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拾肆

 一方、通り魔事件が起きた現場は騒然としていた。

 血まみれで倒れている老若男女が合わせて12人。うち5人がその場で死亡が確認された。泣き喚く子供に警察が駆け寄りなだめる。腕から血を流しながら、血まみれで倒れている恋人に抱きつき離れない女性。村野は地獄のような現場で地獄ではありえない「愛」を感じていた。

 警察に取り押さえられる1人の女性。返り血を浴び、血のついたナイフをしっかり右手に握りながらその場の状況をジッと見つめていた。

 村野は抜刀し、その女性に向って刀を振り下ろした。


「あはははははは! 最高だ!」


 女性の中から出てきたのは小太りで眼鏡をかけた男だった。村野に斬られて乗り移っていた現世人から抜き出されたのだが、血まみれの現場で悲しみに暮れている人々を見て笑っている。村野は怒りを抑えきれず、何度も小太りの男を斬りつけた。男は抵抗することなく喜んで村野に斬られ、血まみれになって死んでは生き返りを繰り返していた。

 いくらこの男を斬っても、現世の人々が生き返るわけでもない。冷静になった村野は斬りつけるのをやめた。


「お嬢さん、もういいのかい?」

「黙って」

「君の怒りはそんなものかい?」

「黙ってってば」

「僕を斬っても死なない。だったら現世の人たちを斬って怒りを発散するといいよ」

「うるさい! 現世の人を斬るなんて選択肢、私にはない。あなたを神谷さんに突き出してやる」

「僕が大人しく着いていくと思うのかい?」


 村野の攻撃を受けても平然としていた男である。男の言うとおり、神谷の元まで連れて行けるか不安だった。それに、神谷は2人を相手に戦っている途中である。こちらに来てくれるという希望は薄かった。

 「それじゃ、次は僕から」と言いながら刀を抜刀した。すると男の刀は槍に変化した。クルクルと槍を回しながら徐々に近づいてくる男の顔はゲームをしている子供のような表情だった。村野はその殺気に背筋が凍るようだった。


「さて、お嬢さんはどんな能力なのかな?」

「私の能力はあなたと一緒よ。でも刀の能力は全く違うみたいね」


 そう言うと、村野は刀で自分の手首を軽く斬った。手首から垂れる血が刃に落ちた瞬間、銀色だった刃が一気に赤く染まった。


「紅龍、久しぶりに暴れるわよ」

「待ってました」


 村野は刀に紅龍こうりゅうと名づけていた。神谷と白龍が力を貸し合ってどんどん強くなる姿を見て、村野も必死に刀に話しかけていた。しかし紅龍はそう簡単に心を開く刀ではなかった。そこで紅龍が力を貸す代わりに出した条件が“村野の血を与える”だった。


「赤い刃。やはり人を殺すのは好きなようだね」

「うるさい。今は現世の人たちを守る為の刃。生前のように自分の都合で人を殺すのはやめたの」

「良い子ぶりやがって。その偽善、どこまで保ってられるのか見てやろう」


 男は槍の先を村野に向けて走り出した。村野は刀で男が突いてきた槍の軌道を変えながら懐に入り、お腹を横に切り裂いた。男は咄嗟に下がったため、傷口が浅かった。しかし男のお腹から流れる血は止まらない。


「傷口は浅いのに血が止まらないな。その赤い刃に何か関係があるのかな?」


 男は冷静だった。常に相手の攻撃を分析しながら戦っている様子だった。紅龍の刃で斬られた人は、どれだけ傷口が浅くても血がどんどんと流れ出てくる。大量出血で死ぬか、自害してリセットする他ない。相手がどちらかの対処をしている間も、村野は攻撃の手を緩めることなく斬り続ける。

 男は血が流れていてもお構いなしに攻撃を繰り出す。普通ならば血が止まらないと焦って攻撃の手を緩めるのだが、この男は少し違っていた。

 村野と男が戦っている間に、通り魔の犯人となってしまった女性は警察に連れて行かれ、多くの負傷者も救急車で運ばれていった。血まみれの現場には野次馬と鑑識が残っているだけだった。


「さて、そろそろこの争いも終わりにしようか」

「それはどういう意味?」

「僕は次に行かなくちゃいけないんだ。こんなところで君と遊んでいる暇はないんだよ」


 そういうと男は槍の先を空に向けて突き上げた。特に何かが起きたわけでもないが、男は槍を刀に戻して納得したかのように鞘に納めた。


「え? 今の何?」

「勝利宣言」

「これのどこが勝利なの?」


 男は腕からずっと血を流している。紅龍で先ほど斬った傷だ。誰がどう見ても男の勝利には見えない。しかし男は満足気に後ろを向いて立ち去ろうとしていた。

 村野は男の行動が理解できず、紅龍で背後から斬りかかろうと構えなおしたが、紅龍が凄く重く感じた。


「あれ? 紅龍、こんなに重かったっけ」

「あの男、今はもう関わらない方が良い。これ以上斬るとあんたの心が壊れるよ」


 紅龍がこれ以上、村野に人を斬らせない為に刀の重さを倍増させていた。あの男は斬られることに何も感じない身体であるがため、戦った相手に殺意をどんどん埋め込む要素を秘めていた。紅龍はそれを感じていたのだ。

 村野は立ち去る男の背中をジッと見つめているだけだった。すると、男は振り返り村野を見ながら刀を抜いた。村野は斬りかかって来るのかと思い紅龍を構えたが、男は自分の首を斬り落とした。紅龍の傷口から流れる血が鬱陶しかったのだろう。わざわざ村野を見ながら自害したのだ。

 最後まで嫌な感じの男だった。

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