お前も諫めに来たのか
廊下の曲がり角。
黎姫が突然立ち止まる。彼女の手が胸を押さえ、指関節が白くなる。顔色が一瞬で消え、唇が青くなる。
「黎姫。」
礼白が振り返り彼女を支える。彼女の体が震えている。とても軽く、だが止まらない。
「大丈夫か。」
黎姫は首を振る。彼女の目は開いているが、瞳孔は焦点を失い、何かとても遠い場所を見ているかのようだ。あるいは、何かを受信しているかのように。
「大丈夫。」
彼女の声はとても軽く、漂っている。
「ただ……」
彼女は言い終えなかった。
礼白は彼女を支えて壁にもたれさせる。尊爵は前で警戒し、振り返って一瞥し、眉をひそめる。黒菱久九は後ろに立ち、目光を黎姫に落とし、紫紅色の目を細める。
黎姫は目を閉じる。呼吸は浅い。彼女の指は礼白の袖を握り、力はとても強い。
彼女は受信している。
大量の。流れ込んでくる。彼女のものではない記憶。
真龍の記憶。
それらの記憶は洪水のように彼女の脳に注ぎ込まれる。画面、音、温度、匂い。龍鱗が岩を擦る触感。高空の気流。深海の圧力。そして――
龍椅に座る者。
神女。
日初の国の統治者。
――
大殿。
外から見れば、大殿は静かだ。石段、石灯、閉ざされた扉。だが中は違う。
龍椅は大殿の最も奥にある。とても高い。椅背の盤龍の形に彫られた銀飾を見るには顔を上げなければならないほど。
神女は龍椅に斜めに横たわっている。彼女の姿勢はとても気楽で、片手で顎を支え、白い長髪が椅の縁から垂れ下がり、静止した滝のようだ。目は半ば閉じられ、表情ははっきりと見えない。
台下には二人が立っている。
名理。紫宮。
名理は年配で、髪は白く混じり、法袍の袖口は擦り切れて毛羽立っている。彼は顔を上げて龍椅を見て、唇が震えている。
「陛下。」
彼の声が大殿に響く。
「あなたは人々を血として神脈を再塑しようとされている。千万を費やし、未来にはさらに無数の死傷者が出るでしょう。」
彼は一歩前に進む。
「あなたは――」
彼は手を伸ばす。何かを掴もうとするかのように。
「お取り消しを――」
名理の首が落ちた。
前兆もなく。動作もなく。神女は動かなかった。彼女は目を開けさえしなかった。だが名理の頭は首から滑り落ち、石板に当たった。血が涌き出て、地面に流れ広がる。体はまだ立っており、そしてゆっくりと倒れる。
紫宮は動かなかった。彼はその場に立ち、血が彼の靴の底を越える。
龍椅の上からとても軽いため息が聞こえる。
「紫宮。」
神女の声が上から漂ってくる。
「お前も諫めに来たのか。」
紫宮はうつむく。
「臣はすでに衆人を制圧しました。」
彼の声は平坦だ。
「ただ、まだ少し足りません。」
龍椅の上でしばらく静かになる。
「朕が与えよう。」
神女が言う。
「兵を。」
紫宮は顔を上げない。
「陛下。」
彼は少し間を置く。
「あそこは結局彼らの地盤です。」
龍椅の上の人影が動く。神女が座り上がる。白い長髪が椅の縁から戻り、潮が引くように。彼女は立ち上がり、階段を降りる。足音はとても軽く、血を踏んでも音がしない。
彼女は紫宮の前に歩み寄る。
紫宮はうつむき、彼女の足だけが見える。裸足で、血の中に踏んでいる。
神女が口を開ける。一滴の透明な液体が彼女の唇から落ちる。虹彩の光が液体の表面を流れる。それは紫宮の顔に落ち、頬骨に沿って滑り、冷や汗と混ざる。
紫宮の体が硬直する。
そして片手が上がる。紫宮の頭頂に置かれる。その手はとても白く、爪はとても長い。その影が紫宮の額に落ちる。
その影は、龍爪の形をしている。
虚影はとても淡いが、五趾と鱗の輪郭がはっきりと見える。それは紫宮の頭頂に押し当てられ、何かを確認するかのようだ。
「ならば……」
神女の声はとても軽い。遠くから聞こえてくるかのように軽い。
「彼らを呑み込め。」
紫宮は跪いた。膝が血溜まりに打ちつけられる。
「臣……」
彼の声は震えている。だがとても確かだ。
「明白。」
神女は手を引く。振り返る。龍椅に戻る。白い長髪が再び垂れ下がる。彼女は元の位置に斜めに横たわり、目を再び半ば閉じる。
大殿には紫宮が跪くだけ。名理の屍が隣に倒れている。血がゆっくりと凝固する。
龍椅の上の人影は微動だにしない。
彫像のように。
盤踞する龍のように。
――
廊下の曲がり角。
黎姫が目を開ける。
彼女の瞳孔は正常に戻り、顔色はまだ白い。だが呼吸は安定した。
「黎姫。」
礼白が彼女を見る。
「何を見た。」
黎姫の唇が動く。彼女は礼白を見て、その目光の中に何かが涌き上がっている。
「真龍の記憶。」
彼女は言う。
「それと……神女の。」
彼女はうつむき、自分の手を見る。
「彼女は神脈を再塑している。」
礼白は眉をひそめる。
「神脈を再塑。」
「人々を血として。」
黎姫は顔を上げる。彼女の目はとても明るい。黒い瞳孔の奥で、極細い金色が遊動している。
「これから……彼女は全ての人を呑み込む。」
廊下の突き当たりで、ハーヴィーの声がまた響く。息切れと罵声を帯びて。
「資本主義の鉄拳!お前らこの――」
礼白はイヤホンを押さえる。皇女の声が流れる。
「首相。西洋の者が神官と交戦しています。北嵐も動いています。東州の者が見えなくなりました。」
礼白は聞く。
「東州の者が見えなくなった。」
彼は繰り返す。
尊爵が振り返る。
「林秀か?」
「うん。」
礼白は廊下の突き当たりを見る。ハーヴィーの方向。銃声。
「まず合流だ。」
彼は言う。
「そして東州を探す。」
黎姫が立ち上がる。彼女は壁に手をつき、礼白のそばに歩く。
「礼白閣下。」
彼女の声はとても軽い。
「神女は……私の姉です。」
礼白は彼女を見る。
「実の姉です。」




