表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

100/322

100話:世界の均衡

冬が近づいていた。


空気は冷たい。


それでも都市は止まらない。


石畳をゴーレムバスが走る。


巨大なゴーレムトラックが農産物を運ぶ。


紡織区画では機織り音が鳴り続け、鍛冶区画では赤熱した鉄が夜まで光っている。


市場には人が溢れていた。


エルフ。


ドワーフ。


魔族。


獣人。


人族。


種族は違う。


それでも同じ鍋を囲み、同じ通貨を使い、同じ仕事をしている。


以前では考えられなかった光景だった。


病で倒れる者は激減した。


飢える者も減った。


孤児は教育を受ける。


老人には介護がある。


食料充足率300%超。


農業革命。


紡織産業。


物流革命。


教育制度。


全部が循環し始めている。


都市は、もはや“国”だった。


そして。


その存在が、世界の均衡を崩し始めていた。


北方小国ベルグア。


人口三十万。


寒冷地国家。


痩せた土地。


慢性的な食糧不足。


王城会議室。


老王が報告書を見ていた。


眉間に深い皺。


「……本当か」


側近が重く頷く。


「事実です」


「南方都市グロマール領」


「現在、食料輸出量が我が国の国家備蓄を超えました」


空気が凍る。


将軍が低く呟く。


「あり得ん……」


農務大臣も顔色が悪い。


「しかも価格が異常です」


「我が国の三分の一以下」


「輸送速度は五倍以上」


「保存期間も長い」


「さらに病人発生率が激減しているとの情報もあります」


老王が椅子にもたれた。


理解してしまった。


これは単なる新興都市ではない。


文明。


国家構造そのもの。


経済。


軍事。


教育。


医療。


全部を同時に変えている。


老王が静かに言う。


「戦争になれば勝てるか?」


将軍が沈黙した。


答えられない。


戦争は兵数ではない。


兵站。


食料。


医療。


輸送。


今の時代、その全てを握っているのはグロマール側だった。


別の小国。


森林国家リーフェルト。


こちらでも同じ会議が開かれていた。


若い女王が報告を読む。


「教育水準?」


文官が答える。


「異常です」


「孤児ですら高位魔法を扱う」


「治癒士育成速度も異常」


「文字識字率も急上昇」


「さらに全種族共存が成立しています」


女王が目を閉じる。


「そんなもの……国家じゃない」


「理想郷でしょう」


誰も否定しなかった。


問題は。


理想郷が現実に存在している事だった。


西方商業国家。


巨大商会連合。


こちらでも混乱していた。


「価格競争で勝てない!」


「輸送速度が違い過ぎる!」


「紡織品品質が高過ぎる!」


「保存食市場を全部持っていかれるぞ!」


商人達が怒鳴り合う。


以前なら有り得なかった。


地方都市一つに世界経済が揺らされている。


ダグラス商会。


王都最大級商会。


その会議室。


ジミーが足を組んで座っていた。


周囲は大商人ばかり。


普通なら場違い。


しかし今、誰も彼を軽視できない。


物流を握っている。


在庫を握っている。


価格を握っている。


つまり命を握っている。


老商人が低く言う。


「値上げしたな」


ジミーは笑った。


「少しだけ」


「でも買うだろ?」


誰も否定できない。


買うしかない。


質が違う。


量が違う。


輸送が違う。


世界が既に依存し始めている。


ジミーは軽い調子で笑っている。


それでも目は鋭かった。


“弱者のズルさ”。


それを知っている。


だから読む。


相手が何を恐れるか。


どこで頭を下げるか。


全部分かる。


「安心しろよ」


「潰す気はねぇ」


「ちゃんと利益は配る」


商人達が顔を上げる。


ジミーは続けた。


「でも逆らうなら別だ」


空気が重くなる。


それは脅しではない。


現実だった。


物流が止まれば国が死ぬ。


今やグロマール都市は、その位置にいる。


一方。


王都貴族街。


豪華な晩餐会。


エバが微笑んでいた。


周囲には貴族達。


皆、彼女へ媚びている。


理由は単純。


情報。


物流。


商会。


全部が繋がっているから。


若い伯爵が探るように聞く。


「グロマール殿は……王になる気が?」


エバは優雅にワインを揺らした。


「ありませんよ」


伯爵が安堵した瞬間。


エバは静かに続ける。


「でも」


「皆さんが勝手に依存しているだけです」


貴族達の顔が引き攣る。


エバは笑顔を崩さない。


「怖いですか?」


誰も答えられない。


怖い。


当然だった。


武力国家ではない。


侵略国家でもない。


それなのに世界が飲み込まれていく。


環境で。


教育で。


物流で。


食料で。


エバは理解していた。


グロマールが恐ろしい理由。


彼は支配しようとしていない。


それなのに、人が集まる。


人が離れない。


それが最も強い。


都市中央。


夜。


グロマールは高台から都市を見ていた。


灯りが広がる。


以前は闇しかなかった。


今は違う。


人の営みがある。


笑い声。


工場。


学校。


病院。


市場。


全部が生きている。


ミレナが隣へ来る。


少し寒そうだった。


「また考え事?」


グロマールが静かに頷く。


「小国が警戒してる」


ミレナは苦笑した。


「そりゃそうでしょ」


「こんなの見たら怖いわよ」


グロマールは少し黙った。


「俺は支配したい訳じゃない」


ミレナは即答した。


「知ってる」


「だから皆ここにいるの」


彼女は都市を見る。


子供達が走っている。


種族を超えて笑っている。


以前では有り得なかった。


「環境って怖いわね」


ミレナが小さく呟く。


「人って、こんなに変わるんだ」


グロマールは静かに答える。


「人は元々持ってる」


「育たなかっただけだ」


教育。


食事。


安全。


仕事。


それがあれば人は変わる。


逆に。


飢え。


病。


恐怖。


無知。


それが人を壊す。


世界は長い間、後者だった。


だからグロマール都市は異常に見える。


本来あるべき姿を、誰も知らなかっただけ。


セレスも高台へ来る。


いつもの冷静な顔。


「各国、同盟協議始めたわ」


ミレナが顔をしかめる。


「やっぱり?」


「当然」


セレスは淡々としている。


「均衡が崩れ始めた」


「世界は今、“グロマール前”と“後”で分かれ始めてる」


風が吹く。


都市の灯りが揺れる。


遠くではゴーレムトラックが夜間輸送を続けていた。


止まらない。


循環は止まらない。


セレスが小さく笑う。


「でも」


「面白くなってきた」


グロマールは何も言わなかった。


彼は王ではない。


英雄でもない。


ただ循環を始めただけ。


それでも。


世界の均衡は、確実に変わり始めていた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ