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ぶつかりおじさん、異世界に転生する。  作者: 秋ヶ瀬胡桃


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第2話 冒険者!

「ふはははは! 俺の時代がキターー!」


 森の中で若返った自分の体に大興奮していると、ガサガサと不穏な音が周囲の草叢くさむらから響いた。

 ……ん? なんだ? 野生の熊とかだったら、若返り初日にして即ゲームオーバーなんだけど!?


「ギギッ?」


「ゴブ、ゴブブッ!」


 草むらから這い出てきたのは、俺の腰くらいまでしか身の丈がない、緑色の肌をした不細工なチビども。

 濁った目でこっちを睨み、手には粗末な木切れの棍棒を握りしめている。


「これって……ファンタジーの定番、ゴブリンじゃん!」


 うわ、生で見るとマジでキモい。やけに嫌悪感を抱かせる姿だ。

 しかも約十匹。こんなキモいやつらに囲まれるとか、勘弁して欲しい。

 せめて可愛いケモ耳美少女に囲まれたかった。

 ゴブリンたちは「カモを見つけた」とばかりに、不快な笑みを浮かべて一斉に飛びかかってくる。


「ギギィーーッ!」


「うわっ、来るなクソガキども!」


 俺は咄嗟に身を翻し、前世のサラリーマン時代に培った(?)必殺のスキルを発動した。

 そう、駅の人混みで鍛え上げた『ぶつかりタックル』である!

 狙いを定めた先頭のゴブリンに向け、体重を乗せて肩から鋭く突っ込んだ。


 ――ズドォォォンッ!!!


「ギブブッ!?」


 もの凄い破壊音と共に、タックルを喰らったゴブリンが目にも留まらぬ速さで後方へ吹っ飛んでいく。

 そのまま木に激突し、バキバキと音を立てて幹をへし折りながら絶命した。

 え、オーバーキルすぎない?


「マジかよ……俺、めちゃくちゃ強くなってね?」


 確信した。あの女神様、俺に『好き勝手生きられる力』として、とんでもない身体能力を授けてくれたらしい!

 こうなれば、もうこいつらはただの「ちょっと動くカカシ」だ。


「ヒャッハー! 次はどいつだぁ!」


 俺は地面に落ちていたゴブリンの棍棒をひょいと拾い上げると、残りのチビどもに向けて思いっきりスイングした。


 ――グシャッ! ボキッ! ベキッ!


「ギギェッ……!?」


「ブギッ……!」


 面白いように当たる。というか、俺の腕力がヘラクレス級になっているせいで、軽く振っただけでゴブリンたちの脳天が文字通り消し飛んでいく。

 あっという間に、あたり一面は静寂に包まれ、ゴブリンたちは綺麗に全滅していた。


「ふぅ、ちょっといい汗かいたわ」


 ふと足元を見ると、ゴブリンの死骸がキラキラと光の粒子になって消え、その場に綺麗な宝石が転がっていた。

 へえ、モンスターを倒すとドロップアイテムが出る仕様なのか。ゲームみたいで最高じゃん!

 俺は落ちていた宝石を一つ残らず拾い集め、ポケットに詰め込んで森を歩き始めた。


 ◇


 一時間ほど歩くと、目の前に巨大な石造りの壁が見えてきた。

 門をくぐると、そこは活気にあふれた中世ヨーロッパ風の街並み。行き交う人々は、これまたラノベでお馴染みのファンタジーな格好をしている。


「……あれ? みんな何て言ってるか普通に分かるな」


 言語翻訳のスキルも標準装備されているらしい。至れり尽くせりだ。

 ぶらぶらと歩いていると、いかにも怪しげで、だけど最高にそそる大きな看板を見つけた。剣と盾が交差したマーク――間違いない、冒険者ギルドだ!

 心の中で「たのもーう!」と叫びながら、重厚な扉を押し開ける。

 中は酒場と受付が一体になった、これまたテンプレ通りの空間。俺は受付の綺麗なお姉さんに歩み寄り、さっき拾った宝石をドサッと机に置いた。


「あ、あの、これ、かき、換金お願いします」


 前世で人との会話が苦手だったせいで噛んでしまった。


「あら、冒険者様ですね。少々お待ちください……って、ええっ!? これ、ゴブリンジェムの上位種ですか!? しかもこんなにたくさん!」


 お姉さんは目を丸くして驚き、奥でガサゴソと計算を始めた。

 おいおい、もしかして俺、初手からやっちゃいました?


「お待たせいたしました! 合計で、一万ゴールドになります!」


「へえ、一万……」


 お姉さんから手渡されたのは、ずっしりと重い金貨の袋。

 この世界の物価は分からないが、お姉さんの興奮具合からして、一般庶民がしばらく遊んで暮らせるだけの大金であることは間違いない。

 前世の手取り二十万の社畜が、異世界に来て数時間で大富豪に成り上がってしまった。


「よし……金もあることだし、まずは形から入るか!」


 自信を得た俺はギルドを後にした。

 顔つきがより一層男らしくなっていたはずだ。

 近くにあった武器と防具の店へと飛び込む。

 店内には、男のロマンをくすぐる様々な武具が並んでいた。


「親父! 一番強そうな剣と、頑丈な防具をくれ! 金ならある!」


 もう人と話すのに噛んだりはしない。


「ほう、兄ちゃん、景気がいいねえ!」


 俺は一万ゴールドを贅沢に使い、いかにも切れ味の鋭そうな大剣と、鈍い銀色に光るフルプレートの防具を買いそろえた。


 そして――ここからが俺の譲れないこだわりだ。


「店主、この防具にちょっとした『特注の改造』を頼みたいんだが」


「あん? 改造だって?」


 俺は前世のバイブルだった、あの世紀末が舞台の漫画を思い出していた。

 そうだ、俺のアイデンティティは『ぶつかり』。ならば、ぶつかる部位を最強に尖らせるべきだろう。


「この両肩の防具、肩当てとか肩パッドとかいうの? を、もっとこう……ゴツく盛り上げてくれ。それで、その上にザクみたいに、円錐形の金属のトゲトゲを何本かずつ植え付けて欲しいんだ!」


「ザ、ザク……? よく分からんが、肩にトゲを生やすんだな? へっ、物好きな兄ちゃんだ。だが腕の見せ所だ、任せときな!」


 数時間後。 店の鏡の前に立つ俺の姿は、まさに世紀末のモヒカンどもが泣いて逃げ出すレベルの、超アグレッシブなトゲトゲ肩パッド戦士へと変貌を遂げていた。

 肩をちょっと怒らせるだけで、凶悪なトゲがギラリと光る。


「ククク……完璧だ。これぞ俺の『ぶつかり専用アーマー』だ!」


 若返ったイケメン風の顔立ちに、世紀末すぎる肩パッド。このアンバランスさが逆に新しい(気がする)。

 誰もが振り返る最強の装備を身にまとった俺は、異世界で出会うであろう美少女たちとのハーレム展開に胸を膨らませ、再びニヤリと笑うのだった。

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