拾参
村野によると、始めに通り魔事件を起こすと川上が言っていたという。なぜ川上は計画の事を敵に教えたのかと神谷は疑問に思ったが、それは神谷が到着する5分ほど前のこと。
川上と村野が刀で斬り合っていたが、いくら殺しても復活する為、お互いリーダーが到着するまで相手を現世から消滅させることは出来ない。そのため、いかに生きたまま相手の動きを止めておけるかの戦いだった。それは川上や村野だけでなく他の隊員も同じである。そして、この2人の戦いでは川上に軍配が上がった。
川上は村野の刀を払い落とし、胸を一突きしたと同時に壁に押し込んだ。村野が抵抗出来ない状態になったのを確認してから、中沢が来るのを待った。
川上は待っている間、どの道死ぬことになるであろう村野に計画のことをベラベラと話し始めたのだ。しかし、到着したのは中沢ではなく神谷だった。予想外の展開に川上は焦ったであろう。結果、川上は神谷に負け、マーダーの計画の一部の情報はガーディアンに漏れることとなった。
マーダーの計画は間もなく実行された。パトカーや救急車が騒々しく大通りを走り去っていった。神谷と村野もパトカーが走っていった方向へ走り出した。到着すると10人近くの現世人が路上に倒れて血を流している。神谷は辺りを見渡した。すると、赤く光る人が3人いた。
衆人の元へ駆け寄ると、見た事ない衆人ばかりだった。マーダーである。3人、フリーのマーダーが居るということは、この衆人たちを追いかけていたガーディアンは既に中沢の手によって殺されたか、あるいはどこかで足止めを喰らっているか。どちらにしろガーディアンの劣勢に変わりない。
相手も神谷に気付き、1人が刀を抜いた。神谷はここに来る途中、村野には“マーダーに気付かれないようにしろ”と伝えてあった。川上が居なくなったマーダーには、衆人の見分けがつく者は居ないであろうと踏んだのだ。案の定、村野には気付いていない様子だった。
しかしこちらも相手3人の能力を知らない。どんな能力を持っているのか確かめる必要があったが、1対3のこの状況でそんなのん気な事を言っていられない。想定では、1人は乗り移りの能力だろう。
1人が刀を脇に構えて神谷に向って走り出した。間合いに入る手前で急停止すると、力いっぱい刀を横に振りぬいた。普通であれば届くはずが無い距離だが、その衆人の刀は巨大化し、神谷の脇腹に到達していた。咄嗟に刀を立てて身を守った神谷は10mほど飛ばされた。大きなバットでボールを打つかのようなスイングだった。
「ほう。私の初太刀を受けるとは、素晴らしい身体能力」
「ビックリした……。これは一体どういう能力なんだ?」
「これかい? あまり言いたくないが、私の初太刀を受けた人は君が初めてだから教えてやろう。私の能力は現世人の魂を抜き出すこと。もちろん、抜き出すだけで戻す事は出来ないがね。ハハハ」
マーダーらしい能力だと神谷は思っていたが、その能力にもデメリットはある。1日2回までしか発動する事ができないという。現世人に対しては魂を抜き出すが、衆人に対して使えば10分ほど動きを止めることが出来る。
死神のような能力を持った衆人の名前は山根智明。生前、小学生のみを狙った無差別殺人を犯した死刑囚だ。刀が大きくなるのは能力の発動ではなく刀との連携技の為、回数制限のある能力は温存している様子だった。神谷たちに対して能力を発動させる気はない。つまりそれは、少しでも多くの現世人から魂を抜き出そうとしているということだった。
神谷は山根に気を取られていた為気付かなかったが、マーダーの1人が姿を消していた。もしかすると現世人に乗り移ったのかもしれない。しかしその事に関して神谷は、それほど焦ってはいなかった。こういう時のために村野に姿を眩ませておいてもらったのだ。
神谷は刀を変化させながら切りかかってくる山根に手がいっぱいだった。すると、もう1人の衆人が神谷と山根の戦いに参加してきた。先ほどまでは遠目で気付かなかったが、この衆人は1度合ったことがあった。矢島秀。現世に着いて村野と高尾駅に行った時に絡んできた奴だ。あの時はまだ能力を宿していなかった為、神谷は矢島の能力を知らなかった。
神谷は山根の巨大化する刀の攻撃を防ぎながら矢島にも警戒していると、矢島は神谷に刀の先を向けて「いざ参らん」と合言葉を言った。刀は光り、その光が矢のように伸びて神谷の胸に突き刺さった。
痛いという感覚もなく何も起きない為、神谷は矢島の能力が全く分からなかった。しかし、ここに来て白龍が口を開いた。
「おい、あの男の能力はあまり受けるなよ。俺にも限界があるんだからな」
「何を言っているか分からないぞ、白龍。ちゃんと説明してくれ」
「お前は本当に頭が悪いな。いいか、あの後ろの男はお前達衆人の殺意を引き出す。つまり、さっきの光を受けると人が無意識に抑えている殺意をどんどん表に出してしまうんだ。ガーディアンのリーダーであるお前が、現世の人を殺しては本末転倒だぞ」
「さっき光を食らったけど、全くそんな殺意はないぞ?」
「だから俺にも限界があるって言っただろ。少しぐらいならお前の殺意を俺が吸収してやる。現世の人をマーダーから守るというお前の考えに賛同して力を貸すと言ったからな」
「そんなことも出来るのか。白龍、お前凄いな」
「のん気に関心している場合じゃねえぞ。またあの光を放とうとしている。しっかり避けろよ」
白龍に矢島の能力を教えてもらった神谷は、光の矢を避けながら山根の攻撃も受け続けていた。




