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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


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99話:鉄道構想

都市は広がっていた。


石畳。


上下水路。


巨大倉庫。


病院。


学校。


紡織工場。


鍛冶区画。


農地。


住宅街。


市場。


物流拠点。


以前は“村”だった場所が、今では完全に都市へ変わっている。


人も増えた。


エルフ。


ドワーフ。


魔族。


ダークエルフ。


獣人。


人族。


様々な種族が自然に歩いている。


争いは少ない。


理由は単純だった。


腹が減っていない。


病で死なない。


仕事がある。


教育がある。


だから人は落ち着く。


環境が変わると、人は変わる。


グロマールが作っているのは“支配”ではなかった。


循環。


それだけだった。


都市中央。


巨大会議室。


長机に地図が並ぶ。


セレスが腕を組みながら地図を見ていた。


冷静な瞳。


細い指が街道をなぞる。


「限界ね」


ミレナが首を傾げる。


「何が?」


「物流」


セレスは即答した。


「人が増え過ぎた」


「物資量も増えた」


「今の荷車方式だと、数年以内に詰まる」


誰も反論しない。


実際、物流量は異常だった。


食料充足率300%超。


農業革命。


紡織産業。


薬。


保存食。


金属。


全部が大量生産されている。


しかも輸出量が増え続けている。


ジミーが頭を掻く。


「最近マジで道路渋滞してんだよな」


「荷車多過ぎる」


マイクが笑う。


「戦争より物流の方が怖ぇな」


それは事実だった。


この都市は戦争より先に物流で世界を変え始めている。


セレスが静かに言う。


「だから次へ行く」


彼女は地図上へ線を引いた。


一直線。


都市から王都。


さらに周辺国家。


「鉄道構想」


空気が変わる。


聞き慣れない言葉。


ミレナが眉をひそめた。


「鉄……道?」


セレスは説明する。


「荷車を大量連結する」


「専用道路を作る」


「人力ではなく、ゴーレム動力で動かす」


グロマールが静かに目を細める。


理解していた。


つまり。


物流の固定化。


高速化。


大量輸送。


革命。


セレスは続ける。


「今までは“点”だった」


「これからは“線”で支配する」


ジミーが吹き出す。


「怖ぇ事さらっと言うなぁ」


セレスは平然としている。


「物流は世界を支配する」


「軍より強い」


それはグロマールの思想に近かった。


武力は破壊。


物流は依存。


一度依存が始まれば、人は離れられない。


セレスが新しい図面を出す。


そこには大型ゴーレムが描かれていた。


「まずはゴーレムバス」


「次にゴーレムトラック」


マイクが笑う。


「名前そのまんまじゃねぇか」


「分かりやすい方がいい」


セレスは真顔だった。


ゴーレムバス。


人員輸送。


長距離移動。


病院搬送。


学校通学。


都市間交通。


ゴーレムトラック。


大量輸送。


物流革命。


農作物。


紡織品。


金属。


保存食。


全部を運ぶ。


しかも疲労しない。


止まらない。


グロマールが設計図を見る。


「面白い」


その一言で決定した。


都市開発班が動き出す。


石畳工事。


道路拡張。


橋梁建設。


魔力供給路。


ゴーレム核。


全部が同時進行。


都市がまた一段階進化する。


数日後。


試験運用。


巨大なゴーレム車両が都市中央に並ぶ。


人々がざわつく。


「何だあれ……」


「鉄の建物みたい……」


「動くのか?」


全長十メートル超。


多輪構造。


分厚い石鉄装甲。


内部には椅子。


荷台。


魔力循環炉。


グロマールが静かに魔力を流す。


魔力操作。


循環。


制御。


ゴーレム核が起動する。


低い振動音。


車輪が動く。


人々が息を呑む。


ゴーレムバスがゆっくり前進した。


静かだった。


馬がいない。


人力でもない。


それでも動く。


子供達が歓声を上げる。


「すげぇ!」


「動いた!」


「速い!」


ピーターが優しく笑う。


孤児達が目を輝かせていた。


彼らは理解している。


これは“未来”だと。


以前の世界では考えられなかった。


移動とは疲労だった。


危険だった。


病だった。


盗賊だった。


今は違う。


安全。


大量輸送。


高速。


人が自由に移動できる。


教育も。


医療も。


物流も。


全部が変わる。


セレスは静かに呟く。


「国っていうのはね」


「結局、“移動速度”なのよ」


ミレナが感心したように見る。


「そこまで考えてたの……?」


セレスは肩をすくめる。


「グロマールが作った環境なら可能だっただけ」


事実だった。


教育。


技術。


食料。


魔力。


全部が循環している。


だから発展が止まらない。


ゴーレムトラックも動き始める。


荷台には大量の穀物。


紡織品。


薬草。


保存肉。


以前の荷車十台分。


それを一台で運んでいる。


ジミーが笑い始めた。


「終わったな、王都」


「物流速度で勝てる訳ねぇ」


ダグラス商会の商人達も青ざめていた。


理解してしまった。


これはもう“商会”の次元じゃない。


国家インフラ。


文明。


世界そのものが変わり始めている。


エバが静かに笑う。


「貴族達、卒倒するでしょうね」


実際、その通りだった。


王都側では既に混乱が始まっていた。


都市商品が強過ぎる。


物流速度が異常。


価格競争で勝てない。


さらにゴーレム輸送。


既存物流が崩壊する。


古い商会が潰れる。


古い貴族も潰れる。


時代そのものが変わる。


グロマールは遠くを見る。


石畳。


走るゴーレム。


笑う子供達。


働く人々。


誰も怯えていない。


それが全てだった。


彼は英雄ではない。


王でもない。


ただ循環を始めた。


教育。


物流。


食。


医療。


それが人を変える。


セレスが横へ並ぶ。


「ここまで来たわね」


グロマールが静かに答える。


「まだ途中だ」


セレスが少し笑う。


「そういうと思った」


都市の外。


新しい街道工事が始まっていた。


世界へ伸びる道。


人が流れる。


物が流れる。


知識が流れる。


環境が、人を育てる。


その循環は、もう誰にも止められなかった。







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