普通の治癒魔法
仮牢房。
牢房と言っても、実際には改造された展示館の倉庫だ。入口には日初の神官が二人立っており、中には鉄の机が一つ、椅子が二脚、吊り灯が一つだけ。
礼白は鉄の机のこちら側に立っている。皇女は彼の隣に立っている。
扉が開いた。二人の神官が紫の髪の女を連れて入り、椅子に座らせる。彼女の手首には紋様の刻まれた金属環が嵌められており、おそらく何らかの魔法抑制装置だろう。
彼女は顔を上げる。
紫の長い髪が肩に散っている。操縦服は白い囚服に変わっているが、それでも彼女が着ると何とも言えない色気がある。五官は立体的で、唇は薄く、目尻はわずかに上がっている。紫紅色の目は灯りの下で宝石のように輝いている。
礼白は一瞥した。
ただの一瞥だった。
皇女の肘が正確に彼の側腹を打つ。
礼白は低くうめき、腰を曲げる。
「見すぎ。」
皇女の声には起伏がない。
礼白は机に手をついて体を起こす。彼は反論しなかった。
紫の髪の女は首をかしげて二人を見る。口元がゆっくりと弧を描く。
「龍涎が目の前にいるのか?」
彼女の声はとても軽く、独り言のようだ。
「まさか日初国の統治者があなたと逃げるなんて、失策だったわね!」
彼女は笑う。最初は低く、そして次第に大きくなる。
「ふふふははは!」
礼白は眉をひそめる。
「何だって?誰が逃げた?」
彼がさらに問おうとした時。
扉の外の廊下から足音が聞こえる。
とても整っている。とても遅い。まるで多くの者が同時に足を踏み鳴らしているかのよう。先導するのは老神官の一団で、白い法衣をまとい、高い冠をかぶり、何か光る器具を手に捧げている。彼らは二列に分かれて入ってきて、壁際に立つ。
そして一人の少女。
十五、六歳に見える。あの和服の少女とほぼ同じ年頃。白い長髪が足首まで垂れ、浅い金色の目、瞳孔は細長い。肌はほとんど透明なほど白い。先ほどの和服の少女に似た古式の長袍を着ているが、刺繍はより複雑で、袖口と襟元には細かな水紋が流れている。
彼女が入ってくると、牢房の空気が変わった。温度ではない。何かもっと微細なもの。水面に突然一滴の油が落ち、張力が破られたかのよう。
紫の髪の女は入ってきた少女を見て、笑みは消えなかったが、目つきが変わった。
白髪の少女は鉄の机の向かいに止まる。彼女は銬をはめられた女を一瞥し、それから礼白を見る。
「普通の治癒魔法も龍涎と間違えられるのですね。」
彼女の声は平坦だ。一抹の諦めを帯びている。
「本当に信じられません。」
紫の髪の女が鼻を鳴らす。
「口がうまいこと。」
白髪の少女は彼女を無視する。
「礼白閣下。」
彼女は礼白を見る。
「ここは暫時、我々が引き継ぎます。後ほどご説明いたします。」
礼白は彼女を見る。この顔は先ほど彼の胸に飛び込んできた和服の少女――どこか似ている。だが同一人物ではない。和服の少女の髪は黒く、この少女の髪は白い。和服の少女の目は黒く、この少女の目は浅い金色だ。
「あなた方は――」
礼白が口を開いた時。
白髪の少女がわずかに手を上げる。
二列の老神官が同時に一歩進む。動作はまるで同一人物のように整っている。彼らは礼白と皇女を囲み、そして扉の方へ移動し始める。速くない。だが抗いがたい。
「礼白閣下。」
白髪の少女の声が後ろから届く。
「後ほどご説明いたします。」
礼白は老神官たちに押されて牢房を出る。皇女は彼の隣に従い、手をスカートの隠しポケットに入れているが、出してはいない。彼女の顔色は冷たいが、手は出していない。
扉が彼らの後ろで閉まる。
礼白は廊下に立ち、閉ざされた扉を見る。
老神官たちは両側に立ち、彼を見ず、話さない。
皇女は隠しポケットから手を離す。
「首相。」
彼女は言う。
「あの白髪の。さっきあなたに抱きついてキスしたのと。似てる。」
礼白はうなずく。
「分かっている。」
「聞かないの?」
礼白は扉を見る。
「聞いても無駄だ。彼らは今は言わない。」
彼は振り返り、廊下の突き当たりへ歩く。
「彼らが来るのを待つ。」
皇女が後ろに従う。
「彼女たちはどんな関係だと思う。」
礼白は数歩歩き、考える。
「姉妹。」
彼は言う。
「あるいは……」
彼はあの和服の少女の言葉を思い出す。
「私は気軽な女じゃない。」
彼女が彼の手にキスした時、唇に血がついていたことを思い出す。
白髪の少女が「普通の治癒魔法も龍涎と間違えられる」と言ったことを思い出す。
「あるいは別の何か。」
皇女は追及しない。
廊下は長い。灯りが一つ一つ点く。礼白は前に歩き、皇女は半歩後ろに従う。
遠くから尊爵のメッセージ通知音が聞こえる。礼白はスマホを取り出して一瞥する。
「首相様。温泉に入っています。ここの魚は足を噛みます。用事があるなら邪魔しないでください。」
礼白はスマホをポケットに戻す。
「尊爵が温泉に入っている。」
「うん。」
「俺の金で。」
「うん。」
礼白はしばらく沈黙する。
「まあいい。今日は確かに疲れただろう。」
皇女は何も言わない。
廊下の突き当たりは展示館のホール。各国の者たちがまだ外にいる。ハーヴィー、イリーナ、林秀。彼らは説明を待っている。
礼白は扉を押し開ける。
「皆様。」
彼は言う。
「日初側は説明すると言っています。」
彼は少し間を置く。
「ですから待ちましょう。」
ハーヴィーが口を開きかける。イリーナは腕を組む。林秀は茶碗を持っている。
誰も追及しない。
礼白は隣の休憩エリアへ行き、座る。皇女は彼の隣に座り、半席分の距離を隔てる。
彼は目を閉じる。
頭の中にあの和服の少女の顔。白髪の少女の顔。重なり合う。
そしてあの「龍涎」という言葉。
彼は目を開ける。
「皇女。」
「うん。」
「龍涎とは何だ。」
皇女は彼を見る。
「伝説。魔神の体内のある種の物質。百病を治し、寿命を延ばし、さらには――」
「さらには何だ。」
「人を魔神に変えるとも言われる。」
礼白は何も言わない。
彼はホールの天井を見る。吊り灯がとても明るく、彼は目を細める。
「あの私にキスした少女。」
彼は言う。
「彼女は普通の治癒魔法だと言った。」
皇女は首をかしげて彼を見る。
「信じたの?」
礼白は答えない。
彼は少女が彼の肩に寄りかかった時を思い出す。彼女が目を閉じて「とても精力を使う」と言ったことを思い出す。
「分からない。」
彼は言う。
「だが日初側が、答えをくれるだろう。」
皇女は視線を戻す。
「では待ちましょう。」
彼女は言う。




