雪
首相府。
応接室は広くない。円卓が一つ、椅子が六脚。カーテンは半分だけ引かれ、光はやや暗い。
礼白は窓際の席に座っている。左手には西洋公約のハーヴィー、右手には北嵐連盟のイリーナ。東州連盟の林秀は真正面に座っている。三方の随員は全員廊下で待機している。
リリムは扉のそばに立ち、両手を前に重ねている。
沈黙が十数秒続いた。
ハーヴィーが先に口を開く。彼は眼鏡を外し、柔らかい布でゆっくりとレンズを拭きながら、雑談でもするような口調で言う。
「首相先生。我々西洋公約はシルヴィエット国の置かれた状況に理解を示します。見知らぬ世界に突然現れるなど、誰であれ多少は……戸惑うものでしょう。」
彼は眼鏡をかけ直し、笑みを浮かべる。
「ですから我々の提案は簡単です。不可侵条約を締結し、同時に貴国の領土に前線ミサイル防衛システムの一式を配備することをお許しいただきたい。純粋に防御的な性質のものです。」
イリーナは背もたれに寄りかかり、指で机を叩いている。
「防衛システム。」
彼女は繰り返す。
「ハーヴィーさん、あなたはミサイル防衛システムを他人の家の門口に配備して、それを北嵐連盟に防御的性質だと告げるのですか。」
彼女は礼白を見る。
「首相先生。我々の提案の方が現実的です。北嵐連盟が貴国にレーダー基地一箇所と燃料補給基地一箇所を設置することをお許しいただきたい。その代わり、我々は貴国の北部国境の安全を保証します。」
ハーヴィーの笑みは変わらない。
「安全。イリーナ将軍、貴国の『安全保証』が通常何を意味するかは、ここにおられる皆様がよくご存じでしょう。」
イリーナは振り返って彼女を見る。
「貴国の『防衛システム』よりは明確です。少なくとも我々のレーダー基地は真夜中に何かを発射したりはしません。」
林秀はずっと何も言わなかった。
彼の前には茶が一杯置かれているが、手をつけていない。彼はただ静かに聞き、時折うつむいて自分の持ってきたノートを一瞥する。
礼白は茶碗を手に取り、一口飲む。
「お二方の提案は、どちらも理解しました。」
彼は茶碗を置く。
「西洋公約は我々の側にミサイル防衛システムを配備したい。北嵐連盟は我々の側にレーダー基地と補給基地を設けたい。どちらも良いものです。」
彼は少し間を置く。
「ですがどちらも、シルヴィエット国が自国の領土において、他人の安全のために代価を払うことを求めています。」
ハーヴィーとイリーナが同時に彼を見る。
礼白の表情はとても平静だ。
「一つ考えがあります。」
彼は言う。
「シルヴィエット国は西洋公約と北嵐連盟の双方と同時に不可侵条約を締結することができます。軍事基地は設けず、武器システムも配備しない。その代わり、双方が貿易とインフラ整備の面で対等な支援を提供する。」
ハーヴィーが眉をひそめる。
「首相先生、不可侵条約では我々の安全保障上の懸念は解決しません。」
「それが解決するのは、私の安全保障上の懸念です。」
礼白は彼を見る。
「もし西洋公約と北嵐連盟の双方が我が国に利益を持つなら、どちらかが我が国に手を出せば、もう一方を敵に回すことになる。これはミサイル防衛システムやレーダー基地よりもはるかに安全です。」
イリーナの指が止まる。
彼女は礼白を数秒じっと見つめ、口元がわずかに動く。
「面白い。」
ハーヴィーが何か言おうとした時、林秀がついに口を開いた。
「首相先生。」
彼の声は大きくないが、とてもはっきりしている。
「東州連盟は貴国の軍事技術に興味があります。」
全員が彼を見る。
「具体的には、人型武装のエネルギーシステムと駆動設計です。」
林秀の口調は平坦だ。
「我々は何かの配備を要求しません。ただ技術交流のチャンネルを設けたいだけです。」
ハーヴィーとイリーナが同時に警戒する。
礼白の指が茶碗の縁を軽く叩いた。
「技術交流。」
彼は繰り返す。
「林さん、人型武装はシルヴィエット国防軍の現役装備です。技術交流は国家安全に関わります。」
「承知しております。」
林秀はうなずく。
「ですから東州連盟は同等の価値の技術を交換に出す用意があります。ドローンシステム。計算魔法師の養成体系。あるいは別の何か。何でも話し合えます。」
ハーヴィーが口を挟む。
「首相先生、人型武装の技術が東州に流出すれば――」
「西洋に流出したらどうです。」
イリーナが彼を遮る。
「あるいは北嵐に。」
林秀は彼らを見ず、ただ礼白を見る。
「首相先生。我々は急ぎません。ゆっくり話し合えます。」
礼白はしばらく沈黙する。
三方の要求はどれも明確だ。西洋はミサイル防衛の前線を、北嵐は西洋本土を脅かすミサイル基地を、東州は人型武装の技術を。どれも大きな筹码だ。どれもシルヴィエット国が代価を払うことを意味する。
「皆様の提案は、考える時間が必要です。」
彼は立ち上がる。
「どうか――」
扉が押し開けられた。
全員の視線が扉口に向く。
リリムが横に退く。
一人の少女が入ってくる。
金色の長い髪が腰まで垂れている。濃紺の制服、襟元には銀の徽章が一つ。十六歳に見えるが、その眼差しは十六歳よりも深い。
西洋、北嵐、東州の三人が立ち上がる。
ハーヴィーの反応が最も速い。彼は軽くお辞儀する。
「女皇陛下。」
イリーナは体をまっすぐに伸ばし、お辞儀はしなかったが、視線は重い。
林秀は頭を下げ、東州式の礼をする。
女皇は彼らを一瞥し、礼を返さない。
「皆様、ご苦労様です。」
彼女の声はとても軽いが、一語一語がはっきりしている。
「本日の会談はここまで。首相は休養が必要です。」
ハーヴィーとイリーナは互いに一瞥する。
誰も反論しなかった。
――
廊下。扉が背後で閉まる。
女皇が前に歩き、礼白は半歩後ろに従う。
「よく来てくれた。」
礼白は低く言う。
「あと十分遅かったら、私は折れていた。」
女皇は振り返らない。
「分かってる。だから来たの。」
彼女は足を止め、振り返る。廊下には他の誰もいない。リリムは遠くに立っている。
女皇は礼白を見る。先ほどの応接室で見せていた、君主としての冷淡さは、彼女の顔から消えている。
「もうたくさん。」
彼女は言う。
礼白は彼女を見る。
「何がたくさんだ。」
「あの政治的大人物たち。」
女皇は鼻をしかめる。
「一人も二人も、見え透いた芝居ばかり。ハーヴィーはずっと眼鏡を拭いていた。イリーナはずっと机を叩いていた。あの東州人は最後まであの茶に手をつけなかった。」
彼女は少し間を置く。
「彼らは皆、善人じゃない。」
礼白は笑う。
「こんなこと、国民に聞かれたら大変だ。」
「もちろん、あなたにだから言ってるの。」
女皇は彼をにらむ。
「リリム。」
彼女は横を向く。
「お茶を持ってきて。」
リリムはお辞儀をし、振り返って遠ざかる。
廊下には二人だけが残る。
女皇の表情は再び引き締まる。先ほどの子供っぽさは消え、代わりに礼白がよく知る、シルヴィエット国君主の平静さが戻る。
「今回は無事に済んだわ。」
彼女は言う。
「三方とも要求を出したけれど、誰も何も手に入れられなかった。あなたが引き延ばした。」
礼白はうなずく。
「暫時的には。」
「晩餐会の貿易協定は、私には助けられないわ。」
女皇は彼を見る。
「ああいう場では口を挟みにくい。あまりに露骨すぎる。」
「分かっている。」
「でも、あなたはいつも問題ないでしょう。」
彼女は手を伸ばし、礼白の腕を軽く叩く。とても短い。偶然触れたかのように。
「では、私は先に行くわ。」
彼女は振り返り、二歩歩いて、また振り返る。
「次は挽回してちょうだいね、礼。」
礼白は彼女が遠ざかるのを見る。
廊下の端で、リリムが茶盆を持って戻ってくる。
――
同時刻。空中。
国境空域。
四機の戦闘機が菱形編隊で哨戒している。銀灰色の機体、前進翼。長機の機体には白い「雪」の字が塗られている。
尊爵は座艙に座り、片手を操縦桿に置き、もう片方の手でペンを回している。
「退屈だ。」
彼はあくびをする。
「雪、何か動きはあるか。」
座艙に冷たい女性の声が響く。
「異常なし。尊爵様。」
「お前はいつもそう言う。」
「毎回異常がないからです。」
尊爵はペンをポケットに戻す。
「まあいい。」
レーダー画面に、突然六つの光点が現れる。
北西方向から。高速で接近。識別信号なし。応答なし。国籍宣言なし。
尊爵は姿勢を正す。
「雪。」
「確認しました。六機の国籍不明戦闘機。速度マッハ一・七。高度八千。我が国領空に接近中。」
「地上に連絡しろ。」
「連絡済みです。」
尊爵は操縦桿を押し下げる。
「行くぞ。」
四機の「雪」式戦闘機が同時に旋回する。前進翼が気流を切り裂き、低い唸りを上げる。
「こちらシルヴィエット国防軍哨戒編隊。」
尊爵は公共周波数を開く。
「貴機は我が国領空に接近中。直ちに身元を明らかにし、針路を変更せよ。」
応答はない。
六機の不明戦闘機が逼近を続ける。
「もう一度言う。直ちに――」
相手が発砲した。
一発のミサイルが先頭の戦闘機の翼下から放たれ、尊爵の僚機をかすめて飛ぶ。
「散開!」
尊爵が叫ぶ。
四機の「雪」式が同時に編隊を解き、四方へ散る。不明戦闘機群は二組に分かれ、三機が尊爵を追い、三機が僚機を追う。
「雪。相手の機種を分析しろ。」
「識別不能。気動配置は既知のすべての型と一致しません。推定……本世界の技術ではありません。」
「当たり前だ。」
尊爵は操縦桿を引く。機体が頭を上げ、上昇する。
三機の敵機が後ろに続く。
「破S。」
彼は半回転横滾し、機首を下げ、半分の内筋斗を完成させる。戦闘機は極めて速い速度で急降下し、同時に方向を百八十度変える。三機の敵機が彼の頭上を通過していく。
尊爵は笑う。
「ハイヨーヨー。」
彼は機首を引き上げ、上昇する。運動エネルギーが位置エネルギーに変わり、速度は落ちるが、敵機が視界に入る。彼は敵機を視線内に保ち、追撃を遅延させる。
「シザース。」
彼は連続して逆方向に回転する。最も近い敵機と絡み合う。双方が不断に旋回し向きを変え、尾部攻撃位置を争う。速度が低下し、高度が下がる。すれ違いのたびに機銃の短点射が伴う。
尊爵の僚機が側翼から切入する。一機の敵機が被弾し、黒煙を引いて墜落する。
「雪。」
「はい。尊爵様。」
「最後のあの黒いのをロックしてくれ。」
「了解。」
尊爵は操縦桿を引き、二回の39機動を行う。戦闘機の針路と敵機が垂直を保つ。相手のレーダー信号が画面に閃き、消え、また現れる。
そして彼は機会を見つける。機首が最後尾の黒い戦闘機に向く。
彼が発射ボタンを押そうとした瞬間――
黒い戦闘機の尾部に、円形の法陣が現れる。
白い光。
無数の細長い、流星のような光束が法陣から放たれ、覆い尽くすように広がる。
尊爵は猛然と操縦桿を引く。
「魔法か?」
彼は歯を食いしばり、戦闘機を光束の間を縫って飛ばす。
「まったく。これは小説か漫画じゃないんだぞ?」
光束が翼をかすめる。座艙に警報が響く。
「雪!助けてくれ!」
「了解、尊爵様。」
冷たい女性の声が座艙に響く。画面に一連のデータが飛び出す。最適回避経路。射撃窗口。エネルギー残量。
尊爵は光束の隙間に一本の線を見つける。
「今だ。」
彼は発射ボタンを押す。
ミサイルが掛架から離れる。
そして。
空中に巨大な白光が閃く。
尊爵は目を閉じる。
再び開けた時。
向こう側は消えていた。
六機の敵機、一機も残っていない。
光束は消えた。法陣は消えた。何も残っていない。
尊爵は空っぽのレーダー画面を数秒じっと見つめる。
「くそ。」
彼は低く言う。
「全部消えた。部品一つ残っていない。」
「尊爵様。帰還しますか。」
「……ああ。帰還だ。」
地上。首相府。廊下の端。
女皇はすでに遠ざかっている。
礼白は窓辺に立ち、地平線を見ている。空に白い航跡が一本、速く、まっすぐ。そして消えた。
リリムが茶盆を持って彼の後ろに立つ。
「首相様。お茶です。」
「置いてくれ。」
彼は茶碗を受け取り、一口飲む。
「晩餐会の準備はできているか。」
「できております。」
リリムは少し間を置く。
「女皇陛下は先ほど……何か特別なことをおっしゃいましたか。」
礼白は窓の外を見る。
「次は挽回しろと言われた。」
彼は茶碗を置く。
「では、次だ。」




