが出てこない。神谷が左手で中沢の胸元を突き飛ばすと、中沢は5mほど飛ばされた。
「おい! 出て来い!」
中沢は口に出して刀を呼んだ。すると次は刀が出てきた。
「なぜさっきのタイミングで出てこなかったんだ。もう少しでやれたのに」
「出れなかったんだ。お前の身体が何かのシールドで覆われてて」
「シールド? 俺はそんな能力持ってないぞ」
中沢は神谷に触れていた事に何か原因があるのではないかと気付いた。そう、神谷が白龍の能力を発動している時は、触れている相手の全ての能力を無効化してしまうのである。
ここで一つ説明を加えるが、衆人の能力と刀の能力は別である。
衆人の能力は刀に影響するものもあれば全く関係なく自分の身体のみで発動することもある。例を挙げると、神谷は発動の際、刀で斬った者を閻魔大王の元へ送り返すという刀に影響する能力である。対して村野は自身が現世人に乗り移る為、刀は関係のない能力になる。
変わって刀の能力は衆人が刀とコミュニケーションをとり、刀が衆人に心を開いた関係になった時に発動する能力である。よって、刀の能力は使える衆人と使えない衆人が出てくる。
「厄介だな。それがお前の刀の能力か」
「これでもまだ全力で戦わないと言えるか?」
「確かに、どちらの能力も発動しているお前には全力で戦わないと勝てそうにないな」
「だったらかかって来い。今すぐ殺してやる」
「いや、それは無理だ」
そういうと中沢は後ろを振り向き、神谷に背を向けた。それと同時にマーダーのメンバー4人が現れた。
「4人か。まあまあの出来だな」
「中沢さん、ひとまず計画は実行出来ました。あとは現世の人々が勝手に暴動を起こすと思います」
「よくやった」
神谷はマーダーたちの会話を十分理解していた。残ったマーダーは中沢を含めて5人。つまり、神谷が消した“川上”“矢島”“山根”以外は全員残っているということだ。同じくガーディアンが4人は戦闘不能になっていることを意味していた。
「神谷さん」と後ろから声をかけて来たのは村野だ。他のガーディアンの情報を集めに行ってもらっていた。ガーディアンの生存者は神谷と村野を含めて5人。浩太と山村、そして星川というこの大戦直前に入ったばかりの女性だった。
「私が浩太くんを見つけたときは戦闘中だったのですが、私も助太刀しようと入ったら突然消えて。間一髪のところで助かったという感じです」
「そうか。相手が消えたのはあれだよ」
神谷は少し遠いところに集まっているマーダーの集団に目を向けた。村野は納得した様子だった。そして後ろからガーディアン生存者の3人が歩いてきた。
「すみません。僕の力じゃ足止めにもならなかったです」
「俺も、足止めぐらいは出来ていたかもしれないが、結局逃げられた」
「私も同じくです」
「いいんだ。生きてくれていてよかった」
神谷は知らぬ間に冷静さを取り戻していた。中沢はガーディアンが揃って優しい雰囲気を取り戻した神谷を睨むように見ていた。その視線に気付いた神谷は同じように中村を睨みつけた。
「神谷。今回はこれで手を引いてやる。しかしお前達偽善者集団には十分なプレゼントを残してある。理性を失った現世人の数人がどこまで大事にしてくれるかは知らないが、これからも犠牲者は増えるだろうよ。せいぜい頑張って止めてみろ」
「なるほど。結局は自分達が最後まで殺すんじゃなくて、現世人たちに殺し合いをさせるのが目的だったのか。相変わらず悪趣味な集団だ。見てろ。かならず止めてやる。これ以上地獄に送れば俺の立場も危うくなるからな」
「閻魔大王が役立たずなお前を殺すかも知れねえな」
「それはそれで有難いがな。ただ、中沢。お前より先に消えるつもりはない」
「言ってろ」
互いのリーダーが今回の戦いはここまでと決め、第一次大戦は幕を下ろした。
「中沢さん! あんな弱い集団、今すぐ消しましょうよ!」
「うるせえ。ライバルがいた方が楽しいだろうが」
「そんなこと言って。ライバルには程遠いと思ってるんでしょ?」
中沢は口では「まあな」と言っているが、本当は神谷のことをかなり警戒していた。あの白い斬撃を出した時の神谷は中沢でも寒気がするほどの殺気を放っていたからだ。
「神谷さん、私があの場を離れてから何があったんですか?」
「ああ、矢島と山根かい? 簡単だよ。ちょこっと白龍の能力を借りて閻魔大王の元へ送ったんだ」
「……そうですか」
村野は神谷がどんな能力を秘めているのか分からなかった。ただ、今までもチームで戦うより、神谷1人で戦っている時の方が圧倒的に強いということだけは理解していた。
「さ、みんな。中沢が言っていた理性を失った現世人が数人居るのは事実だ。早く対処しなければ日本国内で大勢の犠牲者が出る。北海道から出る前に全員捕まえて対処するぞ」
『はい!』
大きな北海道という地で、ガーディアン5人で理性を失わされた現世人を探し始めた。




