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妹は私に詳しすぎる

休日の午後。


私はリビングのテーブルに、コンビニで買ってきた袋を置いた。


中からプリンを取り出す。


期間限定。


焦がしキャラメル味。


パッケージには、大きな文字で濃厚と書いてある。


「お姉ちゃん、それ食べるの?」


ソファにいたひまりが、すぐに近づいてきた。


「そのつもりで買った」


「好きじゃないと思う!」


「まだ食べてないけど」


「たぶん好きじゃないよ!」


食べる前から決めないでほしい。


私は冷蔵庫へプリンを入れた。


ひまりも後ろからついてくる。


「どうしてそう思うの」


「焦がしキャラメル、苦手だから!」


「別に苦手じゃない」


「苦手だよ!」


本人より強く断言された。


「いつ私が言ったの」


「言ってないよ!」


「じゃあ分からないでしょ」


「分かるよ!」


分かられているらしい。


ひまりは冷蔵庫の中を覗き込んだ。


近い。


私は扉を閉めた。


ひまりの顔が挟まりそうになる。


「危ない」


「避けた!」


「最初から離れて」


「プリン、いつ食べる?」


「あとで」


「やめた方がいいと思う!」


「どうしても食べさせたくないんだね」


「お姉ちゃん、焦がした味好きじゃないもん!」


「焦がした味って何」


「ちょっと苦いやつ!」


説明が雑だった。


私はソファへ座った。


スマートフォンを手に取る。


ひまりも隣に座る。


肩が触れる。


「近い」


「プリンの話、まだ終わってない!」


「もう終わった」


「前にも同じことあったよ!」


私は画面を見たまま返事をする。


「何が」


「焦がしキャラメルのアイス!」


「覚えてない」


「二口食べて、もういらないって言った!」


「いつ」


「去年!」


範囲が広い。


「夏!」


少し狭くなった。


「夜!」


時間帯まで出てきた。


「私が食べたの?」


「うん!」


「二口でやめた?」


「うん!」


「残りは」


「私が食べた!」


そこだけ嬉しそうだった。


「じゃあ、ひまりが食べたいだけでしょ」


「違うよ!」


「じゃあプリンは私が食べる」


「食べていいけど、たぶん一口でいらなくなる!」


さっきより減っている。


私はスマートフォンを置いた。


「なんでそんなこと覚えてるの」


「お姉ちゃんのことだから!」


答えになっていない。


ひまりは当然のような顔をしている。


「ほかにも覚えてるよ!」


「聞いてない」


「お姉ちゃんは、プリンなら固い方が好き!」


「そうだっけ」


「柔らかすぎると飲み物みたいって言う!」


言った気もする。


「カラメルは多い方が好き!」


「普通じゃない」


「でも苦すぎるのは嫌い!」


「面倒な好みだね」


「お姉ちゃんの好みだよ!」


自分で自分を面倒にされた。












ひまりは指を一本立てた。


「あと、疲れてるときは甘いもの食べない!」


「食べるでしょ」


「食べないよ!」


「甘いもの好きだし」


「疲れてないときはね!」


意味が分からない。


「疲れてるときは、しょっぱいもの食べる!」


「そうなの」


「昨日もポテトチップス食べてた!」


「昨日は疲れてない」


「鞄、床に置いてたよ!」


私は少し考えた。


昨日、帰宅してから鞄をどこへ置いたか。


覚えていない。


「それと何の関係があるの」


「お姉ちゃん、疲れてる日は鞄を床に置くから!」


「いつも置いてるでしょ」


「いつもはソファの横!」


細かい。


「靴もそろえない!」


「そろえてる」


「昨日はそろえてなかった!」


「見てたの」


「見えるもん!」


見える場所にあるから仕方ないらしい。


ひまりは、さらに指を一本立てた。


「眠い日は、お風呂から出たあと髪を乾かすのが遅い!」


「普通じゃない」


「本当に眠い日は、眠いって言わない!」


「どういうこと」


「眠いって言える日は、まだ元気!」


妙な基準だった。


「じゃあ、本当に眠い日は何て言うの」


「何も言わない!」


「それは寝てるんじゃない」


「起きてるけど、こうなってる!」


ひまりが目を半分閉じた。


口を少し開け、両腕をだらりと垂らす。


この前の「月曜日のお姉ちゃん」と同じだった。


「またそれ」


「本当に眠いお姉ちゃん!」


細かく分類しないでほしい。














ひまりは立ち上がった。


テーブルの上にあった紙とペンを取る。


「お姉ちゃんクイズする!」


「しない」


「第一問!」


始まった。


「お姉ちゃんが疲れてるとき、最初にすることは?」


「知らない」


「正解は、鞄を床に置く!」


「さっき聞いた」


「第二問!」


聞いていない。


「お姉ちゃんが機嫌悪いとき、スマートフォンの音量はどうなるでしょう!」


「変わらない」


「小さくなる!」


「なんで」


「音がうるさいって言うから!」


そうだっただろうか。


ひまりは紙に丸を書いた。


「不正解!」


「私のことなのに」


「お姉ちゃん、自分のこと知らないね!」


少し腹が立つ。


「第三問!」


ひまりは楽しそうに続ける。


「お姉ちゃんが笑ったあとにすることは?」


「何もしない」


「咳払い!」


「しない」


「するよ!」


「してない」


「昨日もした!」


「昨日、笑ってない」


ひまりが一瞬だけ黙った。


「一昨日!」


日付をずらした。


「何で咳払いするの」


「笑ったのを隠すため!」


「隠してない」


「隠してる!」


本人の意思が採用されない。


ひまりは、また紙に丸を書いた。


「三問連続不正解!」


「私のことを、私に聞いてるんだけど」


「だから難しいんだね!」


どういう理屈なんだろう。














「じゃあ、私から問題」


「やった!」


ひまりが椅子に座り直した。


背筋を伸ばす。


両手を膝の上に置く。


妙に真剣だ。


「ひまりの好きな食べ物は」


「簡単すぎる!」


「答えて」


「プリン!」


「正解」


ひまりが両手を上げた。


「やったー!」


「いつも食べてるから」


「覚えてた!」


それだけで嬉しそうだった。


「次!」


「もう終わり」


「一問だけ!?」


「一問で十分でしょ」


「もっと私のこと聞いて!」


「自分で問題を出して」


「それだと知ってることしか聞けない!」


当たり前だった。


ひまりは少し考えた。


「私の好きな色は?」


「黄色」


「正解!」


「部屋に黄色いもの多いから」


「私の好きな季節は?」


「春」


「正解!」


「名前がひまりなのに?」


「夏じゃないよ!」


引っかけだったらしい。


「私が一番好きな人は?」


「知らない」


ひまりが固まった。


「そこはお姉ちゃんでしょ!」


「自分で言うんだ」


「大事な問題!」


「聞かなくても知ってる」


ひまりの表情が止まった。


ほんの一瞬だけ。


それから、顔が明るくなる。


「知ってた!」


「毎日言ってるから」


「覚えてた!」


また同じことを言った。


ひまりは紙に大きな丸を書く。


さっきまで私の不正解を記録していた紙だった。


「お姉ちゃん、二点!」


「基準が分からない」


「私のこと覚えてたから!」


「普通でしょ」


「普通じゃないよ!」


声が少し大きかった。


私はひまりを見る。


ひまりはすぐに笑った。


「嬉しいってこと!」


「そう」


それならいい。
















しばらくして、冷蔵庫に入れたプリンを思い出した。


私は立ち上がる。


ひまりも立ち上がる。


「食べるの?」


「うん」


「ほんとに?」


「食べたくて買ったから」


冷蔵庫からプリンを取り出す。


スプーンも持って、テーブルへ戻った。


ひまりは向かい側へ座る。


また見ている。


「食べないでね」


「取らないよ!」


蓋を開ける。


焦がした砂糖の匂いがする。


一口食べた。


思ったより苦い。


そのまま、もう一口食べる。


ひまりがこちらを見ている。


「どう?」


「普通」


「好き?」


「普通」


もう一口食べようとした。


少し迷う。


スプーンを置いた。


「いる?」


ひまりの顔が明るくなった。


「いる!」


プリンを差し出す。


ひまりは受け取りながら、得意そうに笑った。


「やっぱり好きじゃなかった!」


「お腹いっぱいになっただけ」


「二口だった!」


「三口食べた」


「二口半!」


勝手に減らさないでほしい。


ひまりはプリンを一口食べた。


「おいしい!」


「よかったね」


「お姉ちゃん、前も同じ顔してたよ!」


「どんな顔」


「失敗したって顔!」


「してない」


「してた!」


ひまりは笑いながらプリンを食べている。


私はスマートフォンを手に取った。


ひまりがスプーンを止める。


「お姉ちゃんのことなら、何でも覚えてるよ!」


「忘れていいことまで覚えてるでしょ」


「忘れたくないもん!」


明るい声だった。


私は画面を見る。


特に見たいものはない。


隣では、ひまりがプリンを食べている。


おいしそうに。


私は、ひまりの好きな食べ物を覚えていた。


それだけで、ひまりはあんなに喜んだ。


そんなことで喜ぶんだと思った。





私の妹は、私に詳しすぎて気持ち悪い。

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