八つの大陸
首相執務室。
机の上に書類の束が広げられている。東州連盟から送られてきたものだ。
礼白は頁をめくり、指先を字の間に滑らせる。リリムは机のそばに立ち、冷めた茶を手に持っている。
「八つの大陸。」
礼白は声に出して読む。
「北西洋。南西洋。東州。日初。東群島。北原。中州。西中海。」
彼は次の頁をめくる。
「南極は含まない。」
「はい。」
リリムは茶を机の隅に置く。
「南極には人類の活動はないそうです。少数の観測基地が縁にあるだけだと。」
礼白は読み続ける。
「魔神。」
彼はこの言葉を読み、少し止まる。
「東州と日初にはかつて魔神と呼ばれる生物が存在していた。現在、比較的多くの復現技術を持つのは彼らだけ。他の国にもあるが、ごく少ない。」
彼は頁をめくる。
「近代以降、比較的多いのは計算機魔法。」
彼は顔を上げる。
「本当に魔法なんだな。」
彼は笑う。
「何か別の専門用語かと思っていた。」
リリムは何も答えない。彼女は窓辺へ行き、カーテンを少し開ける。午後の光が差し込み、書類の上に落ちる。
礼白はめくり続ける。
「世界の総人口……二十万から三十万。」
彼は背もたれに寄りかかる。
「つまり、どの国も平均で数万人程度。もっと少ないところもある。」
「はい。」
リリムは振り返る。
「東州連盟がこれを送ってきたのは、どういう意味でしょう。」
礼白は天井を見る。
「私も考えていた。」
彼は書類を閉じ、その上を指で軽く叩く。
「東州は自分たちの手札を我々に見せている。魔神の背景。計算機魔法の分布。大陸の構図。これらの中には公開されているものも、そうでないものもある。」
「彼らは我々が知らないと思っている。」
リリムは机のそばに戻る。
「だからこれを渡すことで、誠意を示していると。」
「誠意。」
礼白は繰り返し、首を振る。
「私はそうは思わない。ただ誠意を示すだけなら、ここまで細かくは書かない。魔神復現技術の分布まで書いてある。」
リリムは考える。
「首相は、我々がどの国にも傾かないでほしいからでは、と。彼ら自身も含めて。」
礼白はうなずく。
「私もそう思う。」
彼は立ち上がり、壁の地図の前へ行く。八つの大陸の輪郭がその上に広がっている。シルヴィエット国の位置は中央やや西、東州と北西洋の間に挟まれている。すぐ隣には死寂の地。
「目的は何だ。」
彼は地図を見つめる。
「彼らがしていることはすべて合理的に見える。だが動機が思い浮かばない。これほど面倒な動機が。」
リリムは彼の後ろに立つ。
「おそらく大国均衡の原則では。」
礼白は振り返らない。
「続けて。」
「この世界の本当のプレイヤーは四つだけ。」
リリムの声は平坦だ。
「北西洋。北原。東州。日初は半分。西中海も半分。」
「つまり、我々にも一杯食わせる能力があると彼らは考えている。」
「はい。」
リリムは少し間を置く。
「ですが、分け与えたくはない。」
礼白はしばらく沈黙する。
「それから死寂の地だ。」
彼は手を伸ばし、地図のあの空白領域を指で一度叩く。
「すぐ隣にあるのに、何も分からない。」
「はい。」
リリムの口調には少しの諦めがある。
「東州から送られた情報の中で、死寂の地についての部分は一行だけでした。『空白区域、状況不明。』それだけです。」
礼白は振り返る。
「彼らも知らないのか。」
「おそらくは。」
扉がノックされた。
リリムが歩いて行き、書類を受け取る。彼女は一瞥し、急ぎ足で礼白のもとへ戻る。
「首相。尊爵様の戦闘報告です。」
礼白は受け取る。
紙には尊爵の字がある。乱れているが、読める。
「国籍不明戦闘機六機と遭遇。気動配置は本世界の技術に非ず。空戦中、敵末尾機の尾部に円形法陣が出現し、大量の光束武器を発射。目撃、おそらく軍用大範囲魔法。我が方に損傷なし。敵機全滅。残骸なし。」
礼白は読み終え、報告を机の上に置く。
「来たか。」
彼は笑う。声は大きくないが、リリムにはその意味が分かった。
「軍用大範囲魔法。」
彼は繰り返す。
「東州から送られた情報には、計算機魔法は才能が必要で難度が高いとあった。だが尊爵の描写は、計算機魔法らしくない。」
リリムは何も言わない。
礼白は執務机へ行き、東州の情報を手に取り、もう一度見る。
「東州が我々にこれを見せるのは、彼らが多くを知っていると告げている。」
彼は紙を置く。
「尊爵が遭遇した戦闘は、誰かが我々を安穏とさせたくないと告げている。」
彼は座る。
「とにかく、いろいろと考えた。相手がどう出るか見よう。」
リリムは冷めた茶を下げ、熱い茶に替える。
「晩餐会の件。」
礼白は顔を上げる。
「商務大臣が対応しているな。」
「はい。」
「労働者党と学生党も来る。」
「はい。」
「科学者たちは忙しくさせておけ。」
「承知しました。」
リリムは新しい茶を彼の手元に置く。
礼白は茶碗を手に取り、一口飲む。熱い。彼は茶碗を置き、立ち上がる。
「行こう。リリム。」
彼は扉へ向かう。
「何しろ、私は柔らかい柿ではないからな。」
彼は手を扉の取っ手に掛ける。
「まず商務大臣に会おう。準備ができているか見るんだ。」
リリムは彼の後ろに従う。
「はい。首相様。」
扉が開く。
廊下の灯りはとても明るい。遠くから足音が聞こえ、かすかな話し声もある。首相府は動いている。
礼白は歩き出す。リリムは半歩後ろに従う。
扉が背後で閉まる。
執務室は空になった。机の上の書類はまだ広げられている。東州の情報。尊爵の報告。地図の上のあの空白区域。
カーテンがわずかに動いた。
そして静かになった。




