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妹は一人で遊べない

休日の午後。


私はソファに座り、スマートフォンを見ていた。


特に見たいものがあるわけではない。


画面を下へ流す。


また流す。


隣の部屋から、何かを引きずる音が聞こえた。


がたがた。


ずるずる。


静かになった。


今度は、足音が近づいてくる。


ぱたぱたぱた。


嫌な予感がする。


「お姉ちゃん!」


ひまりがリビングへ入ってきた。


両腕で、大きな箱を抱えている。


「何それ」


「ゲーム!」


「そう」


私はスマートフォンへ視線を戻した。


「遊ぼ!」


「一人でやって」


「一人じゃできない!」


「じゃあ諦めて」


「諦めない!」


面倒な方向にだけ前向きだ。


ひまりはテーブルの上に箱を置いた。


箱には、色紙を切り抜いて貼ったらしい文字が並んでいる。


『ひまりちゃんのドキドキジェスチャーゲーム』


「手作り?」


「うん!」


「暇だったんだね」


「お姉ちゃんと遊ぶために作った!」


暇だったらしい。


ひまりが箱の中身を取り出す。


小さなカード。


砂時計。


紙で作った得点表。


なぜか小さな鈴。


「その鈴は何」


「正解したら鳴らす!」


「いらないでしょ」


「いる!」


ジェスチャーゲームに効果音を求めないでほしい。


私はスマートフォンを見続ける。


ひまりが目の前へ回り込んできた。


画面が見えない。


「どいて」


「一回だけ!」


「嫌」


「三分だけ!」


「昨日も三分の話をしてた気がする」


「今日は楽しい三分!」


時間に種類を作らないでほしい。


私は身体を横へずらした。


ひまりも横へずれる。


反対へ動く。


ひまりもついてくる。


「何してるの」


「お姉ちゃんの視界に入ってる!」


「邪魔」


「成功!」


何も成功していない。


私はスマートフォンの画面を消した。


ひまりの顔が明るくなる。


「やるの!?」


「一回だけ」


「やったー!」


両手を上げる。


声が大きい。















私はソファから立ち上がり、テーブルの前へ座った。


ひまりも向かい側へ座る。


「ルールを説明します!」


「ジェスチャーを見て当てるだけでしょ」


「そうです!」


説明が終わった。


ひまりはカードを裏返し、テーブルの上に広げた。


「まずは私がやるね!」


「どうぞ」


「砂時計お願い!」


私は砂時計をひっくり返した。


ひまりが一枚カードを取る。


内容を確認した瞬間、勢いよく立ち上がった。


両腕を横へ広げる。


その場で、ゆっくり回り始めた。


「……何」


ひまりは答えない。


ジェスチャー中だかららしい。


腕を広げたまま、さらに回る。


三回。


四回。


五回。


少しふらついた。


「飛行機」


ひまりが首を横に振る。


まだ回る。


「扇風機」


首を横に振る。


「回転寿司」


激しく首を横に振った。


そんなに違うらしい。


ひまりは両腕を上下に動かし始めた。


回りながら、腕を上下させる。


「鳥?」


ひまりが鈴を鳴らした。


ちりん。


「正解!」


「飛ぶ必要あった?」


「鳥は飛ぶよ!」


「回転はしないでしょ」


「自由な鳥だったの!」


自由にも限度がある。


ひまりは得点表に丸を一つ書いた。


「お姉ちゃん、一点!」


「私がもらうんだ」


「当てたから!」


自分の演技力には加点しないらしい。


ひまりは次のカードを引いた。


四つん這いになる。


その場で両手を交互に前へ出した。


「猫」


首を横に振る。


「犬」


首を横に振る。


「赤ちゃん」


ひまりが鈴を鳴らした。


「正解!」


「簡単」


「次は難しいよ!」


またカードを取る。


今度は両腕を前へ伸ばした。


膝を曲げる。


ゆっくり上下に動き始めた。


「何してるの」


ひまりは答えない。


上下する。


また上下する。


途中で腕を左右へ振り始めた。


「スクワット」


首を横に振る。


「踊ってる人」


首を横に振る。


ひまりは突然、その場で飛び跳ねた。


着地する。


また飛ぶ。


腕を前へ伸ばしたまま。


「ゾンビ」


激しく首を横に振る。


「じゃあ何」


砂時計の砂が落ちきった。


ひまりは動きを止めた。


「正解は、カエルでした!」


「どこが」


「跳んでた!」


「腕を前に出してたでしょ」


「カエルの手!」


カエルの手を見たことがないんだろうか。


「これは難しかったね!」


「演技の問題だと思う」


「次は分かりやすくする!」


ひまりはまたカードを引いた。


内容を見る。


少し考える。


それから、床に仰向けになった。


両手と両足を伸ばす。


動かない。


「……何」


動かない。


「寝てる人」


反応がない。


「死んでる人」


ひまりの指先が少し動いた。


「ひまり」


動かない。


私は顔を覗き込んだ。


目を閉じている。


呼吸はしている。


「寝たの?」


その瞬間、ひまりが勢いよく起き上がった。


「正解は、セミの抜け殻!」


「分かるわけないでしょ」


「動かなかったでしょ!」


「寝てる人でも死んでる人でも同じ」


「手足の感じがセミだった!」


どのあたりが。















「お姉ちゃん、全然当てられないね!」


「演技が悪いから」


「じゃあ、お姉ちゃんもやってみて!」


「嫌」


「一回だけ!」


「もう何回もやったでしょ」


「まだお姉ちゃんがやってない!」


「私がやるところまで含まれてたの」


「もちろん!」


気づかないうちに、私まで巻き込まれていた。


ひまりがカードを差し出す。


私は受け取らない。


ひまりがさらに差し出す。


カードが顔に近づく。


「近い」


「引いて!」


「嫌」


「一枚だけ!」


押し問答を続ける方が面倒になった。


私はカードを一枚取った。


『ゴリラ』


分かりやすい。


立ち上がる。


少し腰を落とす。


胸の前で両手を握る。


一度だけ胸を叩いた。


「お姉ちゃん!」


「違う」


「お姉ちゃん!」


「違う」


「朝のお姉ちゃん!」


「違う」


「会社から帰ってきたお姉ちゃん!」


「違う」


なぜ全部私なんだろう。


私はもう一度、胸を叩いた。


「怒ってるお姉ちゃん!」


「ゴリラ」


「あー!」


ひまりが鈴を鳴らした。


「正解!」


「私が言ったけど」


「正解したからいいの!」


何でもいいらしい。


私はカードをテーブルへ戻した。


「終わり」


「もう一枚!」


「一回だけって言った」


「さっきのは練習!」


「聞いてない」


「今言った!」


後からルールを増やさないでほしい。


ひまりが次のカードを引き、私へ差し出した。


『ペンギン』


私は立ち上がったまま、腕を身体の横につけた。


足を小さく開く。


その場で二歩だけ歩く。


「お姉ちゃん!」


「違う」


「寒いお姉ちゃん!」


「違う」


「トイレを我慢してるお姉ちゃん!」


「違う」


どんな目で私を見ているんだろう。


私はもう一度歩いた。


左右へ身体を揺らす。


ひまりは腕を組み、真剣に考えている。


「分かった!」


「何」


「寝起きのお姉ちゃん!」


「ペンギン」


「近かった!」


何も近くない。


「どうして全部私なの」


「お姉ちゃんがやると、全部お姉ちゃんに見えるから!」


意味が分からない。


「それじゃゲームにならないでしょ」


「楽しいからいいの!」


ひまりは笑っている。


私は次のカードを引いた。


『ラーメン』


食べる動作をすれば分かる。


片手で器を持つ。


もう片方の手で箸を使うふりをする。


麺をすする。


ひまりが勢いよく手を挙げた。


「ご飯を食べるお姉ちゃん!」


「ラーメン」


「当たってた!」


「ラーメンとは言ってない」


「麺を食べるお姉ちゃん!」


「もう答えを言ったでしょ」


ひまりは鈴を鳴らした。


ちりん。


「正解!」


何に正解したんだろう。


次のカードを取る。


『幽霊』


両腕を前に出す。


力を抜く。


ゆっくり歩く。


ひまりがすぐに叫んだ。


「月曜日のお姉ちゃん!」


私は動きを止めた。


ひまりは自信満々にこちらを見ている。


「朝、こんな感じだよ!」


「……」


「目もこんな感じ!」


ひまりが自分の目を半分閉じた。


口を少し開ける。


両腕をだらりと垂らし、その場を歩く。


似ている。


少しだけ。


いや、かなり似ている。


私は思わず息を漏らした。


「ふっ」


ひまりの動きが止まった。


目を見開く。


「お姉ちゃん、笑った!」


「笑ってない」


「笑った!」


「息が出ただけ」


「笑ったよ!」


ひまりが駆け寄ってくる。


近い。


「もう一回!」


「何を」


「笑って!」


「無理」


「今の顔もう一回する!」


ひまりはまた目を半分閉じた。


口を開ける。


腕を垂らす。


今度は大げさに左右へ揺れながら歩いた。


「月曜日のお姉ちゃん!」


「やめて」


「火曜日のお姉ちゃん!」


動きが少し速くなる。


「何が違うの」


「火曜日はちょっと元気!」


「そう」


「水曜日のお姉ちゃん!」


今度は途中で止まり、壁にもたれかかった。


「悪化してるでしょ」


「週の真ん中だから!」


また少し笑いそうになった。


私は口元を押さえる。


ひまりがすぐに指を差した。


「また笑った!」


「笑ってない」


「隠した!」


「隠してない」


「もう一回やる!」


「やらなくていい」


「木曜日のお姉ちゃん!」


「続くの」


ひまりは床に座り込んだ。


そのまま、ゆっくり横へ倒れる。


「倒れないで」


「今のが木曜日!」


「じゃあ金曜日は」


ひまりは床に仰向けになった。


動かない。


さっきのセミの抜け殻と同じだった。


私は耐えきれず、少し笑った。


「同じじゃん」


ひまりが勢いよく起き上がる。


「笑った!」


「同じだったから」


「二回笑った!」


「数えないで」


「今日は勝ち!」


「何に」


「お姉ちゃん笑顔チャレンジ!」


そんな競技、聞いていない。


ひまりは得点表を取った。


私の欄に、大きな丸を二つ書く。


「なんで私に点が入るの」


「笑ったから!」


「笑うゲームじゃなかったでしょ」


「今日からそうなった!」


勝手にルールが変わった。












ひまりは満足そうに得点表を眺めている。


私はソファへ戻った。


スマートフォンを手に取る。


ひまりも隣へ座る。


近い。


肩が触れる。


「ゲーム終わったんでしょ」


「うん!」


「じゃあ離れて」


「やだ!」


「一人で遊んで」


「一人じゃ、お姉ちゃん笑わないもん!」


「当たり前でしょ」


ひまりは、また得点表を見た。


大きな丸が二つ。


たったそれだけで、妙に嬉しそうだ。


私はスマートフォンの画面をつける。


特に見たいものはない。


隣では、ひまりが鈴を一度だけ鳴らした。


ちりん。


「何」


「今日の記念!」


何の記念なんだろう。


一人で遊べばいいのに。





私の妹は、遊んでいるときも気持ち悪い。

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